アタシが選ぶ本と週末(6)「おべんとうの時間」写真:阿部了 文:阿部直美

39人のポートレートとお弁当の写真、エッセイ。
ただ、他人様のお弁当を見ているだけなのに、思わず泣きそうになってしまう。お弁当を通して見えてくるのは、一人ひとりの暮らしやお弁当への想い。そして、お弁当を作った人の“愛”だ。

手延べそうめん職人、海女さん、駅員さん、生命保険の営業マン、六花亭製菓、大学教授や幼稚園児など、日本全国津々浦々、さまざまな年代や職業の人が登場する。不思議と、人柄とお弁当がリンクして見える。こぶし2個分はありそうな大っきなおにぎりを頬張る人、飼い猫の残りもんのマグロで巻き寿司をつくる人、お弁当の中身を見て「これは(嫁さんが)ごきげんな日の弁当ですね」と笑う人……。写真も、文も、最高にいい。

中でも、私のお気に入りは生命保険の営業マン中野さんのお弁当だ。こんな微笑ましい一節からエッセイは、はじまる。

「愛妻弁当ですね」と言われると、「恐妻弁当だよ」って答えてるの。毎日っていうわけではないけれど、もう30年近く女房殿に作ってもらっています。

中野さんは、さらにこう続ける

弁当の中身のことは、何も言いません。うん、それはもう言わないことにしてる。もし嫌なこと言われたら、作らないよね、やっぱり。弁当ってふたりで食べるものだと思うんです。作る人と、作ってもらう人のふたり。作ってくれる人の気持ちは伝わるから、ありがたいなぁって思います。そしたら、何も言えないです。

中野さんの言葉をきっかけに、ふと昔の記憶がよみがえる。
私は母がつくるお弁当があまり好きじゃなかった。冷や飯を食べるのがすごく苦手だった。お弁当は好きなおかずだけ食べて、ご飯は盛大に残した。高校生にもなると、コンビニや購買でパンを買うようになり、それ以降、母のお弁当を見た記憶はない。あの頃の私は、母の想いを汲み取れるような子ではなかった。私はふたりでお弁当を食べているとは全然思えなかった。

もう一つ白状すると、私はお弁当を作ったことがない。(料理は好きですよ)

エッセイを読んでいると、「お弁当をつくってみたい」という気持ちになる。誰かのためにお弁当をつくって、それを持って、出かけたい。近くの城ヶ島にでも行こう。もちろん、お弁当の中身は開けてからのお楽しみだ。蓋を開いたときに、笑顔が溢れるような、そんなお弁当を作るのだ。

たかが、お弁当。されど、お弁当。
お弁当には、人生が詰まっている。

あなたには、お弁当にまつわる思い出がありますか?

文と写真:三根かよこ

おべんとうの時間

写真:阿部了
文:阿部直美
出版:木楽舎
URL:https://amzn.to/2FhO59C

夫婦出版社『アタシ社』と申します。神奈川県・三浦市唯一の出版社であり、夫婦ふたりで本をつくっているのが特徴です。夫が編集者、妻がデザイナーという最小単位の布陣でせっせと本をつくっています。夫婦それぞれ編集長として雑誌も創刊しています。 言葉というのは不思議なもので、たった一節で人の人生を変える力を持っています。ですから、できる限り人の人生を、良い方に転がしていけるような本をつくれる生き方をしたいと思うのです。なんて、真面目な話はそこそこにして、ゆっくり本を眺めていってください。

このコラムについて

アタシが選ぶ本と週末〜三崎のちいさな出版社から〜

週末どんな本を読もう。何回も読んだあの本、まだ読んだことのないこの本、思い出の本、はじめての本、涙流した本。実に本との関係は人それぞれです。 では、1つ制約を決めるとすれば—— 「お出かけの時、どんな本を持って行きますか」 ...

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