【scene 05 ― 観察、東京ウォッチ 】月を見る、六本木の夜 ― 遠い星空を眺めて自分を見る

東京の夜空

夜空にきれいな満月が浮かんでいると、不思議とうれしい気持ちになります。その日が十五夜であれば、真っ白なお団子が食べたくなる。いつもは聞きながしてしまうニュースも流星群や人工衛星の話題になるとつい耳を傾けてしまう。遠い空の果ての出来事に、いつから人は心惹かれるようになったのでしょうか。

星のソムリエこと「星空案内人」と呼ばれる資格を持つ泉水朋寛さんに、都心でみる星の見つけ方や夜空の楽しみ方について尋ねてみました。

泉水朋寛さん

泉水さん:「シーズンごとの明るい星を知っておくことが、はじめて星を観察する際のコツになります。今なら夏の大三角形や、明け方の金星です」

星座早見盤を持っていなくても、今は無料のスマートフォンアプリが便利とのこと。空に携帯をかざすと、コンパスと連動して現在地から見える星座を教えてくれるアプリもあるようです。

星図

星座図(提供:アストロアーツ/六本木天文クラブ)

泉水さん:「明るい星の名前がわかることで、ただ見えている星よりも親しみがわきます。まずは明るい星を目印に、目が慣れてきたら、そばにある暗めの星たちを探していきましょう。星の見つけ方をおぼえて、どの時期に見えるということを知っておけば、いざ、探してみようという気持ちになります」

大切なのは、自分の中に、ほんの少しだけでも星を「みる」という気持ちを持っておくこと。と、話す泉水さん。月明かりも、時には味方をしてくれます。

泉水朋寛さん

泉水さん:「月が大きく明るい時の方が、街中で見られるものが確実にあるということです。また、月の近くに並ぶ明るい星も名前がわかりやすくなりますよ」

街明かりの多い都会では、星は見えない。なんて言われても、空を見上げたくなる日もありますよね。都心で見られる星空を求めて向かったのは、六本木ヒルズ森タワー屋上にあるスカイデッキ。実は、毎月第4金曜日に、「六本木天文クラブ」による星空観望会が定期的に行われています。スカイデッキに来た人であれば、誰でも飛び入り参加ができ、天体望遠鏡を覗いて、月の表面や肉眼でみることのできない星々などを眺めることができます。

六本木ヒルズ森タワー

周囲には視界を遮る建物もなく、都心とは思えないような天然のプラネタリウムが広がる光景に驚きつつも、眼下には東京タワーやスカイツリー、たくさんの高層ビルが建ち並んでいます。普段は立ち入れないヘリポートに天体望遠鏡が設置され、高層ビルの屋上から星空を見上げる。自然の中で見る星空とはまた一味違う体験です。

六本木ヒルズ展望台 東京シティビューでは「六本木天文クラブ」として月1回の星空観望会に合わせ、同日に「星のソムリエによる星空解説セミナー」が開催されています。ここでは、星のソムリエによる一ヶ月分の天文宇宙ニュースや、この先一ヶ月の星空の見どころなどを、わかりやすく解説してくれます。

星空解説セミナー

9月下旬に参加したセミナーでは、つい先日話題になった太陽フレアや、土星探査機カッシーニのニュースが取り上げられました。いつもテレビで見ているニュースのヘッドラインと同じように、天文ニュースがずらりと一覧表示されるスライドは、好奇心をくすぐるような話題ばかり。地球に近い太陽系の話からはじまり系外惑星、超新星、銀河、遠方銀河……というように、次第に気が遠くなるような距離の話が、泉水さんの口から次々に語られます。

天文・宇宙ニュース

星空解説セミナー

泉水さん:「天文学では、遠くを見ることがすなわち、昔を見るということと一緒なんです。110億光年かなたの銀河を調べることは、110億年前の宇宙にどんな銀河があったかを知り、現在の銀河がどのように大きくなったか、形を変えたかが分かるようになります」

続いて、季節の星空の見どころに話題が移ると、手元に配られた星座図を見ながら解説がはじまります。

星座図

星座図(提供:アストロアーツ/六本木天文クラブ)

泉水さん:「星座図は、円の中心が頭の真上をあわらしていて、円周が地平線をあらわしています。自分が向いている方角が、円の下に書いてある方位と同じになるように気をつけてくださいね」

東西南北、各方位から見える星座を追いながら、「東の空、東京タワーがある上の方には、秋の四辺形が見えます」など、街中のシンボルを目印に星を見つけるアドバイスも。そして、この季節に見える星のオススメとして挙げられたのが、はくちょう座とやぎ座。

神話

泉水さん:「今の時期だと、頭の上を白鳥が翼を広げて飛んでいるイメージで、はくちょう座が見つけられます」

たしかに、配布された星座図のほぼ中央に、はくちょう座が描かれています。別名北十字星とも呼ばれるはくちょう座は、夏の大三角形のひとつであるデネブが尾の部分、十字の交わるサドル、くちばし部分にあたるアルビレオなど、肉眼でも見られる星を結んで見つけることができます。

はくちょう座

星座図(提供:アストロアーツ/六本木天文クラブ)

泉水さん:「はくちょう座は、形が整っていることに加えて、星座の名前と星の並びが一致しているので見つけやすいです。アルビレオは天体望遠鏡で見ると、色の違う美しい2つの星が寄り添っていて、大変人気の天体なんですよ」

星の色や明るさの違いを見ることで、夜空の楽しみ方が一層広がると話す泉水さん。宇宙の話というと、科学や理系の内容に偏るのかと思いきや、星座にまつわる神話や昔話など、文学的なお話も織り交ぜられています。

泉水朋寛さん

泉水さん:「北十字星から、天の川に沿って星を辿っていくと、やがて南十字星に行き着きます。星をつないで進んでいくのが宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の物語です。小説に停車場として出て来る名称と、実際の空、星座は同じものです。北十字から南十字を見渡せるのは、オーストラリアのエアーズロックになりますね」

スライドでは、新宿都庁のビルの間に見えるはくちょう座の写真も紹介されました。街の夜空を舞う大きなはくちょうの姿は、とても幻想的です。

都庁と夏の大三角。写真中央にはくちょう座が写っている。筋状の光はイリジウムという明るい人工衛星の光跡です。(写真:泉水さん)

また、中秋の名月が近いことに合わせて、月の楽しみ方についてのお話もありました。満車表示の「満」と満月の組み合わせ、看板の照明と同化している月など、街にまぎれる月を巧みに切り取った写真は、さっそく真似してみたくなります。

看板の照明と同化した満月(写真:泉水さん)

泉水さん:「月は明るいので写真にも撮りやすく、街の中から見て楽しめます。肉眼で見るときは、地上の景色と一緒にみることで、風景のひとつとして月を愛でます」

セミナー当日はあいにくの雨天。観望会は中止になってしまいましたが、翌週、10月4日(水)の中秋の名月に行われる「中秋の名月 観月会」に参加することにしました。雲に覆われた夜空の下、大勢の人がスカイデッキに集っています。

午後7時、天体望遠鏡の設置が終わると、すぐに行列が出来て、雲の切れ目を狙いながらの天体観測がはじまりました。

星空観望会

風の吹くスカイデッキで頭上を眺めると、雲の流れる動きにつられて、まるで星まで動いているように見えます。流れの早い雲を目で追いつつ、セミナーで配られた星座図を思い起こしながら、習ったばかりの夏の大三角形や、はくちょう座を探します。きらきら瞬く星を見ていると、ふとした疑問が湧いてきます。どうして、星は煌めいているのでしょうか?

泉水さん:「星が煌めくように見えるのは、風が吹いて大気が揺れているからです。だから、大気のほとんどない月から星を見ると、きらきらすることはないんですよ」

星空観望会

地球上にある大気が、きらきら星の所以だったんですね。じっと目を凝らしているうちに、1等星の明るい星、こと座のベガやわし座のアルタイルを見つけることができました。この2つが見つかれば、すぐにデネブに行き当たり、夏の大三角形やはくちょう座が見えるようになります。大切なのは、明るい星を見つけてから、他の星を見つけ出すこと。そのうち、北の空には北極星、南西の空には土星を見つけることができました。この前まで、あそこにカッシーニがいたのか、と思うと感慨深くなります。

星空観望会

すると、周囲の人々がいっせいに空に向けて携帯をかざしはじめました。つられて同じ方向を向くと、東の空には、雲の晴れ間に顔をのぞかせた月が煌々と輝いていました。眩しい、と思わず口にすると、「月の明るさで、影ができているのが見えますか?」と泉水さんに言われ、足元を見ると、人の影があちこちに出来ています。

星空観望会

今がチャンスとばかりに天体望遠鏡を覗きに行くと、月のクレーターや海と呼ばれる黒い部分、完全な満月ではなく、わずかに欠けた左側の部分などがはっきり見えました。絵に描いたような平べったくて丸い月ではなく、立体的で、凹凸のある月の存在感に圧倒されます。

いつまでも見飽きない上空を、時折鳥の群れが横切っていきました。雲のさらに上を羽ばたく鳥たちには、どんな風に月が見えているのでしょうか。いつか鳥の視点で眺める星空も、見てみたいなと思う夜でした。

夜景

星座図

星座図(提供:アストロアーツ/六本木天文クラブ)

星のソムリエによる星空解説セミナー&星空観望会

毎月第4金曜日開催

六本木天文クラブについて: http://tcv.roppongihills.com/jp/tenmon/

<星空観望会>

※雨天・曇天の場合、中止の可能性あり。

時間:19:00-21:00(最終入場は30分前)

場所:六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー「スカイデッキ」

参加費:無料(※ただし東京シティビュー/スカイデッキへの入場料(一般2,300円)が必要)

 

<星のソムリエによる星空解説セミナー>

※セミナーの受講は事前申込が必要。(東京シティビューWEBサイトから申込: http://tcv.roppongihills.com/jp/tenmon/

時間:19:00-20:00

場所:3階 プレゼンテーションルーム(六本木ヒルズ 森タワー3階)

参加費:2,300円(星空観望会も参加可、年間パスポート所有者は500円)

浅草生まれ、千葉県育ち。美術館めぐりと田舎旅が好き。国境や、街の端っこ、最近は灯台と海、馬のいる場所に夢中。京都でたまに、借りぐらし。日本酒が毎晩の相棒です。

この特集について

観察、東京ウォッチング

観察、東京ウォッチ

もう10月です。今年も2ヶ月とあとわずか。緑葉の木々もだんだんと色変わりを始めて、毎日通る街路樹を見るたびに1年が過ぎ去る年月の移り変わりを、季節を通じて感じさせられます。春と秋。この二つの季節は特になにか敏感になる季節。周囲の変化が自然と自分を意識させます。 さて、何を見に行きましょう。「見ること」を通して、あらためて日常を感じる。普段は見過ごしていた、気付かなかった街の痕跡を探して、今まで知らなかったことを知る。そして、あたらしいことを発見する自分を見つける! そんな素敵な日々の旅に出発しましょう。