人と街をくるむ、温かなつながり ― 毎月第3日曜日、港の朝市「大磯市」

日曜日の朝8時。JR品川駅で東海道線に乗り換え、神奈川県にある大磯駅へ向かいました。ここでは毎月第3日曜日に朝市が開かれています。
この「大磯市」は、大磯駅から徒歩15分程度の港で行われる朝市。周辺でカフェや雑貨屋を営んでいる人、地元の陶芸家など、街にゆかりのある方が出店しています。かつては別荘地として栄えていた街を、住む人にとって居心地のよい場所にしたいという思いから始まり、今回で90回目を迎えました。出店しているお店には、「手作り」「地域のものを使っている」などいくつか基準があるそうです。そのため、ここでしかないものに出会える可能性がとても高い。

駅を降りて、海の方へ歩きます。到着するとすでに大勢の人で賑わいを見せていました。早速私も散策を始めます。

「どちらからいらしたんですか」と声をかけてくれたのは、大磯から車で30分程の秦野市で、「きょうのおやつ」を営んでいる朝倉さん。おやつは卵、乳製品、白砂糖不使用、小麦はすべての商品で、地元で採れたものを使っているそうです。

輪切りになったゆずがてっぺんにのっている「花ゆず」マフィンを買いました。ゆずは秦野にある朝倉さんのご実家で採れたものです。中に入っているゆずの果肉がアクセントになり、到着早々心が躍ります。

陶器が並ぶお店を通りかかった時、楽しそうな子どもたちが描かれている箸置きに、目を奪われてしまいました。作っているのは陶芸家の岡村さん。大磯市の第5回目から欠かさず出店しているのだとか。毎回出ている魅力を聞くと、「出店者や来場者と仲良くなってるからですかね。でも、ほとんどもう意地ですよ」と顔いっぱいの笑顔で答えてくれました。

商品は一つ一つ手書き。箸置きの裏にはウサギや花柄などが書かれていて遊び心もたっぷりです。すべて違うけれど、共通して言えるのはどの商品からも楽しそうな様子が伝わってくること。笑顔の素敵な岡村さんが作るものだからこそ、なのかもしれません。

続いては今回の目的の一つでもある、焼きいも屋さん。大磯市のロゴも作成した、チョウハシトオルさんの「やきいも日和」です。チョウハシさんの作るつぼ焼いもは、前日に予約をしないと売り切れてしまう程の人気。私も事前に予約して行きました。

チョウハシさん:「出店していると、出店者同士でも仲良くなれるので楽しいですよ。例えば隣のパウンドケーキ屋さんとはコラボで『焼きいもパウンドケーキ』を作っています。身の回りのものも、大磯市で仲良くなった人から買うようになって、今家にあるものはほとんどが出店者の商品になりました。家具も仲良しの人から買うと、古くなっても気軽に直してもらえるんですよね。普段使っているものの作り手の顔がわかると大切に使いますし」

作り手の顔がわかるものって、身の回りにいくつあるだろうと考えると、本当に数えられるくらいしかないことに気づかされます。もしかしたら、1つも無いのが普通なのかもしれません。

話に出ていた隣のパウンドケーキ屋さんは、姉妹で大磯にお店を構えています。

塚原さん:「一度降りてみたら、とてものんびりした雰囲気に惚れてしまって。駅を降りた瞬間に感じた空気で移り住むことを決めました。住んでみると同世代の人が活躍されていたり、私たちみたいに移ってくる人もいたり。ますます大好きになりました」

最後に、大磯市をとりまとめている原さんにお話を伺いました。原さんは、高校の頃から地元・大磯が好きだったといいます。

原さん:「昔の”別荘地としての大磯”は、別荘の間にちょっといい雰囲気の小道があるような、独特の雰囲気を持っていたんです。でも、物件を次の代に受け継いでいく人が少なくなった今、街の雰囲気が失われていくことに気づきました」
自分の好きな大磯の姿を「どう残していくか」考えた結果が大磯市だったのだと、原さんは言います。

原さん:「もともと漁協の朝市がこの時間にやっていて、魚が獲れない時はお客さんが激怒してしまうことがあったんです。ほかにも買えるものがあれば……そうだ、ここで朝市を開こう! と思ったことが大磯市のきっかけになりました」
原さん曰く、大磯は住宅需要があって家賃は高め。だからお店を開くには費用がかかります。そこでまず、大磯市に出店することで、お店を出す時のシミュレーションをしてもらうのです。ある程度ファンがついたら店舗をもつ流れをつくることで、港を「チャレンジの場」として開放したんです。

原さん:「街のほうも、空き家の増加が問題視されています。大磯市でチャレンジした人がその空き家を使ってもらえれば、街そのものの課題解決になる。そうやって実際に作られたのが、大磯市のアンテナショップ『つきやま』です」

「港をチャレンジの場に」と思って始めた大磯市。ここから街ぐるみの大きなコミュニティも出来たと教えてくれました。

原さん:「『今月は市、できそうなの?』と街の人が話しかけてくれるんです。みんなこの辺の人だから、もちろん出店者同士は仲良くなるし、来場者も、出店者に会うために来るようになったりして。
知り合いがたくさんいる地域はやっぱり居心地がいいから、みんな住み続けてくれるんですよね。

街を歩くと知り合いがいて、世間話をしたり、そのまま一緒に飲みにいったりできる。そんなご機嫌な休日が過ごせるって、すごく楽しいですよ。そのコミュニティのプラットフォームを、大磯市で作り上げていっている気がするんです」

チョウハシさんの焼きいもを、包みを開けて半分に割ると、真っ黄色の中身が顔を出しました。今までに見たことのないほどのみずみずしい焼いもは、まるでケーキ屋のスイートポテトのようにしっとりとして、とても甘い。

かすかに磯の香りを運ぶ、ひんやりと冷たい風。やさしく暖かい日だまり。周りにはレジャーシートを広げる家族や釣り人など、お散歩ついでに立ち寄りたくなる雰囲気が、いつまでもここにいたいと感じさせてくれました。

出店者も来場者も一緒になって楽しんで、街全体にあたたかな雰囲気を作り出している大磯市。来月も「会いに行きたい」と思ってしまう心地よさがあります。あなたにはどんな出会いがあるでしょうか。ぜひ一度、早起きして訪れてみてください。

大磯市

日時:毎月第3日曜日 9:00-14:00 ※7-9月は17:00-20:30
会場:大磯港 (神奈川県中郡大磯町大磯1398-18)
アクセス:
電車 東海道本線「大磯」駅 徒歩約15分
車  県営駐車場2ヶ所(1時間310円、1日上限1020円)、大磯役場の駐車場1箇所(1回300円)
※役場駐車場の営業時間は8:30-17:00(7-9月は7:30-18:00)
Webサイト:
https://www.oisoichi.info/

東京生まれ、東京育ち。好きなものは旅とらくだとピクニック。おいしい野菜やブッダの教え、お洒落なバーと本屋さんに心惹かれます。

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