Mucchi’s Caféの【おとなの絵本教室】Vol.15

あらすじは…
遠い昔に田舎で建てられた頑丈な「ちいさいおうち」。この「おうち」は、季節を感じながら、リンゴの木や月の満ち欠けとともに幸せに暮らしていました。時代の変化とともに次第に町が近づいてきて、町に飲み込まれて、小さな町から都市へと変化していきます。しかし、「ちいさいおうち」が本当に好きだったのは静かな田舎でした。

初版は1942年、古さを感じないスタイリッシュなおしゃれな絵本。インテリアの一部としても表紙を向けて飾りたいくらい、良さは色あせません。あまりに激変する環境を淡々と静かな文章で語りかけてくれる絵本。同じ場所が描かれているとは思えなくなるほどです。時間の経過、季節の移り変わりを緩やかに美しく表現されていて、小さい頃お気に入りの1冊だった方もいるはずです。

この絵本が変わらず今も愛されている理由は何でしょうか。変わってほしいもの、変わらないでいてほしいものが私たちの心の中で葛藤するからだと、私は感じました。

周囲の環境に合わせるのは大切なこと、でもその良さや個性を失ってはもったいないと思うのです。私は東京に20年近く住んでいます。便利ですし、生活に不自由を感じません。たまに実家に帰ると、電車が1時間に1本しかない、どこに行くにも車がないと移動できない環境に不自由を感じます。

幼かった頃、実家の周辺は一面田んぼでした。春には田おこしが始まり、山々は新緑が芽生え、夏の夜には心地の良いカエルの大合唱の子守歌。秋にはたわわに実った黄金色の稲と、その上を飛び交うトンボ。冬はしんと静まり返った一面の雪景色。四季を感じることが当たり前でした。

私が高校生になった時に、実家の周りの一面の田んぼには大きなスーパーができました。便利になり、周りにも多くの人が集まってきました。それはまるで、「ちいさいおうち」を見ているようでした。

「ちいさいおうち」を読む度に、季節が感じ取れない都会、そして当たり前だったことが幸せに思えることをふと立ち止まって考えることができます。

進化すること、発展することは決して悪いことではありません。良いものをどのように残していくか、共存していくかということです。「ちいさいおうち」は自分が住みよい自然を感じることのできる田舎に移住することで解決しましたが、一度失ったものをもう一度取り戻すことは難しいのが現実です。私たちの世代は、未来を考える力があります。現在の自分たちのことだけでなく、未来のために、一度立ち止まることもできるのだと思います。

本当に大切なものはなにかを考える1冊です。

ちいさいおうち

作・絵:バージニア・リー・バートン
訳:石井桃子
出版:岩波書店

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福島県出身。元保育士、夢の国の住人を経て現在、高円寺にある「絵本カフェ ムッチーズカフェ」の店長として、オーナーむっちと共同経営中。絵本専門士として、店内に置く絵本を選書しています。口癖は「ご縁って大事よね~」。ゆでたまごが好き。お店のTwitter の中の人。

このコラムについて

Mucchi’s Caféの【おとなの絵本教室】

絵本にはいろいろな魅力があります。よく考えてみると怖い話から、ほんとに人生に役立つ良い話まで。忘れた気持ちを思い出さしてくれる、おとなのための絵本を紹介します。

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