Mucchi’s Caféの【おとなの絵本教室】Vol.28

仕事を通して親の姿を見つめ直す絵本

あらすじは……
ぼくのとうちゃんは、小さな町工場の看板屋。とうちゃんは、近所の商店街のお店に看板を描いています。代々継がれている看板屋で、じぃちゃんが描いた看板も、商店街の中に残っています。近くではマンションの建設も始まり「マンションには かんばんはいらねぇな」と時代の流れに逆らえない様子も描かれます。ぼくはとうちゃんみたいな看板屋になりたいと思っているのです。

主人公のぼくは、父親の仕事の様子を目にしながら育ち、父親の書いた看板に囲まれた街に育ち、父親の仕事に誇りを持ち、父親の仕事を継ごうと思っています。純粋な少年の心情が文章から伝わり、版画による人情味のある町がとても気持ちの良い絵本です。

私の父は「会津塗り」と呼ばれる伝統工芸品に絵を描く「蒔絵師」と呼ばれる仕事をしています。高校卒業と同時に祖父のもとで修行をはじめ、2代目です。蒔絵とは、漆塗りで作られた椀や重箱、花瓶などに絵を付けていく仕事。とても繊細な作業ですから神経を使うし、根気が必要です。

「ぼくのとうちゃん」と私の父の性格がとても似ていて、自分の思いや自分を出さない、謙虚というか、頑固というか……。自分の仕事にこだわりを持ち、仕事に対して妥協したくないという思いがあるようです。

私が実家にいた頃は自宅が仕事場で、父親が毎日家にいる生活が当たり前でした。友だちが家に遊びに来ると、珍しそうに父親を眺めているのを見て、不思議に感じていました。会社勤めをしているお父さんのご家庭では、仕事をしている姿を見られるというのは、貴重なことだったのですね。

伝統工芸に携わる父の仕事は決して儲かるものではありませんが、なくしてはいけない職業だと感じています。自営業には定年退職というものがないので、65歳を迎えた今では自分のペースを保ちながら、無理せず続けていってほしいと思っています。

現代でも、親がどんなふうに働いているかを見られる人は少ないかもしれません。自分が働く立場になり、仕事を任されることが多くなった中で、責任感ややりがいを感じている方も多いと思います。自分の親はどんな仕事をしているか、してきたのか。ふと立ち止まってみると、その仕事の素晴らしさやその人しかできない、任されている仕事の一面が見え、さらに両親への敬意も深まるのではないでしょうか。そんな事を考えたくなる一冊です。

とうちゃんはかんばんや

作:平田昌広
絵:野村たかあき
出版:教育画劇

福島県出身。元保育士、夢の国の住人を経て現在、高円寺にある「絵本カフェ ムッチーズカフェ」の店長として、オーナーむっちと共同経営中。絵本専門士として、店内に置く絵本を選書しています。口癖は「ご縁って大事よね~」。ゆでたまごが好き。お店のTwitter の中の人。

このコラムについて

Mucchi’s Caféの【おとなの絵本教室】

絵本にはいろいろな魅力があります。よく考えてみると怖い話から、ほんとに人生に役立つ良い話まで。忘れた気持ちを思い出さしてくれる、おとなのための絵本を紹介します。

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