普通の暮らしがずっとある郊外に、今までにない日用品店を(後編) ― 「DAILY SUPPLY SSS」小田桐奨・中嶋哲矢・敷浪一哉

「人が暮らす場所としての横浜の原風景」が残る郊外の街・八反橋。小田桐奨さんと中嶋哲矢さん、敷浪一哉さんの3人は、かつて多くの買い物客で賑わった日用品市場の中にお店を構えました。

アーティスト、そして建築家である3人に共通しているのは、もともとある建物や空間に新しい風を吹き込むことで、心地いい「日常」をつくり出したいという想い。そのためのアプローチとして選択したのが、「今までにない日用品店」=DAILY SUPPLY SSSをオープンすることだったのです。

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普通の暮らしがずっとある郊外に、今までにない日用品店を(前編) ― 「DAILY SUPPLY SSS」小田桐奨・中嶋哲矢・敷浪一哉

“この場所までの道のりをどういう風に説明していいかわからない” 今年の2月、神奈川県横

2018-07-13 10:00

アートやコーヒーへの敷居の高さ、垣根をすべて取り払いたい

DAILY SUPPLY SSSで購入できるものは、洗剤などの消耗品の他、生活に彩りを与えてくれそうな食器や花器、お米やコーヒー豆、季節によっては、青森直送のこだわりりんごジュースなどが置いてあります。カウンターで飲める美味しいコーヒーも人気です。

風通しのいい空間に並ぶおしゃれな日用品は、まるでアート作品のよう。そして、実際にアート作品も日用品と同じように展示されています。

敷浪さん:「海外の日用品は、アーティスト仲間がそれぞれの視点で面白いと思ったものを現地で買ってきてもらっています。アート作品と日用品を並べているのは、日本特有のアートへの敷居の高さを取り払いたいという目論見もあるんですよ。例えば、普段から自分の家の壁にアート作品が掛かっていたら、それは毎日の生活の中に当たり前にある『日用品』になりますよね。そういうふうに、日用品とアートの間にあるボーダーラインを消し去っていきたいんです」

天井から吊り下げられた釣り具を使ったモビールもアート作品。「これは何?」と質問されるところから、お客さんとの会話が広がることも多いのだそう。

小田桐さん:「僕らは『GOYOKIKI STYLE』なんです。御用聞き。だからお客さんとの雑談も大事にしていて、お米やコーヒー豆、洗剤を量り売りしているのも、その方がコミュニケーションが生まれやすいから。少量ずつ試してもらった感想や、ときには家族の愚痴なんかも聞いて(笑)、その人に合いそうなものをいろいろな方向性から提案しています」

自家焙煎しているコーヒー豆は、DAILY SUPPLY SSSの看板商品のひとつ。パッケージには「しばらく見ないうちにぱっと咲いた花」といった詩的な言葉が大きく印刷されています。

中嶋さん:「コーヒー豆の産地や種類を見ても、よく分かんないなって人の方が多いと思うんですよ。だったら、飲んだときにどんな風景が浮かぶかとか、何が連想されるかとか、味のイメージを真っ先に伝えるほうがいいかなって。さっきのアートの話と一緒で、コーヒーへの敷居も下げたいんです。パッケージの文章を見て『どういうこと?』って興味を持ってもらえれば、それがコーヒーへの入り口になるので」

敷浪さん:「でもね、ここのコーヒーは本当に美味しいんですよ。かなり辛口なコーヒー愛好家の人も唸らせるくらい。その腕のよさを売りにしない『実は……』感が、僕らっぽいよねなんて思ってます(笑)」

日常を面白くするのは、いつも通りのサイクルを少し変えた行動

駅からは遠いDAILY SUPPLY SSSですが、高速道路が近いこともあり車でのアクセスはしやすく、遠方から車に乗ってやってくるお客さんと、近所にお住まいのお客さんの割合は半々なのだそう。

小田桐さん:「最近では、営業車に乗って得意先回りをしているスーツ姿のお客さんがコーヒーを飲みにやってくることも多くなりました。看板も目立たない場所にしか出していないので、口コミですかね。近所の人たちには『もっと看板を目立たせた方がいいんじゃない?』ってよく言われてますけど(笑)」

中嶋さん:「ご近所のお年寄りからはよくアドバイスをもらうよね。『ランチをやりなよ!』というリクエストも多くて。今は、毎月の最終土曜日だけモーニングを提供しているんですが、近々ランチもスタートする予定です」

毎月最終土曜日は、近くの味噌屋さんで直売が行われる日でもあります。周辺にあるふたつの農園でも、朝市や直売が定期的に開催されているのだとか。3人がそういった催しの存在を知ったのは、DAILY SUPPLY SSSをオープンしてから。

中嶋さん:「オープンして半年、ここに通うようになってからもたった1年くらいなので、まだまだ街のことを知らなくて。だからこそ、近所の人たちからの情報はとても有り難いんです。すぐ裏手の平本農園さんや、ずっと昔から味噌樽での量り売りを続けているかねじょうみそさんとの繋がりもできて、モーニングにきてくれたお客さんには『あちらで直売をやっているのでよかったらどうぞ』と伝えるようにしています。うちでモーニングを食べて、野菜や味噌を買って、またうちに戻ってきてくれる。そういう楽しみ方をしてくれる遠方からのお客さんも増えてきています」

小田桐さん:「もっと街の情報を集めて、ここに寄ると面白いですよっていうガイドをつくれたらいいですよね。周辺でお店を営む知り合いも増えてきたので、新しいコミュニティや人の流れが生まれていく予感がしています」

DAILY SUPPLY SSSの営業時間は17時まで。営業時間を短くしているのには、いくつかの理由があると言います。

敷浪さん:「ひとつは、子どもをお迎えに行かなくちゃならないというのも大きいんですけど……。あえて昼間に時間をつくらないと行けない場所にしたかったんです。いつも通りのサイクルを少し変えて、目的がなければ絶対に訪れないような街へ出向く。『普段とは違う行動で、自分の日常を面白くしている』という体験と、このお店が結びついてくれたら嬉しいな」

DAILY SUPPLY SSSを、八反橋の新しいランドマークにしていきたい――そう語る3人の楽しそうな表情を見ていたら、道中で感じた「非日常」へと向かうようなドキドキした気持ちの理由が分かりました。

「いつも通り」に鮮やかな色を添える「非日常」は、「日常」のほんの少し先にあるもの。あなたも乗ったことのないバスに乗って、SSSの3人が八反橋につくりあげた、新しくて懐かしい「日常」に触れに行きませんか?

取材:ツチヤトモイ 写真:土田凌 編集:菊地飛鳥 企画構成:haletto編集部

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普通の暮らしがずっとある郊外に、今までにない日用品店を(前編) ― 「DAILY SUPPLY SSS」小田桐奨・中嶋哲矢・敷浪一哉

“この場所までの道のりをどういう風に説明していいかわからない” 今年の2月、神奈川県横

2018-07-13 10:00

DAILY SUPPLY SSS

神奈川県横浜市神奈川区羽沢町1802-1
TEL:045-516-4829
営業時間:12:00-17:00
定休日:月・日
https://www.sssuburb.com

新潟県生まれ。週末は2時間散歩しないと気が済まない。ドラマを見ながらロケ地を確信しては、ひとりで楽しい気持ちになっています。他にも電車や駅、飛行機や空港、地図や路線図、おいしいものが好きです。

このコラムについて

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