【scene 03 ― 心を込めた東京レター】睡眠散歩 3人の夢日記

こんな夢を見た。

一つの机がある。そこへ座っている私はおもむろに先のよく尖った一本の鉛筆を手に取る。白い便箋になにやらつらつらと書き連ねている。見えそうで見えないその手紙だが、ぐっと身を乗り出して覗き込もうとした瞬間、その「私」は「私」の方を見た。目と目があった時、ふと目が覚めた。静かに朝がやってきた。

ご紹介する話は、そんな夢の話です。

■chapter 01−星の夢を見た。

桜新町

私はわりと夢を見る体質です。よく見る夢は、見晴らしのいい首都高を超スピードで走りながら、そのままカーブに突っ込んで落下するというスリリングなもの。幼い頃、母が運転するお世辞にも丁寧とは言えないドライブで、よく出かけていたことが原因だと思います。

本音を言えばもちろんそんな恐怖体験ではなく、心が穏やかになる、雄大で幻想的な、美しい夢を見たい。例えば空とか、宇宙のような。

そう思って訪れたのは、桜新町駅から徒歩10分のところにある「世田谷区立教育センタープラネタリウム」。

土曜日の昼下がり。このドームの下には、小さなお子さんを連れた親子や常連さんっぽいご年配の方など、約20人ほどがまばらに座っていました。

桜新町

座席シートは、まるで映画館のようにふかふかで、前の席との幅も広い。これはいい夢が見られそうです。

「せたがやプラネタリウム」の投影プログラムは、館内の解説員さんがライブでお話してくれる「星空解説」と、アニメストーリーと星空の映像が組み合わされた「オリジナルオート番組」による2部構成となっています。

世田谷プラネタリウム

午後1時半。前半の「星空解説」が始まりました。世田谷区で見られる今日の星空から、東京ではお目にかかれない満点の星まで、様々な夜の空が眼前に大きく広がります。男性らしい落ち着いた、でも柔らかな声色が印象的な解説員さんが、まるで読み聞かせをするように丁寧に優しくお話してくれます。

「夏の大三角、見えますか? チーズケーキみたいな形ですねえ」

「織姫と彦星の間に流れるのが、天の川。世田谷ではもう見られなくなっちゃいましたねえ」

「空を飛ぶ馬、というとなにかわかりますか? そう、ペガサスですね。でも星座のときは、ぺガスス座と呼ぶんですよ」

世田谷プラネタリウム

解説員さんの耳触りの良い声と、幾億の星が瞬く美しい映像。さらには椅子の適度なリクライニングの心地良さもあってか、究極のリラックス状態になってしまった私は、後半のプログラムが始まる頃には夢の中へ……。

目が覚めると、プログラム終了の時間。頭の中には星空ではなく、小さい頃に父と散歩に出かけたときに見た、秋の通学路の景色がうっすらと残っていました。イチョウの葉が敷き詰められたあの黄色い道を歩きながら、落ちている木の実や野花を見つけては「これはなあに?」と父に尋ねている自分。そして、なんでも教えてくれる父の言葉。

せたがやプラネタリウムで知ったのは単純な「星座の見方」ではなく、子供の頃に感じた純粋な好奇心と、それを満たしてくれる人がいることの大きな安心感だったかもしれません。大人の休日にぴったりの、心落ち着く時間がここにはあったのです。

(haletto編集部 折戸)

■chapter 02−写真家の夢を見た。

下高井戸

毎日の色々なこと、あまりに色んなことが頭の中にうずまいて、強制的に別のことをインストールしたくて、金曜日は映画を観ようと思い立ちました。映画では寝てしまう家系ですから、少し休息も取れるだろうという算段でした。

高齢の男が、椅子に沈み込んで話している。写真のこと、妻のこと、嫌いなこと、人生に関するちょっとした皮肉。部屋を無造作にいじり、紙や本や箱の膨大な堆積の中から見つけた思い出を語る。その老人は、40年代にカラー写真の先駆者として知られ、ファッション誌で成功した写真家。その後、ニューヨークの街を切り取った日常の写真で再度注目を浴びる。男の名前はソール・ライター(SAUL LEITER)。

下高井戸シネマ

映画のタイトルは「写真家ソール・ライター ~急がない人生で見つけた13のこと~」。人生の沈殿のような、モノだらけの部屋で撮られたインタビュー映像と、カメラ片手に散策する様子、ところどころに過去の作品や亡き妻との思い出が差し込まれる75分。部屋では猫が自由に歩く。まったく話を聞いてない猫。

下高井戸シネマ

わたしの住む部屋から最も近い映画館、下高井戸シネマ。京王線下高井戸駅の目の前、ビルの2階にある1スクリーンの小さな上映館です。仕事帰りにぎりぎりすべりこみ、映画のプロが座るといっていた最前列の右端に座りました。

下高井戸シネマ

その日はとても疲れていたんです。朝から晩まで人と話し、調整し、あらゆることが課題で、義務で、活動しないといけない1日でした。頭はとっくに重くなっていて、低気圧を首の上に乗せたまま映画館を訪れました。座席に沈み込んで海の向こうに住む写真家の話を見つめながら、自分との共通点や日々の悩みへのヒントをぼんやりと探します。劇場の中はあたたかく、写真家の低い、すこししゃがれた声が毛布のように場内を覆っていました。

下高井戸シネマ

終映。なんとなく、外は雨だったらいいのに、と思いながら映画館を出ました。すっかり夜になった街は秋らしい冷えもあって、湿っていました。世田谷線の車両が暗い住宅地の中へと走り去っていきます。踏切の足元には、だれかの落とした黄色い付箋がはりついていました。「ヒロにおみやげ」。忘れずに買って帰ったのでしょうか。

映画を観て帰るののよいところは、それまで頭の中でぐるぐるとしていたことが、白昼夢のような時間を経て(実際、うたた寝をし)、カチッと別回転になること。眼に映る風景に、映画の延長を求めたくなります。その間「いつも」はおあずけ。スパイ映画を観た後、道行く人にドラマを感じてしまうようなことです。

下高井戸シネマ

帰り道のこの風景も、あの人ならすばらしい瞬間に切り取れるのでしょうか。わたしの部屋は、彼に比べなんとモノがないことでしょう。堆積のない部屋。ベッドに倒れこんでみた夢には、猫が1匹でてきて、わたしはその猫をケージに入れるか、とても迷っていました。

彼は「幸福は人生の要ではなく、それ以外のすべてが人生である」といいました。わたしは確かに自分の人生そのものとして家路を歩き、わたしの部屋の、わたしのベッドで息をはきました。明日もわたしの人生はつづきます。

(haletto編集部 百江)

下高井戸シネマ

■chapter 03−私が小学生だった頃の夢を見た。

保田小学校

1年1組というプレートのかかった教室のドアを開けると、ふたつ向き合って並んだ勉強机が目に入り、思わずクスリと笑ってしまった。「懐かしい」。

千葉の保田にある道の駅「保田小学校」は、原型をなるべく残すようにしてリノベーションされた宿泊施設。

保田小学校

東京から向かって夜遅くに着いた私は、強い眠気に誘われるまま布団に潜り込み、そのままぐっすり眠り込んでしまった。明け方は5時頃だったろうか、一度目が覚めたが、その直前に夢で見ていたのが、柔らかい黄色のクレヨンで塗りつぶしたような田舎の景色だった。咲き起こる一面の菜の花畑のそばを歩いているのは幼いころの私と祖父である。

保田小学校

祖父から「たかこ、でかけよう」と誘われると、私はいつもうれしいと思うのと同時にすごく緊張したものだ。一緒に散歩をしているときも、不二家のパンケーキを食べに行った時も、はじめての海遊館でも、祖父はいつも一言「おいしいか?」とか「楽しいか?」とだけ聞き、私が大きくうなずくと「そうか」と言って、それ以上に言葉を継ぐことはなかった。寡黙で厳しい人だった。

保田小学校

一度激しく怒られたことがあった。私が3つか4つの頃、祖父から借りたハサミをなくしてしまったのだ。「探して必ず返しなさい。」という言葉に、家を飛び出し探しに行った。気づけばすっかり暗くなり、もう一生お家には帰れないのだと声を出して泣いていた私を、探しにきた人がいた。祖父だった。困ったような顔で「帰ろう」と一言言って前をズンズンと歩き出した大きな背中。そこにはごめんと書いてあるように見えた。

「言い過ぎてごめん」

8年前、しばらく会っていなかった祖父が亡くなったと聞いたとき、私は平静だった。しかし最後のさよならをするときになって、怒っているのか笑っているのか分からない武骨な表情の祖父の写真を見た瞬間、一気に何かが胸にこみあげてきた。それから2時間くらい泣き通しに泣いたように思う。

保田小学校

その時の私は「もっと会いに来れば良かった」という後悔から泣いたのだと、今の今まで思っていた。だがそれは違っていたのだということに、生まれ故郷から遙かに離れた小学校の跡地で私は気付かされた。

私にとって祖父は大切な人だったのだ。

祖父がなくなってから私は、家族と頻繁に連絡を取るようになり、実家にもよく帰るようになった。身近な人に「会いたい」とか「大切」とかを声に出して伝えるようになった。それは間違いなくあの時、私の中で何かが変わったからだと思う。

保田小学校

そんなことを思い返しているうちに、いつの間にか再び私は眠り込んでおり、次に目が覚めたときには、すっかり朝になっていた。ベランダに出ると、ちょうど太陽が山陰から出ようとしているところだった。

昨夜、保田駅についた時から不思議な感覚がしていたのだ。保田小へとつづく街灯のない真っ暗というよりも真っ黒な夜道…はじめて降りたこの土地は、私が生まれ育った奈良の田舎によく似ていた。そのせいもあって、私は祖父のことを夢に見、思い出したのかもしれない。

保田小学校

少し幸せな気分に浸りながら私は、確実に来る前よりも軽い足取りで保田小を後にしていた。

(haletto編集部 浅田)

保田小学校

世田谷区立教育センタープラネタリウム

東京都世田谷区弦巻3丁目16番8号

TEL:03-3429-0780

休館日:第3日曜日および12月28日-1月4日

アクセス:田園都市線 桜新町駅より徒歩10分

Webサイト:
http://www.city.setagaya.lg.jp/shisetsu/1213/1265/d00007490.html

下高井戸シネマ

東京都世田谷区松原3-27-26

京王線・世田谷線「下高井戸駅」徒歩2分

TEL:03-3328-1008

Webサイト:
http://shimotakaidocinema.com/

都市交流施設 道の駅保田小学校

千葉県安房郡鋸南町724

TEL:0470-29-5530 年中無休

アクセス:【車でお越しの場合】富津館山自動車道 鋸南保田IC インター信号左折してすぐ。【電車でお越しの場合】JR内房線「保田駅」から徒歩約13分。

【学びの宿】

宿泊ご予約専用ダイヤル:0470-29-5531(受付時間 9:00-18:00)

ご宿泊料金:個室(2-4名)大人1名4,000円(中学生以上)、小人1名3,200円(小学生)

大部屋(8-15名)大人1名3,500円(中学生以上)小人1名2.700円(小学生)

備考:各テナント毎に営業時間・定休日が異なりますのでお確かめの上お出かけください。

Webサイト:

http://hotasho.jp/

金額など掲載の情報は、記事公開時点のものです。変更される場合がありますのでご利用の際は事前にご確認ください。

この特集について

心を込めた東京レター

公園の木々の葉は色付き、外苑前の銀杏並木は金色に輝いています。朝6時半、大手町から皇居の周りを走り始めれば、時折白い息の向こう側に、紅葉の鮮やかさが映り込み、思わず目が奪われます。お堀に写った紅葉と高層ビル、ランナーたち。東京の朝です。 ...

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