アタシが選ぶ本と週末(7)「いしいしんじのごはん日記」 著:いしいしんじ

三浦半島最南端、三崎にアタシ社をうつして半年が経った。三崎の商店街が賑わったGWも過ぎて、いつもの落ち着きを取り戻している。平日の昼間は人よりも猫の方が多く往来し、窓を開ければ風の音が聴こえるくらい静かな街。都心からもそう遠くない、この港町の魅力に惹かれて最近は観光客も増えてきているらしい。

そんな三崎に10年前住んでいたのが著者のいしいしんじだ。数々の名作小説も三崎から生まれ、今でも三崎を愛する作家のひとり。「いしいしんじのごはん日記」はタイトル通り、いしいしんじの毎日の短い記録。誰それと会ったとか、こんなことを感じたとか、作家とはこういう生活をしているのかと新鮮な気持ちで読み進められる。この日記にもたびたび登場する三崎にある魚屋「まるいち」には、今でもいしいしんじの表札がかかっている。実名だらけのこの本は、三崎の町歩きにはもってこいの一冊だし、読んでいくうちに無性に魚が食べたくなる。難しい調理をしていないからこそ、自分でも魚を買って料理したくもなる。短い日記の最後には、きまって今日の献立が書いてある。

晩ごはんは、かわはぎの煮付け、ほたてのバター焼き、コロッケにトマトサラダ、茄子の梅煮。

かます刺し、うるめ刺し。途中でおもいついて、うるめの蒲焼きをつくってみたらうまかった。トマトとピーマンサラダ、冷奴。

ああ、お腹がすいてきた。初めてこの本を読んだのは、海外出張帰りの飛行機の中だった。日本食が食べたい。というより出汁のあるものが食べたい。狭っ苦しい座席で、そう強く願っていたのを覚えている。と同時に、毎日の食生活のことを考えてみたり、三崎の町を練り歩く自分を想像したり、日記でも書いてみようかな、なんて思わせたりもしてくれる本だった。「自分のペースで生きていきたい」、なんて気の緩んだことを、たまには海の近くでゆっくり本を読みながら呟いてみてもバチは当たらないと思う。

文と写真:ミネシンゴ

いしいしんじのごはん日記

著:いしいしんじ
出版:新潮文庫
URL:https://amzn.to/2GFXpo9

夫婦出版社『アタシ社』と申します。神奈川県・三浦市唯一の出版社であり、夫婦ふたりで本をつくっているのが特徴です。夫が編集者、妻がデザイナーという最小単位の布陣でせっせと本をつくっています。夫婦それぞれ編集長として雑誌も創刊しています。 言葉というのは不思議なもので、たった一節で人の人生を変える力を持っています。ですから、できる限り人の人生を、良い方に転がしていけるような本をつくれる生き方をしたいと思うのです。なんて、真面目な話はそこそこにして、ゆっくり本を眺めていってください。

このコラムについて

アタシが選ぶ本と週末〜三崎のちいさな出版社から〜

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