拝啓、歴史好きのみなさま。水曜日はあのバーで会おう ― 御茶ノ水「レキシズルバー」

「歴史が好き」と言うと、よく驚かれます。高校時代の世界史の授業で古代オリエント史にハマってから、今でも歴史が大好き。でも、その思いを人と共有できないことが悩みです。そんな私に、御茶ノ水に歴史好きが集まるバーがあるという朗報が舞い込みました。

周辺に大学が並び、どことなくまじめなイメージのあるJR「御茶ノ水駅」の聖橋口から徒歩8分ほど歩くと、格子状の外観のショットバー「渡部商店」を発見。普段はお酒と会話を楽しむ一般的なバーですが、水曜日限定で歴史好きが集まる「レキシズルバー」として営業しています。

訪れたのは19時過ぎ。仕事終わりの人や近くの大学に通う学生たちが次々と居酒屋に吸い込まれていきますが、このバーにも徐々にお客さんが集まり始めました。
傍目には普通のバーですが、カウンター席が横いっぱいに広がる店内に入ると、お客さん同士の会話に驚きます。

「幕末ものの大河ドラマを見比べていたら、篤姫、龍馬、新撰組、西郷どん……全部視点が違うことに気付いたんだよ」
「私は南北朝時代をやってほしいけど、地味だから無理かなぁ~」

店内を飛び交うのは、歴史の話ばかり! お客さんは2040代が主で、この日は男性が多めです。

常連の男性:「他の歴史イベントは堅い雰囲気でなじめなくて。でもここはお酒を飲みながら、気楽に歴史を語れるカジュアルさがいいですね。歴史友達もできて、今では休日に一緒にお城巡りをしています」
初来店の女性:「歴史好きの知人がSNSで紹介していたのが気になって、一人なんですが、思い切って来ちゃいました」

この日が初来店という女性も、周りの人に話しかけられ、あっという間に輪の中へ。歴史好きという共通項を持つ者同士。挨拶代わりに「いつの時代が好きですか?」と声をかければ、自然と歴史談議に花が咲くのです。

ところで、どうして歴史好きが集うバーができたのでしょうか。レキシズルバーを営む、株式會社渡部商店の渡部麗さんにお話を伺いました。

渡部さん:「僕が歴史を好きになったのは、昔話をしてくれた祖母の影響が大きく、幼稚園の頃に零戦や戦艦大和にハマったのがきっかけでした。御茶ノ水で母が営んでいた広告業を継ぎ、歴史雑誌の広告の仕事をしていたんです。仕事の一環で『レキシズル』という歴史好きのための交流活性プロジェクトを媒体と一緒に創って、のちに渡部商店で引き継いだのです」

当時からショットバーも経営していましたが、「レキシズル」の活動を引き継いだ頃に水曜日担当のバーテンダーが退職。そこで渡部さんはひらめきます。

渡部さん:「『レキシズル』は、イベントなどを通して歴史の世界を誰でも気軽に楽しめるものにしたい、と始まったプロジェクトでした。そこで、『歴史好きが集まって歴史トークを楽しめるバーをやったら面白いのでは』と、2008年から水曜日限定のレキシズルバーを始めることにしたんです」

その翌年には、世にいう「歴女ブーム」が到来。メディア取材が殺到して、バーの存在が一気に有名になり、現在に至るまで約10年、歴史好きがつながる場となっているのです。

ここでは歴史を楽しく解説するプレゼンイベントも開催されています。開催時間もテーマもその日によりさまざまですが、この日は遊郭で有名な「吉原」をテーマに、バーと同じビル3階の広間「レキシズルスペース」で1時間の歴史プレゼンが行われました。

広間には40人ほどの参加者が集まり、お酒とともに熱い歴史話を繰り広げていました。21時頃になると、渡部さんに歴史プレゼンの技術を認められたお客さんでもあるプレゼンターの2人が登場し、イベントスタート。

有名な江戸時代の剣豪・宮本武蔵が吉原に通いすぎたあまり、戦いに出る際に「吉原より出陣」と記録されてしまった笑い話や、吉原には遊女の華やかな着物を見物に来る女性もいたらしく、実はファッションショーのような一面もあったなどという歴史ネタがたっぷり語られました。

お客さんからの合いの手も入り、テンポよく進む歴史プレゼンは終始和やかなムード。多くのお客さんが、「学校の歴史の勉強は苦手だったけど、この歴史プレゼンは好き」と語っていたのが印象的でした。

渡部さん:「歴史の本当の面白さは『人』。先人の生き方から、自分がどう生きるべきか学べるんです。歴史の講演は堅いものが多いですが、ここでは肩の力を抜いて、歴史をポップに、エンタメ的に楽しむことを大切にしています」

これまでは「歴史が好き」と言っても「個性的な人」と思われるだけで、共感してくれる人にはほとんど出会えませんでした。その分、レキシズルバーとの出合いは、「歴史好きって世の中にこんなにいるんだ!」という嬉しい発見でした。疲れた仕事帰り、自分の居場所に帰るように、足取り軽く立ち寄ることでしょう。

帰り道。学校や博物館などが並ぶアカデミックな街・御茶ノ水の夜は、居酒屋から笑い声が絶えず、昼間とは違う気さくな雰囲気です。それは、硬派な学問をカジュアルに語るあのバーの空気そのもののように思えたのでした。

写真:ogata

レキシズルバー

東京都千代田区神田駿河台3-3 イヴビル1F
TEL:03-3293-0733(バー)/03-3293-2013(オフィス)
営業時間:水曜18:30-23:30(LO23:00)
定休日:日~火、木~土曜
※歴史プレゼンイベントのスケジュールはWebサイトを要確認
Webサイト:
http://www.rekisizzle.com/about_bar.php
https://www.facebook.com/rekisizzle/

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