「何もしない」をくれる海。南房総に泊まる ― 白浜町「波音日和」

都心から約2時間、千葉駅からも約2時間。千葉市民の私にとって、南房総は「東京より遠い地」で、同じ県内とは思えないほどの距離感があります。

サーフィン好きのオーナーが営む、今日のお宿へ

幼い頃、家族で海水浴に行ったのを最後にすっかり足が遠のいていた場所。大人になってから行く房総の海は、どんな風に見えるだろう? さっそく千葉駅から高速バスに乗り、まずは館山駅へ。そこから路線バスに乗り換え、のんびり揺られること約30分。「根本海岸」駅で降りたのは私と友人の二人だけ。夏は海水浴場としてにぎわう場所も、今日は静かな波音が聞こえるばかり。

海の目の前に立つカフェが、本日のお宿「波音日和」です。灰色の空と、まっすぐ伸びる道の途中にポツンと立つカフェは、どこか現実味がなくて不思議な感じがします。

オーナーは、「Tonman」の名前でアーティストとしても活動している松井俊さん。「波音日和」は、サーフィン好きの松井さんが会社の退職を機に開店したシーサイドカフェです。店内には松井さんが描いた絵がギャラリーのようにして飾られていたり、房総で活動する作家さんの作品が置かれたりしています。

ギャラリーだった2階を改装し、1日1組限定の宿泊をはじめたのは2年前。屋根裏部屋のように斜めに切り取られた室内と、窓から見える風景に息を呑みます。たっぷり日差しの差し込む窓の外には、真っ青な海。絶好の眺めが堪能できる窓際には小さなウッドデスクが備えられ、なんだか創作意欲が湧いてきそうです。

松井さん:「一日この部屋から出てこないお客さんもいるんですよ。満月の夜には月の道が見られるし、新月の日には満天の星空が見られる日もあるんです」

南房総最南端の野島崎へ

せっかくだからと、房総半島の最南端「野島崎」に向かいます。「波音日和」のある根本海岸停留所から「野島崎灯台口」まではバスで10分程度、それから歩くこと10分。食堂や土産屋さんの立ち並ぶバスのロータリーが見えてきます。

野島崎灯台の110段の階段を昇りきると、眼前には太平洋のパノラマ絶景が広がります。びゅうびゅうと風が吹き、トンビが下を飛んでいる視界に驚きます。
ゴツゴツした岩場の上には、「朝日と夕日の見える岬」と記された碑の横に、白いベンチ。空もベンチも灯台も、すべて白に包まれた神秘的な空間です。

「波音日和」での時間

少し肌寒くなって来たので、日が落ちる前に宿に戻ります。カフェでケーキセットを注文し、松井さんとのおしゃべりに花を咲かせました。

会社員時代は、館山でサーフィンを楽しんでいた松井さん。南房総に足を運んでいるうちに、このエリアの人脈を通じて見つけたのが根本海岸でした。
今は穏やかな海も、冬は南房総の風物詩・強い西風の「大西」対策や台風被害で苦労したこと。季節によっては、店の前からイルカが見えたり、浜辺にウミガメが来たりすること……。街での暮らしについて、さまざまなできごとを話してくださいました。

松井さん:「根本海岸は、タカラガイの聖地としても人気ですね。その手のマニアの間では有名みたいで、タカラ探しに親子で泊まりに来るお客さんもいましたよ」

明日の朝は私たちも貝拾いをしに行こう。雲の隙間からわずかに顔をのぞかせた夕日を見に、海岸に出ます。

太陽が地平線に沈むと、まもなく辺りは真っ暗に。「ブランケットを用意したので、自由に使ってください」と松井さんに言われ、夕食後は潮風と波音だけのカフェテラスで、ゆっくり食休み。空を見上げると、月が煌々と輝いていました。
部屋に戻っても、ずっと波の音が聴こえる夜。いつのまにか眠りに落ちていました。

朝7時。ブラインドをあげると、真っ青な海と空。どこかすごく遠い場所に来たような気がして、しばらく外の風景から目が離せません。
「波音日和」のモーニングは、宿泊者だけの特典。「只今貸切です」と掲げられた札に、少しばかりの優越感を感じます。

春限定の桜のケーキは、嬉しいサプライズでした。たっぷり時間をかけて、海を眺めながらの朝ごはん。
「なんにもしたくなくなるね」「なんにもしないのがいいんだよ」と話していると、磯遊びに夢中になっていた子供時代とは違う、海の楽しみ方を見つけた気がします。

お宿の前の浜辺で、懐かしい時間

朝食後、チェックアウトの前に浜辺へでかけました。注意深く足元を見ていると、たくさんの貝殻や、キラリと光るシーグラスが落ちています。

根本海岸の一角には御神根(おがみね)と呼ばれる磯場があります。松井さんによると、関東大震災で地盤が隆起して出来たらしいとのこと。その神聖な名称から、パワースポットのような場所になっているようです。

「屏風岩」と呼ばれる県指定の天然記念物もありました。変わった形の岩盤が連なり、屏風というよりは、恐竜や軍艦のようにも見えてきます。

松井さんと白浜町めぐり

旅の終わりは、松井さんの車で白浜町を案内していただきました。
はじめに向かったのは、廃校になった旧長尾小学校をリノベーションした「シラハマ校舎」。校舎内は、シェアオフィスやゲスルーム、ショップやカフェのある複合施設です。
細長い廊下や教室、黒板や水飲み場など、懐かしい面影を残しつつも、大人も楽しめるような空間に生まれ変わったコミュニティセンター。昼食は、校舎の一角にある「Bar Del Mar(バルデルマル)」というカフェ・レストランで、菜の花パスタをいただきました。

次に向かったのは、「白浜豆腐工房」。築50年の平屋を改築した、お豆腐を中心に大豆料理をつくっているお店です。

おからマフィンや、豆乳と寒天、トウキビをつかったプリン。赤ちゃんを抱えながら、お茶出しをしてくれた店主の奥さまは、店内で定期的にヨガ教室を開いているそうです。

周辺は民家と畑のあるのどかな雰囲気で、海の街のイメージとはまた異なった印象。一面に菜の花畑があったり、農作業をする人の姿が見えたり。

松井さん:「南房総といっても、街それぞれの性格みたいなものがあって、館山は地方都市、鴨川は個性的、千倉は都会的で、白浜は……田舎っぽいかなぁ」

何もしない、白浜での時間

日が暮れたら眠りについて、日が昇ったら目を覚ます。時間に追われる生活から離れて、自然のリズムに身を委ねる気持ちよさ。
白浜町は、どこへ行っても、どこかなつかしくて、ふと耳を澄ますと波音が聞こえる街です。あの街で見た風景は白昼夢だったのかな? と思いながら、帰りのバスに乗り込みました。

波音日和

千葉県南房総市白浜町根本1626-4
営業時間:4月-9月 10:00-18:00(ラストオーダー17:30)
10月-3月 10:00-17:00(ラストオーダー16:30)
定休日:水曜日 ※臨時休業あり
Tel:0470-29-5148
Webサイト:http://www.namiotobiyori.com

野島崎灯台

千葉県南房総市白浜町白浜630
開館時間:9:00-16:00 (10月から4月)
9:00-16:30(5月から9月)
休館日:荒天時
料金:大人200円、子供無料

シラハマ校舎 カフェ・レストランBar Del Mar

千葉県南房総市白浜町滝口5185
営業時間:ランチタイム11:00-18:00
カフェタイム14:00-18:00
ディナータイム18:00-21:00
定休日:火曜日
Tel:0470-29-5848
Webサイト:
http://www.awashirahama.com/nagao/bardelmar.html

白浜豆腐工房

千葉県南房総市白浜町滝口1477
営業時間:11:00-17:00
定休日:火曜日
Tel: 0470-29-7229
Webサイト:
http://shirahamatofu.wixsite.com/andoyoga/blank

WRITER

気になるコラム