アタシが選ぶ本と週末(4)「100の指令」著:日比野克彦

100の指令

おそらく、私だけではないと思うのだが。心の中に棲む何者かが、私に対して「謎の指令」を出してくることがある。

「横断歩道の白いところだけを歩いてみよ」とか「今から、30秒以内に青い車を見つけると、今日はいいことがあるぞ」といった、他愛のない指令。私は子供の頃から、指令がくだされると忠実に遂行して遊んでいた(31歳になった今でもこっそり遊んでいる)。ごくたまに「10秒以内にホームに電車がこなかったら、お前は死ぬ」的な、物騒な指令がくだることもある。10秒過ぎても電車がこないと、「仕方ない、もう20秒やろう」という謎の温情措置がとられ、私は生き延びさせてもらっている。

現代美術家・日比野克彦さんの「100の指令」は、そんな指令が100個も集められた本である。装丁には「口の中をベロで触って、どんな形があるか探ってみよう。」と書かれている。一体、何人の人が書店でこの装丁を見て、こっそり、口内をベロでレロレロしただろうか……?(人間は意外と素直な生き物なのだ!)

100の指令の中には

野良猫に名前をつけてやろう

ご飯のお米は「種」なんだと思いながら食べてみよう。

といった微笑ましいものや、

いらなくなったシーツを外に持ち出して、ピクニックにでかけよう。いろんな場所に自分の場所を作ってみよう。

自分がジャンプしている間に地球が何メートル回ったか、想像してみよう。

といった、おでかけにぴったりなものもたくさんある。

100の指令

中には、

ドアの取っ手がもしなかったらどうなるのだろうか。取っ手を使わずに生活してみよう。

知らない人の名前を100人書いて、その人がほんとうにいるか電話帳で調べてみよう。

帽子の中に秘密の言葉を書いた紙を入れて街を歩いてみよう。

なんて、不思議なものもたくさん!

眺めているだけでも楽しい本だけれど、旅行や日々の散歩にでかけるとき、手に取ることを勧めたい。脈略のなさ、目的のなさは人を不安にさせる。でも、ダンドリどおりに駒を進めては、人生に事件はおきない。知らない街に降り立っても、「〇〇駅 グルメ おすすめ」なんて無粋な検索をせずに、この本の指令に従ってみてはいかがだろうか?

なにより、日比野さんの指令は洒落ている。遂行すると、なにか大切なことに気づくようにお膳立てがされている。現代美術家の脳内司令本部は天才揃いなのかもしれない。

三崎海岸

文と写真:三根かよこ、街の写真:ミネシンゴ

100の指令

著:日比野克彦

出版:朝日出版社

URL:https://amzn.to/2Jo9C3I

腰越・haletto houseを舞台にした5つのストーリー

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夫婦出版社『アタシ社』と申します。神奈川県・三浦市唯一の出版社であり、夫婦ふたりで本をつくっているのが特徴です。夫が編集者、妻がデザイナーという最小単位の布陣でせっせと本をつくっています。夫婦それぞれ編集長として雑誌も創刊しています。 言葉というのは不思議なもので、たった一節で人の人生を変える力を持っています。ですから、できる限り人の人生を、良い方に転がしていけるような本をつくれる生き方をしたいと思うのです。なんて、真面目な話はそこそこにして、ゆっくり本を眺めていってください。

このコラムについて

アタシが選ぶ本と週末〜三崎のちいさな出版社から〜

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