昭和のビルを舞台に醸される新しいカルチャー 川崎の複合施設「unico」

JR川崎駅の改札をくぐると、新しくなった駅ビルの様子に驚きました。明るい駅構内、行き交う人の多さ、数年前に来たときとだいぶ印象が違います。

川崎駅

変わりゆく川崎の街並みを眺めながら、線路沿いに歩くこと10分。工業地帯に出稼ぎに来た人たちが集まる簡易宿泊街でもあった日進町に、今回の目的地「unico(ウニコ)」はあります。

日進町

「unico」とはイタリア語で「唯一無二」という意味。 オフィスや飲食店などが入る複合施設としてオープンしたのは2017年ですが、建物自体は1965年ごろに建てられたものです。

もともとは「ヨネヤマ」という食品包材を扱う会社の本社ビルでした。

ヨネヤマ

高度経済成長期に建てられたこのビルには、工場に加え、住み込みで働く従業員のための住居や食堂もあったのだそう。しかし、時代の流れからヨネヤマは拠点を移すことに。

空っぽになったビルを壊すことはせず、選んだ道はリノベーション。さまざまな夢やバックボーンを持つ人々が集う「唯一無二」の存在として、新たな一歩を踏み出したのです。

unico

unicoは、unico Aとunico B、そしてunicortと名付けられたバスケットボール施設の3棟からなります。まずは5階建てのunico Aへ。

unico

unico

1階は天井が高く、クラフトビール工房「TKBrewing」や、おじやが人気のカフェ「スタンド日進」、そして、木材を専用の3Dプリンターとプログラミングによって削り出し、生活に活かせる部材を創造している「VUILD」といったユニークな3つのテナントが入っています。

TKBrewing

TKBrewing

スタンド日進

スタンド日進

VUILD

2階には卓球ラウンジと接骨院、3・4階には、クリエイターや個人事務所向けのスモールオフィス・シェアオフィスがあります。

unico

unico

unicoでは、各オフィスの扉の装飾や机などにVUILDが加工した木材が多く使われているのだそう。新しい技術で生み出された木のぬくもりが、築50年以上の建物の佇まいと共存しています。

unico

暖かい季節にはヨガ教室なども開催されるという中庭を通り、unico Bへ。unico Bはもともと、ヨネヤマの従業員が住む住居棟でした。今後はシェアハウスとして活用される予定です。

unico

そもそも、なぜ古いビルを取り壊さず、リノベーションを選んだのでしょうか。ヨネヤマ創業者のお孫さんであり、unicoのオーナーでもある武井雅子さんと、リノベーションを手掛けた株式会社NENGOの中村彰さんにお話を伺いました。

一度壊してしまったものは二度と元通りにはならない

武井雅子さん

武井さん:「ヨネヤマ創業者である祖父は長野から上京し、終戦後の1946年に川崎で商売を始めました。当時は集団就職で長野から上京する子どもたちの受け入れ先にもなっていて、中卒くらいの年頃の従業員も多かったので、夜には先生を呼び、夜間学校のように国語や数学の授業も開いたと聞いています。ここに住む従業員は、祖父をだんなさん、祖母をおかみさんと呼んでいたそうです。6畳ほどの部屋に4人から6人で生活し、毎月末のお給料日には5階にあった講堂でみんなで納会をしたり。まるで大きな家族みたいですよね」

ラジオ体操

しかし時代は変わり、本社ビルはヨネヤマでの役目を終えることに。

武井さん:「築50年以上の古い建物だから、壊して新しいビルを建てようという話もあったんです。そんなときにNENGO代表の的場さんとお話をしたら、壊す必要はないのでは? と言ってもらえて」

中村彰さん

中村さん:「創業者の想いや、従業員の方々の血と汗と涙の結晶がここには残っています。的場は、商売の神様やヨネヤマの魂が宿っているこの建物をなくしちゃいけないと感じたんだと思います」

武井さん:「本当は、壊して新しいものを建てた方が収益面ではメリットがあるんです。でも、一度壊してしまったものは二度と元通りにはならないでしょう? 昔の素材って、ひとつひとつにすごく熱量が込められていますし。だからリノベーション工事のときには、それは壊さないで捨てないで、と毎日現場で言っていましたね」

川崎

unico

中村さん:「オーナー自ら工事現場で指示をする熱意に応えたくて、経年変化によってできた壁の雰囲気も活かせるよう、NENGOとしても試行錯誤を重ねました。ドアノブひとつであっても、とても貴重で大切なものです。ここにしかない歴史を背負っていますから」

unico

「発酵してる?」に込めた未来への想い

NENGOはリノベーションのほか、テナントの入居手続きにも携わっています。「これからスタートアップする方々を中心にお声掛けしています」と中村さん。unicoのスローガン「発酵してる?」には、unicoで出会い、成長していく人たちへの想いが込められているのだそう。

unico

中村さん:「発酵が進むとき、微生物が活発になることで旨味成分が増していきますよね。ここで言う微生物はunicoに携わる人。unicoで出会った人たちがどんどん関わり合い、発酵、つまり成長してもらえたらと思っています。時間はかかるかもしれないけど、発酵するようにじっくりと変化していきたい。唯一無二の面白いことにチャレンジしているテナントさんと、unicoでしか生まれない新しい価値をつくり出していきたいです」

unico

発酵と聞いて頭に浮かんだのは、unico=大きなぬか床、というイメージ。

中村さん:「そうですね。ぬか床として整えて、たまにかき混ぜて。そこに入ればおいしくなれる、ぬか床のような場でありたいですね」

武井さん:「そうそう。ぬか床は経年で自然と調整されていきますし、ぬか床で発酵して栄養価が増える野菜もありますよね。そんなふうにunicoにやってきた人が、発酵して、アウトプットして、unicoが認知されてまた新しい人が集まってくる。そういう流れができたらいいですね」

unicoには、昭和という時代を駆け抜けたヨネヤマの面影がたくさん残っています。壁、窓枠、カーテンレール、置かれている時計も当時から使われていたものです。

unico

リノベーション工事を進めているとき、「それは風景だから壊さないで」と何度も口にしたと、武井さんは笑って話していました。

壊してしまったものは、もう元には戻せない。重機で取り壊される福祉センターの建物を屋上からぼんやり眺めては、武井さんの想いの強さを感じました。

新しい時代の訪れによって生み出されるものと、時間の経過によって古くなったもの。そのどちらも大切にするunicoの試みは、新旧の風景が共存する、新たな「川崎らしさ」になっていくのかもしれません。

川崎

川崎

(写真:土田凌)

unico

神奈川県川崎市川崎区日進町3-4

アクセス:JR「川崎駅」東口徒歩10分、京急「八丁畷駅」徒歩7分

Webサイト:http://unico.link/

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