街を歩いて、私に出会う 「腰越 ちいさな街の展覧会 - 日々の気付き」

江ノ島から一駅となりにある、静かな港町「腰越」。空高くトンビが舞い、耳をすませば波音が聞こえてくる。晴れた日には、腰越漁港から美しい夕日が見られるこの土地で、halettoが「腰越 ちいさな街の展覧会 - 日々の気付き」を開催しました。

道

この展覧会では「日々の気付き」をテーマに、6人の作家たちが街中に作品を展示しています。線路沿いの掲示板や、駅前の小屋、コンビニ跡、美容室、そしてhouse。ふだん、何気なく通り過ぎる場所にあらわれた「発見」に、思わず足を止める人も。

「第2回腰越ぶらり呑み歩きの日」「腰越マルシェ」が同日開催され、地元の人から観光客まで多くの人たちで賑わいました。

撮影

午前11時過ぎ。会場のひとつ、「海と空の美容室」前にはちらほらと人が集まりました。店内ではお客さんが髪のカット中。看板犬が扉の前で日向ぼっこをしています。いつもの休日風景に、三味線を手にした着物姿の男性がやってきました。津軽三味線奏者の五錦雄互さんです。

サーフボードとともに

店の傍らで津軽三味線の演奏がはじまると、今度は絵の具のついたエプロンをつけた女性が登場。

美容室の窓をキャンバスに作品を製作するのは、絵描きの田中紗樹さん。ライブペインティングのはじまりです。

その土地のカラー、リズム、温度を感じながら即興的に創作をする田中さん。腰越の土地で感じたインスピレーションを元に、刷毛を手に取ると、次々と窓に色彩を与えていきます。はじめに加えた色は「青」。続いて、「黄」。

家

 

田中紗樹「無題」

三味線の音色に誘われてやってきたのは、地元の仲良しおばあちゃん二人組。93歳のおばあちゃんは、五錦さんに民謡のリクエストをしたり、曲に合わせて踊りだしたり、とっても楽しそうです。

「酒屋に寄った帰りに、三味線の音が聞こえたから、友達を誘って来たのよ。これ、アートなんでしょ?」

街の新しい「音」に気付き、街を彩る「色」を発見する。海と空の色が入った田中さんの作品は、30分ほどで完成しました。

正午を過ぎると、街中には観光客も増えていきます。すし詰めの江ノ電から腰越駅に降り立った人たちがまず目にするのが、コンビニ跡の空間に広がるグレープフルーツと160分の1のコンビニの模型。「あれなんだろう?」と皆、コンビニ跡を覗き込みます。

おふろ?市井了「inconvenience」

駅前のコンビニ跡に設置されたのは、作家の市井了さんのインスタレーション作品「inconvenience」です。18年間地元の人々に愛され、今年の秋に閉店した、街で唯一のコンビニ。市井さんの作品は、「コンビニエンス(便利)からインコンビニエンス(不便)になったことで見えてくる街の風景」を表現しています。

商品のない店内に散りばめられたグレープフルーツを見て、「これなあに?」とスタッフに問いかける人も。作品解説を聞くと、「そうかぁ。これが現代アートなのか」と、腕を組み頷く人もいれば、「まぁ、コンビニがなくなって不便になったよねえ」と、しみじみ呟く人もいます。

みかん大量

買い物途中の夫婦や、遠方からやって来た観光客のカップルも、コンビニを覗き込んでいます。お昼の「ぶら呑み」を満喫して、すでにほろ酔い気分のお兄さんもやって来ました。かつて住民の「居場所」だった空間を実感する。今は空っぽでも、その場所に残る温もりが伝わってくるようです。

コンビニ跡の真向かいにある小屋には、写真家の川瀬一絵さんのインスタレーションが展示されています。お祭りの季節には、義経と弁慶の人形が飾られるという小屋も、ふだんは釣り道具が置かれる場所として、街の風景の一部になっています。

倉庫1

川瀬一絵「誕生日」

インスタレーションの中心となるのは、「誕生日」と名付けられた海の写真群です。「日常の中でそっと光っているもの、にじみ出ているもの」を表した写真作品は、小屋の中から出て来たという、誰かの思い出の一枚と共に展示されていました。

はしご

倉庫 紙

腰越を歩いていると、カメラに収めたくなる、忘れたくない風景がたくさんあるなと感じます。

看板ニコラ・デペトリス「les îles / 島」

看板2

江ノ島方面に向かう線路沿いに歩いて行くと、イグル氷菓さんの手前に白い掲示板があります。建築家でアーティストのニコラ・デペトリスさんの風景画です。「人間と自然界の関係性」をテーマに、腰越の風景を描いた作品です。広い空と、雲のたなびく姿を見ているうちに、同じ光景を見たくなって腰越漁港に向かいました。

「ぶらり呑み歩き」本部には、子連れのママさんが集い、観光気分を楽しんでいる様子。快晴に恵まれた休日の午後、地図を片手にお店をハシゴする人や、halettoが開催しているスタンプラリーに参加する人たちとすれ違います。サーフボードを持った人たちの往来も盛んになってきました。

バザー

甲冑

one kamakura

道 サーフボード

真っ青な空が広がる腰越漁港には、多くの人が自由気ままに過ごしています。絵を描く人、釣りをする人、写真を撮る人、昼寝をする人。この日は、富士山の輪郭がくっきりと見えて、雪の積もる山頂と青空のコントラストが美しい。ニコラさんの絵の中に見たような、様々な雲のかたちを発見しました。

この秋に正式オープンしたばかりの「haletto house 001 KOSHIGOE」も、作品の展示場所です。築40年の民家をリノベーションしたちいさな宿を開放し、2階には映像ディレクターのT-Tsuyoshさんによる「雲」の映像作品や、haletto houseをプロデュースした鈴木直道さんによる音の作品、ニコラさんの風景画、市井さんによる、houseの窓からみえる風景が昼と夜で逆転する映像作品などが展示されました。

障子市井了「夜は昼(またはその逆)」

缶コーヒー 市井了「Antigravity」

部屋T-Tsuyosh「一期一会」

正座鈴木直道「街の音風景【東京 — 腰越】」

海と山の絵ニコラ・デペトリス「La falaise et la mer / 崖と海」

ニコラ・デペトリス「Coucher de soleil sur la colline / 丘に沈む夕日」

東京の街の生活音や雑踏音をあつめた鈴木さんの作品は、houseの二階からみえる腰越の街とのギャップが面白く、ヘッドフォンを外した後に、あらためて腰越の「街音」に耳を傾けるきっかけになりました。トンビの鳴き声に、江ノ電の列車音、波の音、おばあちゃんの話し声。この街は、どこか懐かしくて、穏やかな気持ちになる音にあふれています。

イベント開催中の二日間は、それぞれの作品設置場所に置いてあるスタンプを押し、3つ集めてhouseに行くと、ここでアメニティとして使用されている松山油脂の化粧品とhouseの平日割引チケットがプレゼントされました。

日の入りの時間が近づくと、夕日を見るため、腰越漁港に人々が集まりはじめます。日が沈むと街は夜の色に染まり、いくつかの展示作品は、日中とはまた違う雰囲気を放っていました。

夕暮れ時

コンビニ跡の真っ白な蛍光灯や、小屋の裸電球の光によって、昼間よりも存在感を増しているようです。光に誘われて、自転車に乗っていたおじさんや、ランニング途中の方が立ち止まっていきます。かつて、コンビニの常連客だった方もやってきて、「ここがなくなっちゃったのは本当に寂しい」と、思い出話に花を咲かせることもありました。

月1

ちんちん電車

ライブペインティングをした田中紗樹さんの作品は、暗くなった街の中で、ステンドグラスのように一瞬輝いてみえました。

garasu

海

腰越で開かれたちいさな展覧会は、その街にしかないカタチや音、色を記憶に残す、たくさんの発見がありました。街で見つけたあたらしい発見は、あなたらしい気付きになる。またひとつ、街を歩く楽しみに出会えました。

浅草生まれ、千葉県育ち。美術館めぐりと田舎旅が好き。国境や、街の端っこ、最近は灯台と海、馬のいる場所に夢中。京都でたまに、借りぐらし。日本酒が毎晩の相棒です。