映画と本とパン。わたしの好きなもの、ぜんぶ ― 鵠沼海岸「シネコヤ」

海岸

江ノ島

ある冬晴れの朝、江ノ島はたくさんの人で賑やかでした。富士山もはっきりと見えたこの日はあたたかく、ランニングやサーフィンを楽しむ人も。海のそばでの暮らしを想像しながら鵠沼海岸方面へ向かいます。20分ほど歩いていくと、あたりの景色が観光地・江ノ島から静かな住宅街へと変わって、映画と本とパンの店「シネコヤ」に到着しました。

シネコヤ

シネコヤ

ここは何だろう? と思わせる雰囲気のある店構え。一歩足を踏み入れると、はじめてとは思えない懐かしさを感じます。

「シネコヤ」は本を読んだり映画を観たり、おいしいパンやコーヒーを食べたりと楽しみ方の尽きないお店です。入ってすぐにはパンやコーヒーを楽しめるカフェ、奥には1日券を買った人が本を読んだりパンを食べたりするテーブルがあり、2階では本のテーマに沿った映画が流れています。1日券の購入で出入りが自由なので、9時から20時まで営業時間内は、鵠沼の街を散歩したり、海へ足を運んだり、自由に過ごすことができます。

シネコヤ

シネコヤ

シネコヤ

2017年4月にお店がオープンする前は、各地のイベントスペースで映画上映会を行っていた「シネコヤ」。オーナーの竹中さんが学生時代、2010年に閉館してしまった藤沢の歴史ある映画館「フジサワ中央」でアルバイトをしていたこともあり、昔ながらの映画館の空気を演出として再現されたそうです。もともとは空き家になっていた写真館を改装し、壁には当時の壁紙がアクセントとして残されています。はじめに感じた懐かしさはこの街で愛されてきた歴史があるからこそ、なのかしれません。

シネコヤ

シネコヤ

シネコヤ

「シネコヤ」では1日に2本、本に合わせて関連の映画が流れていて、作品は2週間ごとに変わります。今日の映画は「パレードへようこそ」と「わたしは、ダニエル・ブレイク」。私は「どんとこい、貧困」(著:湯浅誠、出版:イースト・プレス)を元に選ばれた「わたしは、ダニエル・ブレイク」を観ることにしました。

わたしは、ダニエル・ブレイク

時間があったので、腹ごしらえをしようと1階へ。ここで販売されているパンは自家製天然酵母を使ったこだわりのパン。パン職人のチコさんが毎日お店で焼いていて、近所の方にも「チコパン×クゲヌマ」という愛称で親しまれています。私は甘酒餡が入ったシネコヤあんぱんと雑穀のカンパーニュをいただきました。

パン

奥の本棚に囲まれたスペースでは、みなさん思いおもいにおしゃべりしたり、本を読んだり。本棚には映画雑誌「キネマ旬報」がずらり。映画にまつわる本だけでなく、読んでいて「ほっ」とできそうな本もたくさん並んでいました。

本棚

そろそろ映画の時間です。2階はぼんやりとした灯かりと本に囲まれていて、まるで映画に出てくる映画館のよう。隅の席でうたた寝しながら過ごしたい……そう思わずにはいられない素敵な空間が広がります。

シネコヤ

シネコヤ

お客さんが着席すると、
竹中さん:「それでは、お待たせいたしました。当店は出入り自由です。ごゆっくりおたのしみください」
この声がなんとも優しく心地よいんです。昔の映画館はこうだったのかなとイメージが膨らみます。普段シネコンで鑑賞するのとはまた違う、不思議な一体感。心地よい静けさのなかで、シネコヤの世界を堪能させていただきました。

「わたしは、ダニエル・ブレイク」は、ある親子の物語。人として何を大切にするのか、どんな風に愛するのか、現代でどう生きていきたいのか。なんでもスマホやインターネットで完結してしまう日常のなかでは、コミュニケーションすらも億劫に感じてしまうことがあります。それでも人は必ず誰かに支えられていることをあらためて思い出させてくれました。

パンやコーヒーを目当てに訪れて、思わぬ作品との出会いがあるのも「シネコヤ」の楽しみ方といえるのかもしれません。こんな風に心をゆるめる時間を過ごせる場所を持てたら。人とのつながりやあたたかさを思い出させてくれる場所をまたひとつ見つけました。

シネコヤ

すっかり暗くなった鵠沼海岸の街。海の近くで出会う人たちは、なんだか穏やかであたたかい。ここに住めば、気取らず過ごせるのかなあ、なんて想像をめぐらしながら帰路につきました。

シネコヤ

江ノ島

江ノ島

 

シネコヤ

神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6
営業時間:9:00-19:00(L.O)20:00(CLOSE)
定休日:水曜日
駐車場:なし
http://cinekoya.com/

映画「パレードへようこそ」

監督:マシュー・ウォーチャス(2014,イギリス)

舞台は不況に揺れる1984年のロンドン。ストライキ中の炭鉱労働者の支援のために結成されたLGSM(炭坑夫支援レズビアン&ゲイ会)を中心に、人としての権利やつながりを描いた作品。

映画「私は、ダニエル・ブレイク」

監督:ケン・ローチ(2016,イギリス)

世界中に広がる貧困や格差と複雑な制度をリアルに訴え、誰かのために何かをしたいと思えることの素晴らしさを教えてくれる。人との関わり方に悩んだときにこそ、じっくり見てほしい作品。

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