時間をかけてつながる本と人。「返本のない」本屋さん ― 田原町「Readin’ Writin’ BOOKSTORE」

子どもの頃、本屋さんといえば駅前の大きなお店か、雑誌を買いに行く商店街のお店でした。最近はこだわりを詰め込んだ個性的なお店が増えている気がします(SNSのおかげで、知る機会が増えたのかもしれません)。今回訪れた本屋さんには、ある「哲学」によって選ばれた本たちが集まっていました。

多くの観光客で賑わう浅草から銀座線で1駅。田原町駅で降りて地上へ出ると、大きな通りに出ます。本日の目的地、本屋「Readin’Writin’BOOKSTORE」は、大通りから1本入った静かな小道にあります。大きなガラス窓と、開かれた白い扉、濃いあずき色をした壁が特徴です。

店主の落合博さんが出迎えてくださいました。

読みたい誰かに出会うまで、時間をかける。「返本」のない本屋さん

実はこのお店、少し変わった特徴のある本屋さんなんです。
落合さん:「店内にある本はすべて『買い取り本』です」
大きな本屋は通常、本を一定期間店頭に置いて、売れなければ返品するシステム(返本、といいます)をとっているのだそうです。1日に200点以上の本が出版される昨今、多くの本は、人の目にほとんど触れぬまま倉庫へ戻り断裁されてしまいます。

落合さん:「その中にも、時間をかけたら売れる本が確かにあるんです」
「Readin’Writin’」では、大きな本屋の片隅に置いてあるような本の中から、落合さん自身が良いと思うものを見つけて置いています。

落合さん:「10万部売れている本と1,000部しか売れていない本、どちらにより価値があると思いますか。1,000部しか売れていない本には『1,000人しか知らないこと』が書かれているのだとも言えます。それもひとつの価値ですよね。多くの人には知られていない、価値のある本たちが『読みたい誰か』に出会うまで、時間をかけて売っていきたいんです」

もともと材木倉庫だったというこの建物は、天井まで4メートル以上の高さがあり、とても開放的。格子状に組まれている壁の木は、倉庫の面影を残しつつ、本棚の役割も果たしています。

絵やレコードといったインテリア、栞やポストカードなど本にまつわる小物もおいてあり、まるで美術館のようです。

店内ではコーヒー、ビールなどの飲み物も販売しています。中二階には靴を脱いで座れるスペースと、ビーズクッションがふたつ。本と飲み物を片手にここでくつろぎながら過ごすことができます。

本はそれぞれ、類似したテーマを扱ったものでまとめて並べられています。
落合さん:「今の状態がゴールでも理想でもありません。場所によっては、子育ての本の隣にロシア関係の本が置いてあるところもあります。日々改善しているので、1か月後、1年後にはまた変わっていると思いますよ」
その時の考えや状況に応じて変化する本棚は、まるで落合さんの頭の中を映しているように感じました。

「書くこと」を学べる本屋さん

落合さんは以前、新聞記者として働いていました。
落合さん:「本屋に関してはまだまだ素人だけれど、書くことは30年以上やってきたので、ライティングのワークショップも行っています」

レッスンは1対1の単発開催。申し込みを受けてからレッスン日を決め、受講者にテーマを伝えます。400字前後で書いた文章を事前に受け取って、当日のレッスンはその文章に対してフィードバックする、という形式です。
ライターや記者志望の方ばかりなのかと思いきや、「新しいことに挑戦したい」「書くことに興味がある」など、仕事に限定されることなく幅広い受講者から申し込みがあるそうです。

レッスンでは「自分の見たこと、聞いたことをベースに書いてほしい」と伝えています。フィードバックの中でその人が日ごろ思っていることを聞いているうちに、悩み相談のようになっていることもあるのだとか。自分らしい形を探しながら日々お店を営む落合さん。お話していると肩の力が抜けてリラックスできるような方なんです。だれかとゆっくり、自分の書いたことばについて話し合うなんて、とても贅沢な時間だと感じました。

人と人、人と本がつながる。21世紀のコーヒー・ハウスを目指して

ワークショップのほかにトークイベントも不定期で開催する「Readin’Writin’」。お店のこれからについて落合さんは「21世紀のコーヒー・ハウス」を目指していると語ります。「コーヒー・ハウス」とは、インターネットなど無かった17世紀から18世紀にかけての英国で政治家や商人、ジャーナリスト、文学者など、さまざまな人が出入りして、情報交換していく場(サロン)として機能していた場所です。

ゆっくりと時間をかけて売られていく本と、ゆるりと集まる人びと、いつのまにか生まれる交流。落合さんは本屋としての役割を超えた新しい場作りを目指しています。

落合さん:「この店も色々な人が出入りすることで、新しいものが生まれていく『21世紀のコーヒー・ハウス』になりたい。誰かと誰か・何かをつなぐ、メディアのような店にしたいと思っています」

店内を回った後、レジ前に置かれている「左利きの女」と題した小冊子に気がつきました。この冊子はリトルプレスといって、制作から流通まで、個人や団体が自主的におこなう「小出版」と呼ばれる出版物。もともと左利きだった私は場面によって使う利き手が変わるため、「左利き」で生きてきた人がふと気になったのです。

わたしのようにこの本を手に取った人は、何人いるのだろう。数少ない誰かと秘密基地を共有したような、こそばゆい気分です。どれくらいかの時間をかけてわたしと出会った一冊をたずさえて、帰路につきました。

Readin’ Writin’ BOOK STORE

東京都台東区寿2-4-7
営業時間:12時-18時
定休日:月曜日
Webサイト:http://readinwritin.net/

東京生まれ、東京育ち。好きなものは旅とらくだとピクニック。おいしい野菜やブッダの教え、お洒落なバーと本屋さんに心惹かれます。

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