昨日より今日、今日より明日。22年間進化し続ける名店のジントニック ― 門前仲町「バー・オーパ」

ジンにライムを加えてトニックウォーターを注ぐ。シンプルなレシピで作られる「ジントニック」。「バーの個性はジントニックで分かる」とも言われています。有名なバーから、カラオケ、チェーン居酒屋まで。これまで飲んだジントニックに、ひとつとして同じ味はありませんでした。

ジントニック

そんなある日、「バー・オーパ」のジントニックに出会ったのです。
一口飲んだとき、あまりの美味しさに「なんだこれは」とグラスを二度見しました。炭酸のさわやかさと、絶妙にほのかな甘さと苦さ。アルコールをほとんど感じないほどのまろやかさ。

バー・オーパ

飲食店が立ち並び、深夜まで活気溢れる門前仲町。駅を出た交差点から徒歩5分、大通りから1本入った路地の一角にあるのが、今回お話をうかがった「バー・オーパ」です。 創業者である(故)大槻健二氏が銀座に1号店を開いたのが1996年。2号店となる門前仲町店は、今年で17年目。ジントニックはこのお店の看板メニューです。わたしが出会った最高の一杯は、バー・オーパ門前仲町店の店長、松尾民子さんの手から生み出されます。

バーテンダー

松尾さん:「元々は全く違う仕事をしていて、お酒も飲まないし、バーも行ったことがなかったんです。『夜の世界は怪しいんじゃないか』と思っていて(笑)」

夜の街

バーテンダーは「人と人のつながり」の仕事

松尾さんが20歳になった頃、浅草で人力車を引く、「車夫」という仕事をしていました。当時、女性の車夫は珍しかったのですが、とても楽しんで仕事をしていたそうです。

松尾さん:「いま思えば、バーと人力車って似てるんです。どちらも付加価値を売る仕事。人力車は、値段だけ見たら高いと思うかもしれません。でも乗ってくれるのは、その時間にお客様が価値を見出してくれるから。バーも人力車も、『人と人』のつながりの仕事だと思っています」

遠方から毎年必ず会いに来てくれるお客さま、毎日乗りに来てくれるお客さま、大切なおこづかいで乗ってくれる学生さん。いろいろな人々に出会い、接客業の面白さに目覚めていったそうです。松尾さんをバーテンダーの世界に導いたのも、人力車の常連さんのひとりでした。

バーテンダー

松尾さん:「常連の女性のお客さまが、こんな世界もあるのよ、と色々なバーに連れて行って頂いたのが、この世界を知るきっかけになりました。昼の人力車とは真逆の世界でしたが、とても魅力的な空間で『怪しい世界』とはかけ離れていました」

バー・オーパ

その体験がきっかけとなり、バーテンダーの世界に飛び込んだ松尾さん。いつからか「本格的にバーテンダーを目指したい」と、東京中のバーを巡るようになりました。
その中で出逢ったのが銀座のバー・オーパだったのです。

松尾さん:「銀座のオーパは、とにかくカクテルが美味しかったんです。それに、バーテンダーの方がみんなキラキラしていて格好よかった。『私もここで働きたい!』と思って、お店に履歴書を2回持って行ったんです。でも、2回ともダメでした(笑)」

バーテンダー

その後、良い縁に恵まれ、業界の重鎮のバーテンダーに師事し、念願のバーテンダーの道を歩み始めることになりました。そして2013年、修行場をオーパに移すことになったのです。

看板

合格するまで他のカクテルはつくれない

「バーの個性はジントニックで分かる」とも言われますが、オーパもジントニックをとても大切にしているのだと、松尾さんはいいます。入店したら美味しいジントニックが作れるようになるまで、他のカクテルを作ることは許されません。これは、22年前から続く、創業者、大槻氏の強いこだわりです。
創業者の想いがいまも引き継がれ、「オーパのジントニック」を作り上げています。

バーテンダー

松尾さん:「シンプルなカクテルはすごく難しくて、使う材料が少なければ少ないほど、ちょっとしたことで味に影響するんです。ジントニックは誰でもどこでも作れる材料だからこそ、わたしたちの腕が試されるんだと思います。
人それぞれのこだわりポイントがあり、作り方も味のタイプも様々。正解はないけれど『オーパのジントニックはこれだ!』と思って作っています」

ジントニック

オーパのジントニックは、アルコールを飲んでいるような感覚が無いぐらい、やわらかく、カドがありません。

松尾さん:「わたしはバースプーンの回しかたで、炭酸感やまろやかさを調整しています。例えば1回転だけでも味が変わる。それを回す方がいいのか、回さないほうがいいのか。そういう細かいことを、ひとつひとつ、日々、試行錯誤しています」

ジントニック

松尾さん:「ジントニックなんて以前どこかで飲んだ事があるし、なんとなくジンの味が苦手という方に、オーパのジントニック飲んでいただくと驚かれるんですよ。『本当にジンが入ってるの』って聞かれたこともありますね(笑)」

「日本一」の覚悟と、渾身の一杯

松尾さんは、2016年の全国バーテンダー技能競技大会で総合優勝を果たしました。全国から集まったバーテンダーが腕を競い合う、最も権威がある大会と言われています。そして2017年、デンマークで開催されたIBA世界大会に日本代表として出場しました。

松尾民子

松尾さん:「日本一を頂き、応援してくださった周りの方々にたくさんの感謝を感じました。でも、これがゴールではないので、日々本当に目の前のお客様に満足して頂ける1杯をお出しできているのか、これからも精進していきたいと思います」

ジントニック

実は、オーパから日本一になったバーテンダーは、松尾さんが5人目。オーパに所属するバーテンダーは皆、「6人目の日本一」を目指して、腕を磨いています。
バーテンダー業界を代表するひとりとなり、今では後輩を指導する立場の松尾さん。それでも、初心を忘れることはありません。

松尾さん:「はじめて先輩からOKがもらえて、ジントニックをお客様にお出しした時の気持ちを、今でも忘れないようにしているんです。
あの時のような渾身の一杯を作れているのか。毎回、自問自答です。明日、あさって、1ヶ月後、1年後、10年後と、進化してかなきゃいけないと思っています。
でも、今日の時点で1番美味しいのが、今お出ししているカクテルだとも思っています。今後はもっと進化する予定ですし、もっと美味しくしたいですね」

ジントニック

松尾さんは笑顔を絶やさず、話し方も穏やか。オーパではいつも、時間があっという間に過ぎてしまいます。
名残惜しい取材の終わりに、バーテンダーをしていて一番うれしいことを聞いてみました。

松尾さん: 「ひとくちカクテルを飲んで『あっ!』って笑顔になる瞬間を見たときですね。クオリティはもちろん、その先にある、そのお客様にとって美味しいと思える一杯を作っていきたいなと思います」

バーテンダー

実は、「オーパ!」とは、ポルトガルで驚いたときに使う「おー!」という意味だそうです。
お酒が大好きなあなたも、「バーなんて行ったことない」というあなたも。美味しく楽しい驚きを提供してくれる、最高のジントニックを飲んでみませんか。その味は毎日、進化し続けています。

BAR オーパ 門前仲町店

住所:東京都江東区富岡1-25-4 ニックハイム八幡2F
TEL:03-5245-3539
営業時間:18:00-3:00
定休日:日曜日・祝日
Webサイト:
https://bar-opa.jp/

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