街の過去と現在が出会う場所 ― 赤坂のカフェ・ホテル「TOKYO LITTLE HOUSE(トーキョーリトルハウス)」

赤坂のカフェ・ホテル「TOKYO LITTLE HOUSE」の外観

仕事でいそがしい日々が続くと、どこかで一息入れたくなる。せめて昼休みくらいはゆっくり落ち着いた場所で過ごしたい。
そんな時に見つけたのが、赤坂の繁華街にぽつんと立った一軒の民家「TOKYO LITTLE HOUSE(トーキョー リトル ハウス)」。
戦後から今日にいたるまで、東京の街の変化を見守り続けてきた小さな家。
建物の1階はカフェ、2階は1室だけのホテル。東京の過去と現在が交錯する空間で、街の歴史を振り返る時間を過ごしてきました。

赤坂の繁華街の中に佇む、東京のちいさなおうち

赤坂のカフェ・ホテル「TOKYO LITTLE HOUSE」の前の道

「TOKYO LITTLE HOUSE」へは、東京メトロ赤坂駅から徒歩3分。2番出口を出て東に赤坂通りをまっすぐ進んだら、赤坂通郵便局の手前の通り(エスプラナード赤坂通り)を左に曲がってすぐのところに家の形をした看板が見えてきます。
地下鉄銀座線もしくは丸ノ内線の赤坂見附駅からは徒歩5分ほど。

赤坂のカフェ・ホテル「TOKYO LITTLE HOUSE」の木の看板

この辺りは居酒屋や飲食店が立ちならぶ繁華街。夜は働く人たちでにぎわいます。カラフルな看板が並ぶ中ひっそりと佇む、築70年の木造一軒家。まるでここだけ時間が止まっているかのよう。

ゆっくり過ごせる1階のカフェと、2階のホテル

赤坂のカフェ・ホテル「TOKYO LITTLE HOUSE」1階のカフェ&ギャラリー店内

建物の1階のカフェ&ギャラリーでは、ハンドドリップでていねいに淹れたコーヒーや焼き菓子をいだたけます。カフェと合わせて、東京の歴史をテーマにした展示も楽しめるのだそう。

赤坂のカフェ・ホテル「TOKYO LITTLE HOUSE」1階のカフェのカウンター

テーブル席が2つとカウンター席があり、コーヒーの匂いがふわりと漂う静かな空間。あたたかみのある木製の椅子やテーブルが安らぎを与えてくれます。

建物の2階部分は、旅の拠点となるホテルとして活用。宿泊は原則3泊以上からの中期滞在者向けとなっています(最大5人まで利用可能)。

3世代にわたって暮らし続けてきた家族の家

「TOKYO LITTLE HOUSE」は、地図制作や出版関係の仕事をしている深澤晃平さんと妻の杉浦貴美子さん、執筆や翻訳を手がけるサム・ホールデンさん、深澤さんの実妹でカフェ担当の深澤愛(あい)さんの4人で運営しています。

赤坂のカフェ・ホテル「TOKYO LITTLE HOUSE」を運営するスタッフ達

左からサム・ホールデンさん、深澤晃平さん、杉浦貴美子さん、深澤愛さん

ここは3世代にわたって家族が住み暮らし続けてきた家。戦後まもない1948年に建てられた2階建ての木造家屋には、かつて深澤さんの祖父母、そして母が住んでいました。

「TOKYO LITTLE HOUSE」のリーフレットにあるヒストリー

画像提供:TOKYO LITTLE HOUSE

建築当初は暮らしの舞台だった1階は、時代の流れとともに テナントに貸し出すように。ブティックやケーキ屋、不動産屋、花屋、イタリア料理屋などさまざまなお店として使われてきました。
2階は1990年代のはじめ頃まで祖母が暮らした後、親戚が住み、その後当時大学生だった深澤さんが住むようになったそうです。

海外を旅して気づいた「東京の面白さ」

「TOKYO LITTLE HOUSE」の運営者

学生時代の長期休みに、外国の都市を訪れては街を歩きまわっていたという深澤さん。幼い頃から通っていた祖父母の家にあらためて自分が住んでみると、「東京が外国の都市を旅行する時のように面白く感じた」のだとか。

夜の赤坂の街とカフェ・ホテル「TOKYO LITTLE HOUSE」

画像提供:TOKYO LITTLE HOUSE

深澤さん:「東京は新しい建物が立ち並んでいて、キラキラしたイメージの街だと思うのですが、そうした中に突如としてこの家のような空間がある。『おや?』と思って街をよく歩いてみると、古いお寺や戦前から残っているような建物があったり、入り組んだ坂道の先にうっそうとした茂みがあったり。“いわゆる東京”のイメージと違った風景があって、それにすごく惹かれたんです。この赤坂の家が拠点になったことで、東京は面白い街だとあらためて発見できました」

暮らしはじめた当初から深澤さんは、「いつかこの場所を旅行者の拠点になるような場所にできたら」と意識していたのだそう。

当時の暮らしが見え隠れする、遊び心たっぷりの空間

「TOKYO LITTLE HOUSE」の外にあるスツール

1階のカフェ部分は、DIYが好きな杉浦さんとサムさんが中心になってリノベーションをおこないました。長らくテナントが入っていたため、70年積み重ねた時間の蓄積は表面的にまったく残っていなかったのだそう。
そこで、この家で古くから使われていた建具や生活用品などを再利用し、ユニークな空間につくり替えました。

古い建材や道具をDIY・再利用してつくった「TOKYO LITTLE HOUSE」のインテリア

たとえばお店の入り口のドアノブには昔の下駄(写真左上)、カウンター席の棚の背後にある緑色のボードは雨戸を再利用(写真右上)。さらに洗面台(写真左下)やお店の外に置かれた椅子の座面(写真右下)には、お釜やお釜のフタが使われていました。

お釜は、かつてはこの表通り面してあったという土間の台所のかまどで使われていたもの。今の赤坂からは想像できない昭和の暮らしに思いを馳せつつ、飲み物とお菓子をいただくことに。

日常と非日常を交差させる、一杯のコーヒー

「TOKYO LITTLE HOUSE」のカフェメニュー

お店では、一杯一杯ていねいにハンドドリップで淹れるコーヒーに加え、抹茶ラテやほうじ茶、紅茶、アップルジュースなどがいただけます。

「TOKYO LITTLE HOUSE」でいただいたコーヒー

コーヒーはテイクアウトもできるほか、埼玉・川越にある「コエドブルワリー」のクラフトビールや、目黒に工房をかまえる「もりかげ商店」のお菓子も取り扱っています。

「TOKYO LITTLE HOUSE」で使っている三軒茶屋の「OBSCURA COFFEE ROASTERS」のコーヒー豆

有名コーヒーロースターに長年勤めてきたという深澤愛さんが淹れるコーヒー。豆は、高品質な豆を選んで焙煎しているという三軒茶屋の「OBSCURA COFFEE ROASTERS(オブスキュラコーヒーロースターズ)」から仕入れています。お店には外国人観光客や、ランチ後にコーヒーを飲みにやってくる会社員の方が多いのだとか。

赤坂のカフェ・ホテル「TOKYO LITTLE HOUSE」でコーヒーを淹れる女性

深澤愛さん:「赤坂は観光客の方も多い街。忙しいビジネスマンの方にとっての日常も、観光客の方にとっては非日常。オフィス街という性格上、ここで過ごす時間は決して長くはないというお客様も多いのですが、5分でも10分でもいいので忙しさからいったん離れて、日常と非日常が交差するような場所になれば良いなと思っています」

素朴な味わいのクッキーをコーヒーのお供に

「TOKYO LITTLE HOUSE」で売られている「もりかげ商店」のお菓子

「もりかげ商店」のお菓子は、つばめクッキーと黒胡椒のクッキーを注文しました。どちらも食べた時のザクザクした食感が心地よく、素朴な味わいがコーヒーとマッチしています。黒胡椒のクッキーは、一口で食べられるサイズ感。ピリッとした胡椒が効いた後味がクセになりそう。

「TOKYO LITTLE HOUSE」の抹茶オレ

大きなボウルに入れられたカフェオレや抹茶オレは、好みに合わせてきび砂糖といっしょに楽しめます。まろやかな口当たりでやさしい味。外の様子を窓越しに眺めながら大きく深呼吸すると、自然と心が落ち着いていくような気がしました。

なお、現在(2019年2月)の営業時間は朝の11時から夕方17時までですが、今後は営業時間を延ばすことも検討しているようです。

一冊の絵本のような物語

「THE LITTLE HOUSE」の本棚にある絵本「THE LITTLE HOUSE」

『THE LITTLE HOUSE』(邦訳『ちいさいおうち』/岩波書店 作:バージニア・リー・バートン)は、1943年にアメリカで出版された作品。20世紀前半のアメリカは都市開発が進み、都市環境も大きく変わっていった激動の時代。

絵本の中では、丘の上に建てられた小さな民家が周囲の都市化とともに住み手を失い、郊外へ引っ越すことでハッピーエンドを迎えます。赤坂の家がたどってきた歴史と立ち位置が似通っている部分もあり、この絵本から着想を得て「TOKYO LITTLE HOUSE」と名づけたのだそう。

赤坂のカフェ・ホテル「TOKYO LITTLE HOUSE」の外観

画像提供:TOKYO LITTLE HOUSE

しかし、この建物が絵本と同じように静かな郊外へ引っ越すことはありませんでした。街の変遷を見守ってきた一軒のちいさな民家。「ここに残り続けることでこの家が見てきたものを物語る場所になれたらいいなと思った」と深澤さんは語ります。

コーヒー片手に、東京が歩んできた歴史に触れる

「TOKYO LITTLE HOUSE」に貼られている昔の地図

都市の風景の見方に関心のあった深澤さんが、この家と向き合ったときに考えたのが「この家に住んでいた人が見ていた風景はどんなものだったのか」ということ。この家が建つまでに広がっていた風景。それは「焼け野原」でした。

「TOKYO LITTLE HOUSE」の企画展示品

深澤さん:「『変化し続ける都市』と言われる東京では、以前ここにどういう風景が広がって、人がどういう暮らしをしていたのかを想像する機会は少ないと思います。ただ、僕は今見えなくなってしまったものに興味があって。『焼け跡』とか『焼け野原』って、言葉としてはたまに聞くけれど実際の風景を想像する場所や機会はほとんどないし、僕自身も漠然としたイメージしかありませんでした。でも、いまはかわいらしく建っているこの家はその『焼け跡』に建てられていて、ここに暮らした祖父母や母はその中に生きていた。それってどんな風景だったんだろう、と興味が湧くようになったんです」

「TOKYO LITTLE HOUSE」の看板と展示のサイン

そこで、これまであまり語られてこなかった「かつての東京の風景」に触れる場所をつくりたいと思い、1階のスペースで敗戦直後の東京をテーマにした展示をおこなうことに。

「TOKYO LITTLE HOUSE」の企画展示品

2019年2月時点では企画展示『東京零年』が開催中。占領期の東京を長年にわたって調査・研究している佐藤洋一・早稲田大学教授のキュレーションによるもの

「TOKYO LITTLE HOUSE」の窓越しの展示品

広い窓越しに中の様子を見て、ふらりと展示に立ち寄るお客様も多いのだとか。「『歴史』は博物館の中だけにあるものじゃないと思うんです。街中で、コーヒーを片手に、かつてこの都市に広がっていた風景を想像してもらえたら」と深澤さんは話します。

「TOKYO LITTLE HOUSE」の展示品

深澤愛さん:「展示写真を見て、お客様自身の個人的な記憶や思い出と結びつけてお話ししてくれるお客様もいらっしゃいます。コーヒーがこの場所と東京という都市が持っている記憶をつなぐものになればいいなと思います」

ギャラリーと合わせて楽しみたい書籍

「TOKYO LITTLE HOUSE」の1階店内

画像提供:TOKYO LITTLE HOUSE

カウンター席の棚に飾られた本や、本棚にある書籍は、自由に手にとって読むことができます。

「TOKYO LITTLE HOUSE」にある写真集などの本

戦後の東京の風景を記録した貴重な写真集も

なかには、昔の東京の観光ガイドやガイドマップといっためずらしい資料も。古書店などから集めてきたというこれらの本は、装丁や色使いがおしゃれなものが多く、眺めているだけでも楽しそう。

「TOKYO LITTLE HOUSE」にあるいろいろな本

また1階には編集スタジオを併設。出版編集に携わってきた深澤・杉浦夫妻や、東京の都市やリノベーションの研究をしているサムさんは、「TOKYO LITTLE HOUSE」の運営だけでなく地図制作や編集・翻訳の仕事もしています。本棚にはこれまで夫妻が関わってきた書籍も。さらにお客様からの要望があれば、戦前の地図や東京の都市に関する資料の紹介もできるとのこと。

編集スタジオ「LITTLE HOUSE PUBLISHING」のサイン

画像提供:TOKYO LITTLE HOUSE

過去と現在が交錯する宿で、タイムスリップした気分を味わう

「TOKYO LITTLE HOUSE」の寝室

画像提供:TOKYO LITTLE HOUSE

2階部分の宿のリノベーションにあたっては、床や天井部に断熱材を入れたり、二重窓にして防音対策をしたりと、さまざまな工夫を凝らしたのだそう。
ベッドとソファベッドが備わった寝室は、天井板を取り除いたことで開放感のある空間に。

「TOKYO LITTLE HOUSE」の和室

画像提供:TOKYO LITTLE HOUSE

畳のある和室はほとんど手を入れず、あえて建築当初の趣をそのまま残しています。東京のど真ん中に、こんな場所が残っていたなんて。昭和にタイムスリップしたような空間は、それだけで観光気分にさせてくれます。

「TOKYO LITTLE HOUSE」の部屋からみえる赤坂の街

昭和20年代から手つかずで残ってきたという木製の硝子戸をあけると、そこには現在の東京の喧噪が広がっていきます。

「TOKYO LITTLE HOUSE」のホテル設備

お部屋には電子レンジや冷蔵庫、IHクッキングヒーターに炊飯器も完備。暮らすように旅を楽しめそう

昭和の良さが残る赤坂

「TOKYO LITTLE HOUSE」が建つ赤坂の街について、深澤・杉浦夫妻にお話を伺いました。

「TOKYO LITTLE HOUSE」のリーフレット

建物の歴史やコンセプトがわかるオリジナルのリーフレットは持ち帰りOK

深澤さん:「赤坂の最盛期は料亭やナイトクラブが立ち並んだ1960年代だと思いますが、大きな資本が入って再開発をしたりしていないぶん、そういう昭和の歓楽街の名残がありますよね。現在は、オフィスワーカーはもちろん、外国人も多いし、テレビ局があるから業界人みたいな人もいれば、国会も近いので政界の人もいる。夜の商売の人も。うちよりもずっと前からこの街で暮らし続けている方もいる。いろんな人がいるけど、それぞれの仕方で過ごすことを許容する懐の深い街だと思います」

道越しの赤坂のカフェ・ホテル「TOKYO LITTLE HOUSE」外観

杉浦さん:「スピードが早い赤坂の街のど真ん中にあって、うちは時間が止まったような場所。そこで、普段とは違う風景や、普段とは違うものの見方に出会ってもらえたらと思っています。働く人にとっても日常とは違う空気の吸える場所になっていけたらいいいですね」

「TOKYO LITTLE HOUSE」のオリジナルのデザインが印刷されたスリーブ付きの紙カップ

慌ただしい日々を過ごしていると、つい休むことを忘れてしまいがち。
でも、絶えず変化していく東京の街で、ふと過去を思い出す場所があってもいいのかもしれません。「TOKYO LITTLE HOUSE」で街の歴史を振り返る時間が、「東京」という都市の知らなかった一面に出会わせてくれます。

赤坂のカフェ・ホテル「TOKYO LITTLE HOUSE」の看板

赤坂にある、ちいさなおうちが紡いできた物語。帰ったらこのお話を誰に伝えようかと考えながら、街の喧騒を後にしました。

TOKYO LITTLE HOUSE

東京都港区赤坂3-6-12
営業時間:
[カフェ]11:00-17:00
定休日:
[カフェ]日・祝
http://littlehouse.tokyo

WRITER

気になるコラム