息を飲むステンドグラスと光の世界 四ツ谷「聖イグナチオ教会」

絵には、言葉がなくても物事を伝える力があります。例えば西洋のステンドグラスは、文字の読めない人にキリスト教の教えを伝えるためのものでした。しかし、四ツ谷の聖イグナチオ教会にあるステンドグラスには、キリスト教の世界観だけでなく、教会の歴史も刻まれていました。

降り立ったのは、東京メトロ南北線四ツ谷駅。1番出口を出て大通りを右折し、JR線の上に架かる橋を渡り、「四谷駅前」交差点をさらに右に曲がると、目的の場所「聖イグナチオ教会」に辿り着きます。

イグナチオ教会

ここは、上智大学の隣にあるカトリック教会。名前はイエズス会の創始者として世界史の教科書にも登場するイグナチオ・デ・ロヨラに由来するそう。教会の前身となる「幼いイエズスの聖テレジア教会」の設立は1936年ですが、なんだか建物はものすごく新しく見えます。

イグナチオ教会

早速、ボランティアガイドの栗栖徳雄さん、泉安輝子さんにお話を伺いました。

イグナチオ教会ボランティアガイド

ガイド:「当教会には至るところにステンドグラスがあります。残念ながら一般の方の写真撮影はお断りしているのですが、見学することは可能ですので、目に焼き付けていただければと思います」

まず訪れたのは、敷地内左手に建つ楕円形の主聖堂。金色のイエス像を囲むように放射状に席が並び、蓮の花をかたどった天井から柔らかな日光が差し込んでいます。

イグナチオ教会

ガイド:「主聖堂の壁には12枚のステンドグラスがはめられています。12という数は、キリスト教会を支える12人の使徒を意味します。それぞれ神によって創造された大自然がモチーフになっているんですよ。日本画家の上野泰郎氏が原画を描きました」

細長いステンドグラスは聖堂内で主張しすぎず、さりげなく飾られているので、全体を見渡しただけでは何が描かれているのか、あまりよくわかりません。

しかし、壁に近付いてじっくり見上げると、野に咲く花や草を食む動物たち、燃え上がる炎、網にかかる魚たち、天に向かって伸びるオリーブの樹など、一つひとつのモチーフがよく見えてきました。

イグナチオ教会

五十嵐:「オリーブの樹の上で枝をくわえているのは、もしかして『ノアの箱舟』に登場するハトですか?」

イグナチオ教会

ガイド:「その通りです。このステンドグラスは『ノアの箱舟』をはじめ、聖書の世界に登場するさまざまな自然を描いています。特に注目してほしいのは、イエス像両脇にある『麦』と『ブドウ』の絵ですね。麦とブドウはそれぞれ、最後の晩餐でイエスが弟子たちに与えたパンとワインを表しています」

イグナチオ教会

聖堂内をぐるりと一巡しながら、ガイドのお二人が壁面にいくつか並んでいる小さな部屋の扉を開け、「実はこの中にもステンドグラスがあるんですよ」と中を見せてくれました。

この場所は告解室。司祭と信者が中に入り、信者が自分の犯した罪を告白し、司祭の許しを求める場所です。先に司祭が入り、信者を待っているのだそう。小窓しかないごく狭いスペースなのですが、その小さな窓にもステンドグラスがはめられていました。

タカや魚などが描かれ、モチーフは部屋によって異なります。気になるのは、なんだか絵のタッチが聖堂壁面の12枚のステンドグラスとは違うこと。こちらの方が重々しい印象を受けます。

イグナチオ教会

ガイド:「実は上野氏が描いたのは、先ほどご紹介した12枚のみなんです。これからお見せする作品はすべて、この小さなステンドグラスと同じタッチですよ」

次に案内されたのは、主聖堂地下へと続くらせん階段。らせんに沿うように半円形に7枚のステンドグラスが配置され、視界いっぱいに厳かな絵が広がります。

イグナチオ教会

ガイド:「最後の晩餐や磔刑の場面など、イエスの一生を描いています。この作品は、現在の主聖堂の前身である旧聖堂から移築したものなんです」

聖イグナチオ教会の前身である聖テレジア教会は1936年に設立された後、第二次世界大戦時の空襲で全焼してしまい、戦後新たなイエズス会の教会として聖イグナチオ教会が建てられました。その聖堂にはベルギーで作られたステンドグラスが飾られましたが、建物の老朽化や信徒の増加をきっかけに、1999年に現在の新聖堂が建てられたのだそう。

らせん階段や告解室にあるステンドグラスは、ヨーロッパから送られて旧聖堂で飾られ、旧聖堂から現在の聖堂へと引き継がれてきたものだったのです。

主聖堂地下には多くの信者が眠る納骨堂が広がり、立ち並ぶ墓碑の間に屏風が一つ置かれていました。これは、上野氏が12枚のステンドグラスの原画として描いた屏風絵だそう。

イグナチオ教会

ガイド:「上野氏は日本画家だったので、絵は日本的でさらっとした印象で、ガラスも薄いものが使われました。一方、旧聖堂から移築された作品は分厚いガラスに重厚なタッチで描かれ、どっしりとした印象を受けますね」

旧聖堂から受け継がれた作品は、ほかにも納骨堂の奥にある地下聖堂や、敷地内右手にあるマリア聖堂内にも飾られています。地下聖堂には日本人を含む諸聖人、マリア聖堂には教会の保護聖人である聖イグナチオ・デ・ロヨラが描かれています。

ガイド:「上野氏が描いた新しい作品だけでなく、旧聖堂から続く歴史ある作品も大切にしています。『死と復活』を重要なテーマとするキリスト教では、“連続性”を大事にしているんです」

キリスト教の世界観を鮮やかに表現するステンドグラス。この教会の作品は、本来の役割を果たしているものだけでなく、教会の歩みを伝えているものもありました。

旧聖堂のステンドグラスから重厚な印象を受けたのは、ガラスの厚みやどっしりとしたタッチだけではない、歴史の重みも感じたからかもしれません。

カトリック麹町 聖イグナチオ教会

東京都千代田区麹町6-5-1
TEL:03-3263-4584
http://www.ignatius.gr.jp/

WRITER

ライター

気になるコラム