「3時間の小さな旅」が、自分の世界を広げる― AND STORY細川拓さん

「旅」には、いろいろな意味があります。遠くへでかけることだけではありません。毎日同じように過ぎていく日常から、ほんの少しだけ一歩を踏み出す行動を起こしたら、それはもう「旅」のはじまり。
見知らぬ誰かに会いに、小さな「旅」に出かけてみませんか。

小さな「旅」が集まるサービス「AND STORY」

今回ご紹介するWebサイト「AND STORY」には3時間の小さな「旅」が集まっています。さまざまな専門性・物語を持った方がホストとなり、オリジナリティ溢れる体験(=「旅」)を3時間以内に凝縮し、提供する体験のシェアリングサイトです。

AND STORYではひとつひとつの体験について、提供するホストの「思い」や「ストーリー」を重視しています。掲載されているのは「ヨガ」「茶道」「料理」「アクセサリー作り」など。多様な体験ばかりですが、共通しているのはホストがなぜその体験を始めたのかのきっかけと、体験を提供する思いが記載されていること。体験の内容だけではなく、「そのストーリーに共感するかしないか」という軸で探すことができるのです。

今日は運営者の細川拓さんにお話しを伺いに出かけました。待ち合わせ場所へ向かうと、開口一番「今日は天気がいいので、外でお話しましょうか。秋葉原を楽しめる、小さな旅へご案内します」とのこと。

向かったのはJR秋葉原駅から徒歩10分の場所にある「アーツ千代田3331」。閉校した中学校をリノベーションして、アートギャラリーやオフィスとして利用されている複合施設です。

細川さん:「ここ、いいでしょう。仕事に行き詰まった時や、人が遊びに来てくれた時によく来るんです。開放的な空間だし、地域の人たちに愛されているような気がして気持ちがいいですよね」

秋葉原というと“オタクの聖地”というイメージがありますが、少し歩くと違う雰囲気の場所もあるんだ……。細川さん自身のエピソードから発見をもたらしてくれる、AND STORYらしさを感じます。

個性的でなくていい。普通の「ストーリー」を大切にしたい

AND STORYでは、どんなコンテンツを集めることを意識しているのでしょうか。

細川さん:「掲載するか決める際、『ほかにない体験か』は意識していません。近くでなんかちょっとイベントないかな、ワークショップ行ってみようかなと、気軽に参加できる体験ばかりでいいと思っています。『何を』を軸に体験をつくろうとすると、他とどう差別化しないといけない、とか、そういうことを考えてしまうじゃないですか。ぼくはこれにすごく違和感があって」

AND STORYでいう体験の「個性」は、ホストの「思い」や「人柄」だと、細川さんは続けます。

細川さん:「なぜその体験を提供しようと思ったのか。背景やストーリー、きっかけを丁寧に説明して、共感してくださった方が集まる。シンプルなことを大事にしたいと思っています」

印象的なストーリーをもつ、ある「旅」についてききました。

浦さんというプロのイラストレーターが土日に開催している水墨画の体験。イラストレーターと水墨画……不思議なつながりに感じますね。

細川さん:「長崎に帰省した浦さんが、親戚のおじさんに『お前絵で飯食ってんだろ、俺の似顔絵を描いてくれ』って頼まれたらしいんです。でも、手で描けなくなっていて、愕然としたと」

もともと絵が大好きで、プロのイラストレーターになった浦さん。仕事の依頼が手書きよりもデジタルイラストが主流になるにつれ、Macでしか自信を持って描けなくなっていたことにショックを受けたのです。

細川さん:「手で描けないってどうしてだろうって、感覚を取り戻すために水墨画をやってみた。そういった境遇に共感して、『私もデザイナーをやっていて同じ経験をしたことがあるんです』って来てくれた方がいました」

参加者の中には、「水墨画」というキーワードに興味がなかった人たちもいたそうです。浦さんはなぜこの「旅」を開催するのか。浦さんの「手で描けなくなった」というストーリーを見て、「共感」がきっかけで利用したのです。背景にあるストーリーを知ってはじめるワークショップは、他にはないものとして強く記憶にのこるのでしょう。

“あのときの僕ら”に届くサービスを目指して

細川さんはなぜAND STORYを立ち上げることにしたのでしょうか。実はご家族にある辛いできごとが起き、「何とかして家族を救いたい」と考えたことがひとつのきっかけになったのだそうです。

細川さん:「当時仕事の都合で愛媛の松山にいて、周りに知り合いも少ない環境で自分の家族を救えるのか、すごく考えたんです。それで、とりあえずどこかへでかけようと。
でかけた先で、僕らを癒してくれたのが『人』だったんです。触れ合った人たちの優しさがすごい沁みるっていうか。なんでこの人こんなによくしてくれるんだろう、優しさをもって接してくれるんだろう。名前を知らない人たちに僕らは救われたんです」

「旅館に泊まる」「ものを買う」など、通常の「旅」での体験は商行為によってつながっている、と細川さんは語ります。

細川さん:「でも、どこを訪れてもそこにいるのはやっぱり『人』しかない。消費や商行為を超えて、人と触れ合う旅、みたいなものが広がるといいな、と思ったんです。そういう『ぬくもり』のあるサービスをしたいと思ってはじめました。誰がターゲットです、誰がユーザーですっていうと、あの時の僕であり、あの時の僕ら家族、という感じでやってますね」

最後に、サービスのこれからについて伺いました。

細川さん:「今は『物語溢れる東京へ』ってテーマでやってますけど、『物語溢れる地球へ』、にしていきたいんです。エリアを越え、国を越えて」

AND STORYでは、東京メトロと一緒に「旅するトーク」というイベントを定期開催しています。その土地の魅力を伝えられる人と、それを聞きたい人とをつなぐトークイベントです。

丸の内エリアで開催された「東京、旅するトーク」の様子

細川さん;「『旅するトーク』を海外でもやってみたいですね。現地の人と触れ合えることってなかなかないので。僕の目標はいつもあのときの僕らへ向けてってことで、そこにどう追いつけるか、って感じですね。悩むことはあまりないです。家族には怒られちゃいますけど(笑)」

予定を入れるとき、自分の知っている範囲の世界のなかで「誰と」「何を」しよう、と考えてしまいがち。もし同じ「3時間」を過ごすのであれば、「まだ知らない誰かの思い」を知って、「何が起こるかわからないこと」にチャレンジしてみるのも面白い。その先では、また違った自分を見つけられるかもしれません。

自分の世界を広げること、それもひとつの「旅」なのではないでしょうか。

広い世界の中で、人の数だけ「旅」があり、人の数だけ、ストーリーがある。

AND STORYはあなたの一歩に寄り添ってくれます。

写真:土田凌
撮影協力:アーツ千代田3331

ANDSTORY

“3時間の小さな旅”をテーマにした、伝えたい人とやってみたい人をつなぐ体験シェアリングサイト。
https://www.andstory.co/

 

編集長・プロデューサー

仙台生まれ。好奇心旺盛。週末、街歩きしながら外でビールを飲むことに至福を感じる。好きな街の種類はこじんまりした居酒屋がある場所。口癖は「なんとかなるさー」。最近、山ごはんに興味津々、みんなの親分。