アタシが選ぶ本と週末(8)「旅情熱帯夜  1021日・103カ国を巡る旅の記憶」 著:竹沢うるま

旅情熱帯夜

「かよちゃん、音楽や絵画と比べたときに“写真”って何が決定的に違うと思う?」。
私は「う〜ん、なんでしょう?」と考えるふりをして、その人の答えを待っていた。

「それはね、“在る”ものからしかつくることができないってこと。写真は0からはつくれないんだよ」。
その人はさらにこう続けた。
「写真とは、自分にとって世界はこう見えているということのステートメントであり、外界との接触によって生まれた心の波紋を撮影することでもある。ただ、風景や人物を撮っているわけではなく、自分の内面性のカタチを写しているんだよ。そして、それがとかく難しい。『私は本当は何を見ているのか?』という自己凝視なくして“ほんとう”の写真は撮れない」。

かつてそう語ったのは、知人の竹沢うるまさんだった。世界を旅しながら目が醒めるような写真を撮り続け、2014年にはナショナルジオグラフィック写真賞も受賞した気鋭の若手写真家である。

うるまさんの話を聞きながら、サラミのようなイメージが浮かんだ。ひたすら展開しては消えてしまう“今”というサラミ。その一瞬の“今”を、スライスするかのように切り取るのが、写真。写真を撮る人間にとっては「それは、どういうサラミなのか?」「どのように私はサラミを切りとるのか?」を見つめ続けることが重要なのだろう。ぼーっと“今”を食いつぶしていては瑞々しい写真は撮れない。写真=私でしかないのかもしれない。

うるまさんが1021日かけて世界103カ国を巡った軌跡をおさめた「旅情熱帯夜」は、写真+旅行記で構成された1冊。アマゾンや砂漠の奥地、雪と氷の世界などへ潜入し撮影した人々の生活、祭り、儀式の数々……。この本を見つめていると、なんだか切ない気持ちにもなる。「ここではないどこかへ行きたい」と思いながら、せいぜい1週間の旅行に行くことしかできない自分がここにはいる。今の生活は気に入っている。だけれど、やっぱり旅人の勇気には尊敬の念を抱く。

― 旅に出なさい、人生は思っている以上に短いよ

「旅情熱帯夜」はあなたに手まねきしてくるかもしれない。

文と写真:三根かよこ

旅情熱帯夜  1021日・103カ国を巡る旅の記憶

著:竹沢うるま
発行:エス・アイ・ピー
発売:実業之日本社
URL:https://amzn.to/2sdMJJk
http://www.sip.jpn.com/ryojo.html

夫婦出版社『アタシ社』と申します。神奈川県・三浦市唯一の出版社であり、夫婦ふたりで本をつくっているのが特徴です。夫が編集者、妻がデザイナーという最小単位の布陣でせっせと本をつくっています。夫婦それぞれ編集長として雑誌も創刊しています。 言葉というのは不思議なもので、たった一節で人の人生を変える力を持っています。ですから、できる限り人の人生を、良い方に転がしていけるような本をつくれる生き方をしたいと思うのです。なんて、真面目な話はそこそこにして、ゆっくり本を眺めていってください。

このコラムについて

アタシが選ぶ本と週末〜三崎のちいさな出版社から〜

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