アタシが選ぶ本と週末(5)「この本が、世界に存在することに」著:角田光代

この本が世界に存在することに

まさに、本の世界を旅しているような感覚になる一冊。

「この本が、世界に存在することに」のタイトル通り、本に対する愛情を力強く感じさせる短編集。普通の人の話なのにこんなにも愛おしく、物語の中に没入できる本は珍しい。それは直木賞作家でもある著者の「書く力」によるものだけれど、物語の流れや読んでいるときの感情の起伏が美しい。美しいとは、なんとも曖昧な言葉だが、その言葉しか思いつかない。こんな物語が、自分にも書けたらなんて素晴らしいことだろうと思う。

本の中には9つの物語が収録されている。中でも好きなのは第一話の「旅する本」。学生時代に古本屋に手放した本と、旅する異国の地で何度も出会ってしまうお話。その本は、紛れもなく自分が売った本なのである。ミステリーのようにも読めるこの物語は、自分にとっての大切な本の存在を再認識させてくれる。

この本を読み終えた直後、不思議な出来事が起こった。

一昨年の秋、鎌倉市内にあるリサイクルショップでNIKEの赤いスニーカーを売ったのだ。サイズは28cmで、かかとを潰したスウェードの靴。右の靴の先端には、黒い油染みがついていて、これはもう売り物にならないだろうと思っていた。案の定、引取金額は100円だった。その靴が、同じ系列のリサイクルショップの東京の千住店にあったのだ! たまたま千住に住んでいる知り合いに会う前に、時間潰しで入った店だった。最初は「まさか……」と思ったけど、間違いない。上に書いた条件がすべて揃っていたのだ。「お前……」と、ついため息混じりに言葉が出てしまった。もちろん、その靴は買って帰らなかった。「旅する本」の物語と同じように、またどこかで会うかもしれないから。

ここまで書いておいてなんなんだが、著者が書いた異国で出会う本と、神奈川東京間で出会うスニーカーでは、話しの比較にならない。全然ドラマチックじゃない。同じ系列のリサイクルショップで、しかも関東圏なんだから、あり得る。赤いスニーカーよ、どこまでも旅をしてくれ。

三浦市三崎

文と写真:ミネシンゴ

この本が、世界に存在することに

著:角田光代
出版:KADOKAWA
URL:https://amzn.to/2qNbT0o

腰越・haletto houseを舞台にした5つのストーリー

2017年12月特集「そこへ、東京トランジット」では、5組それぞれのhaletto houseでの過ごし方をご紹介しています。あなたなら、どう過ごしますか。あなたらしいhouseを見つけてみてください。

https://haletto.jp/201712_halettohouse/

夫婦出版社『アタシ社』と申します。神奈川県・三浦市唯一の出版社であり、夫婦ふたりで本をつくっているのが特徴です。夫が編集者、妻がデザイナーという最小単位の布陣でせっせと本をつくっています。夫婦それぞれ編集長として雑誌も創刊しています。 言葉というのは不思議なもので、たった一節で人の人生を変える力を持っています。ですから、できる限り人の人生を、良い方に転がしていけるような本をつくれる生き方をしたいと思うのです。なんて、真面目な話はそこそこにして、ゆっくり本を眺めていってください。

このコラムについて

アタシが選ぶ本と週末〜三崎のちいさな出版社から〜

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