普通の暮らしがずっとある郊外に、今までにない日用品店を(前編) ― 「DAILY SUPPLY SSS」小田桐奨・中嶋哲矢・敷浪一哉

“この場所までの道のりをどういう風に説明していいかわからない”

今年の2月、神奈川県横浜市にオープンした日用品店「DAILY SUPPLY SSS」。公式サイトのACCESSページは、そんなミステリアスな一文からはじまります。

最寄りのバス停の名は「八反橋」。横浜市内にありながら市街地でもベッドタウンでもないその街は、いったいどんなところなんだろう。少しドキドキしながら、東海道新幹線の発着駅でもある新横浜駅からバスに乗り込みました。

窓の外の風景は、あっという間に街中から郊外へ。視界を覆っていく草木の緑。たった10分のバスの旅で、ちょっとした非日常へと足を踏み入れた感覚がありました。高速道路の高架下から望む小高い丘には、古い団地が静かに並んでいます。

信号を渡って向かうのは、1971年に開かれた日用品市場「八反橋フードセンター」。平成のはじめ頃までは精肉店や生花店といったバラエティに富んだ店舗が入居し、たくさんの買い物客で賑わっていたのだそう。最盛期には3棟あった建物も今は2棟になり、スペースのほとんどが倉庫として活用されています。色褪せた看板が物語るのは、昭和から現代へといたる時代の流れ。

少し反応の遅い自動ドアをくぐると、両サイドに並ぶシャッターが目に入ります。ノスタルジックな雰囲気に不思議と溶け込んでいる白く明るく現代的な空間が、今回の訪問先であるDAILY SUPPLY SSSです。

迎えてくれたのは、ヒゲとメガネが似合う3人の男性。アーティストユニット「LPACK.」の小田桐奨さんと中嶋哲矢さん、建築家の敷浪一哉さんは「Standing Stone(通称SS)」というユニットを組み、八反橋に「今までにない日用品店」=DAILY SUPPLY SSSをオープンしました。「SSS」は「Standing Stone Shop」の略なのだとか。

3人の出会いは10年前。横浜・黄金町にて

青森出身の小田桐さん、静岡出身の中嶋さん、そして北海道出身の敷浪さん。出身地はバラバラの3人が、横浜の郊外にお店を開くことになったのはどうしてなのでしょうか?

中嶋さん:「僕と小田桐くんは浜松の大学で出会った同級生ユニットです。大学を卒業した2007年から活動を開始したんですが、その頃、横浜市は芸術支援事業に力を入れていて。ゴーストタウンになってしまった黄金町から日の出町にかけてのガード下に若いアーティストを集めようとしていました。物件も安く貸してもらえたので、最初の活動拠点を黄金町に決めたのが、横浜との縁ができたきっかけですね」

中嶋哲矢さん

敷浪さん:「僕は2001年から横浜に住んでいます。妻が横浜出身なので、結婚を機に移り住みました。LPACK.のふたりと知り合ったのは2008年の黄金町。けっこうすぐに意気投合して、日ノ出町駅前にあった古い空き旅館を活用した『竜宮美術旅館』というプロジェクトも一緒に手掛けました」

敷浪一哉さん

大学では建築を学んでいたというLPACK.のおふたり。カフェユニットとも呼ばれ、コーヒー1杯から「人が集まる場所」をつくり出す活動をしています。対して敷浪さんは建築家として、さまざまな背景を持つ空間に手を加えながら「暮らし」をデザインしています。

敷浪さん:「アプローチの方法は違うけど、お互いに目指しているのは『日常をつくる』こと。やりたいことが似ているから、2012年に竜宮美術旅館が再開発で取り壊しになった後も、またいつか3人で何かやろうとずっと話してはいたんです。そうこうしているうちに年月が経って、ふたりにも家族ができて……」

小田桐奨さん

小田桐さん:「結婚して子どもができてから生活スタイルがガラリと変わりました。最大の変化は車での移動が多くなったこと。そうなってくると、駅の近くや、人が多く集まる繁華街に活動拠点を置くメリットがなくなったんですよね。八反橋という郊外を選んだのは、僕らが3人とも子育て中だからという理由も大きいんです。保育園へのお迎えもしているので、すぐ家へ帰れるエリアで物件を探していました。今は、敷浪さんは車で、僕と中嶋くんは自転車で通っていますが、それぞれかかる時間は30分程度。3人の住まいの中間地点くらいだから、不公平がなくてちょうどよかったです(笑)」

積み重ねた「時間」こそが、建物の持つポテンシャル

もともと八反橋フードセンターの存在はご存知だったんですか?そう尋ねると、3人は一斉に首を横に振ります。

敷浪さん:「いや、まったく知りませんでした。この場所は貸し倉庫として物件情報が出ていたんですよ。他にも何軒か貸し倉庫を内見した後だったので、ここも似たようなかんじかなと思ってやってきたら、入り口の『八反橋フードセンター』って看板がバーンと目に入って。『これはいいぞ、ヤバいぞ』とみんなで言い合ったのを覚えています」

中嶋さん:「やっぱり空気感が違いましたね。風格と言うか、建物自体が持つポテンシャルと言うか」

敷浪さん:「古い建物が持つ独特の空気感は、新しく建てられたものには絶対に出せないんですよ。積み重ねられた時間によって醸成される唯一無二のものだから。昔からそこにある建物のポテンシャルを活かしながら、新しい『場』をつくる活動をしていた僕たちにとって、これ以上ない物件だと思いました」

中嶋さんいわく、空気感=ワクワク感でもあったと言います。

中嶋さん:「共有部分の廊下にもグッときましたよ。プロジェクターで壁に映像を映して、映画鑑賞会をやっても面白そうだなとか。アイデア次第でいろいろなことができそうな、ワクワクできる『余白』がたくさんあって心惹かれました」

小田桐さん:「ほんの30年くらい前までは、廊下がぎゅうぎゅうになるほど多くの人が八反橋フードセンターに訪れていたと大家さんに聞いて。かつてそれだけの人が集まっていた場所ならば、やり方さえ変えれば、また人が集まる場所にできる確信もありました」

LPACK.のおふたりは黄金町を離れた後、埼玉県北本市で新たなプロジェクトを開始。駅から離れた県立公園のそばに建つ一軒家でカフェ兼アトリエを5年間営んだ経験も「八反橋に日用品店をオープンする」という決断を後押ししたと語ります。

中嶋さん:「大きな公園があるだけの、本当に何もない場所だったんですよ。でも5年くらい続けていると、段々と周辺に物事が立ち上がっていくんですよね。埼玉県民じゃない人からも『知ってるよ』と言ってもらえる機会も増えて、そういう物事の広がり方を面白く感じたのも、郊外に興味を持った理由のひとつです」

小田桐さん:「横浜って言うとどうしてもみなとみらいとかの華やかなイメージが強いけど、もともとは城下町でも宿場町でもない普通の農村ですからね。実は、人が暮らす場所としての横浜の原風景は、ここ八反橋のような注目されにくい郊外に残っているのかも知れません。今も昔も変わらない普通の暮らしがずっとある街だからこそ、日用品を売るお店を構えるのにもぴったりだと思いました」

後編では、オープンからの半年間でDAILY SUPPLY SSSに起きた変化や、常連さんも増えたという地域の人々とのエピソードを掘り下げていきます。

取材:ツチヤトモイ 写真:土田凌 編集:菊地飛鳥 企画構成:haletto編集部

後編はこちら

普通の暮らしがずっとある郊外に、今までにない日用品店を(後編) ― 「DAILY SUPPLY SSS」小田桐奨・中嶋哲矢・敷浪一哉

「人が暮らす場所としての横浜の原風景」が残る郊外の街・八反橋。小田桐奨さんと中嶋哲矢さん、敷

2018-07-13 10:01

DAILY SUPPLY SSS

神奈川県横浜市神奈川区羽沢町1802-1
営業時間:12:00-17:00
定休日:月・日
TEL:045-516-4829
Webサイト:
https://www.sssuburb.com

新潟県生まれ。週末は2時間散歩しないと気が済まない。ドラマを見ながらロケ地を確信しては、ひとりで楽しい気持ちになっています。他にも電車や駅、飛行機や空港、地図や路線図、おいしいものが好きです。

このコラムについて

ようこそ、わたしの街へ

生まれた街、暮らす街、通う街、帰る街。かつて住んでいた街や、いつか住んでみたい街。「街」はあなたの人生の舞台。街とあなたの関係が変われば、あなたの生き方も、きっと少し変わります。それは、単なる知人が友人に変わった時みたいに。気の合う新しい...

気になるコラム