「見せる」時代:プロフェッショナルとして、企業人である前に個人であること

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フリーランスになって3年半が経ちました。よっぽど惚れ込むようなチームと出会わない限り、このままフリーランスを続ける予定。フリーになる前は、いくつかのベンチャー企業に勤め、どちらも経験した身としてフリーランスの魅力を一言で表現するなら、三橋ゆか里として仕事ができること。○○株式会社の三橋ゆか里でもなく、○○会社のマーケティング担当者でもない。マーケティング担当者に後任はいても、三橋ゆか里に後任はいない。それが自由であると同時にチャレンジでもあり、また醍醐味でもあると思っています。 自分の名前で仕事をとってくるのですから、当然いかに自分を上手くアピールするかという「セルフブランディング」が伴います。では、セルフブランディングは個人で仕事をする人のためだけなのかというと、そんなことはありません。そもそも終身雇用というものが存在しなくなった今では、企業で働いていても同時に一個人であることが求められる。少なくとも長期的なキャリアを考えると、普段から勤め先の名刺の枠を越えて活動し、自分を見せていくことが役立つはずです。 例えば、協調を重んじる日本に比べてより実力主義だといえる米国。中でもIT業界では、終身雇用(英語でLifetime Employment)を求める人は皆無といってもいいと思います。仮に求めようと思ってもそんなものは存在しません。米国の採用は”At-will Employment”と言われるものが多く、そこに雇用契約は存在しないのです。1年、3年といった雇用期間の約束はなく、雇い主はいつ解雇してもいい、また雇用される側もいつでも辞めることが許される。そのため、お互いにロイヤリティのような感情が生まれず、最初から最後までドライでいられるのかもしれません。そんな環境ですので、転職しようと思ってから動くのではなく、常に次のための種を巻いておくことが必要になります。 そんな働く米国人が、キャリア形成やセルフブランディングのために積極的に活用するのが、2億5000万人が活用するプロフェッショナルネットワークの「LinkedIn」です。世界19カ国語以上に対応し、日本にも2011年10月に本格上陸しました。ご存知のように、日本ではFacebookがLinkedInのような使われ方をしています。親しい友人だけでなく、カンファレンスで名刺交換をした人とも繋がる。この仕事上のネットワーキングだけに特化したものがLinkedInです。勤め先や仕事内容、職務経歴、今後やりたいこと、またネットワーク(人間関係)、他者推薦などから成るプロフィールを登録できる。これらの情報が個人の評価になって、場合によってはヘッドハンティングなどのオファーが届くこともあります。 情報発信や情報収集のあり方が完全に変わってしまった今、優秀な人材は必ず他社の目にもとまり、仮に本人が積極的にPRしなくても周囲に伝わっていくものです。もはや秘密兵器を秘密にしておくことはできない時代。LinkedInでは、現職だけでなく過去の経歴も包み隠さず見せることで、新天地への転職がゼロからのスタートではなく一つのパス(path)になるのです。 これまで見せなかったものを見せることで、既存のあり方にチャレンジするのが「WILD CARD」という国内サービスです。その「見せるもの」とは、なんと内定証明書。就職活動中の学生は、一企業からもらった内定をもとに他社選考を飛び級することができます。企業からスカウトを受けた学生は、エントリーシートの入力や筆記試験、グループ選考といった就職活動の初期ステップを省いて、いっきに人事や役員面接から始めることができる。内定という一種の評価を「見せる」ことで、キャリアのスタート地点のオプションが広がる。優秀な人材に関しては、それがスポーツであれビジネスであれ、いつでも売り手市場なのですね。 また採用する側にも、普段から現場の情報を積極的に発信することでより適切な人材を見つけるための取り組みが見られます。例えば、国内サービスのソーシャル・リクルーティングサービス「Wantedly」。Facebookアカウントを使って登録すると、企業の会社訪問やさまざまなプロジェクトに招待されます。会社の人事担当ではなく、あらゆるポジションの社員がリクルーターとなって、社外の人間と関わりを持つことで適切な人材を見つけていく。いざ特定のポジションの人員に欠員が出てから採用活動をするのではなく、普段からポテンシャルのある見込み社員に出会う場を設ける。米国の「LifeSwap」は、さまざまな職種を体験できるサービスです。2012年3月にシリコンバレーで誕生し、Facebookのような人気IT企業から、地元のケーキ屋さんや化粧品メーカーの広報まで、その職種につく人の一日や仕事ぶりを追うことができる。天職により近づくための一歩が踏み出せるのです。 採用する側も採用される側も、「見せる」時代。これらを昔から上手にやっているのが、特にシリコンバレーなどにいるエンジニアではないかと思います。そのスキルで実際にサービスを形にできる、業界で強いポジションにいる人材。彼らは普段から会社外で個人またグループのプロジェクトを立ち上げたり、その内容をブログで発信したりしています。もちろん、新しいことや新たな技術に挑戦することが好きというエンジニアに共通する性質もあるでしょうが、何より競争が激しい職種だから。日々変化が訪れるスピードについていき、常に新しい技術を習得し、新しいものを生み続けることが求められる。若い人材が次々に入ってくる激しい人材競争の中でも生き残れるよう、企業人である前に個人であることが重要になる。GitHubのようなソフトウェア開発プロジェクトのサービスが人気なのも、それが自分の能力を世に発信するツールだからだといえます。 ではエンジニアではない人はどこから始めればいいのか。いきなりブログなんて難しい、という人は、まずはFacebookやTwitterからでもいいと思います。最初は、自分がGoogleで何かを検索する度にそれを発信してみるとか。例えば、「Lean StartupってEric Riesが書いた本なんだ。Pivot(ピボット)の種類にも色々あるんだな」なんて風に。これを発信するだけでも、見ている人にはあなたのことがいろいろ伝わります。スタートアップ関連の仕事をしている、もしくはそれに関心がある、また最新の情報に敏感であることも。見せないことは見せること以上にリスクを伴い、企業人である前にまず個人であることが求められる時代ではないでしょうか。

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