【scene 03 ― 観察、東京ウォッチ 】街を観察する ハヤテノコウジさんの池袋スケッチ散歩

旅先の街歩きは、何もかもが新鮮に映りワクワクします。もし旅先と同じときめきが得られたら出かけるのがもっと楽しくなる気がします。

ハヤテノコウジさん

モレスキンやトラベラーズノート、手帳をキャンバスにして、旅行の思い出やグルメレポ、散歩中に見つけた発見などを描く<スケッチトラベラー>のハヤテノコウジさんに好奇心を刺激する街歩きのお手本を見せてもらいました。出発点は、池袋西口公園の黒いオブジェの前。小雨がぱらつく中、傘をさしながらの散歩がはじまりました。

ハヤテノコウジさんとライター・田中

ハヤテノコウジさん:「池袋は学生のころ、よく通いました。何十年も前に何度も歩いていた場所を、こうやって、今歩くっていうのは不思議な感覚です」

ハヤテノコウジさんのライフワーク、スケッチジャーナルを描くためのネタ探しにはじめた<スケッチ散歩>では、街歩きをしながら絵に描きたい、記憶に残したいと思った場所をコレクションしていくのが目的とのこと。片手にスマホを持ち、気になった場所ですぐに写真が撮れるようにしています。

看板

ハヤテノコウジさんのスマホ

西口公園前の交差点を渡り商店街を歩きつつ、ふとハヤテノさんの足が止まりました。学生時代に通ったレストランや思い出の居酒屋を見つけたようです。

ハヤテノコウジさん:「街角タイポ(グラフィ)コレクションみたいな、面白い文字とか変わった店名のロゴが好きですね。それから、シャッターに描かれたオシャレな落書きも、自分の作品の参考にします」

アッキー

たとえばあの「アッキー」はいいですね、と指差す先には、味のある字体で描かれた飲食店の看板がありました。どんな部分が好きなんですか? と尋ねてみると、「ア」の上の部分が大きいところが良いとの答えが。言われてみればなんだか可愛くみえるような気がしてきます。

ハヤテノコウジさん:「あと、今どこにいるのかがわかる表示もすごく好きです」

そう言って写真を撮っているのは、電柱と一緒に見過ごしがちの街区表示板。自分が後々、どこを歩いたのか振り返ることができるようです。それからすぐに、街角の喫茶店「ドリームコーヒー」の前で立ち止まりました。入り口に貼ってある喫茶店のポスターや、コーヒーサイフォンの大きな模型を見つめながら、これはもう描きたくなってる……と、楽しそうに呟くハヤテノさん。さらに、

ドリームコーヒー

ハヤテノコウジさん

ハヤテノコウジさん:「街角の隙間に生えている植物が好きで、スキマ・ネイチャーって名付けているんですけどね」

視線を落とした足元に、タイルの縁に生えている「雑草たち」が見つかりました。一度聞いたら忘れられないハヤテノさんのオリジナルネーミングですが、それらの見どころは、

スキマ・ネイチャー

ハヤテノコウジさん:「スキマ・ネイチャーが輝くのは今日みたいな雨の日がチャンスです。それに、本来は要らないものだから、翌日には(除去されて)いなくなるかもしれないと思うと……」

雨露で青々と茂るスキマ・ネイチャーの明日を思うと、不思議なことに愛着が湧いてきます。喋りながらも、そっとカフェの様子を窓越しに撮影しているのは、

ハヤテノコウジさん:「カフェの中にいる人たちも絵になるので、あとで見返して、絵日記に登場させています」

ドリームコーヒー

店内の会話は聞こえませんが聞こえないからこそ、まるで映画のワンシーンのような光景に、いくらでも物語を膨らませることができそうです。ハヤテノさんが通った大学のキャンパスを傍目に歩きつつ、昔ながらの喫茶店や古びたアパート名の表示、キャンパスを横切るカップルの姿など、手早くスマホに記録しています。

ハヤテノコウジさん:「スケッチは、その場で描いてその場で納めるものだという考えもありますが、僕の場合は動的なスケッチ。歩きながらぽんぽん撮って、あとで携帯をみながら画像を拡大して描いています」

小道を抜けて、乱歩通りと呼ばれる大通りへ出ました。アーチのデザインが可愛らしい東都自動車の建物を通り過ぎ、道路向こうの「カレーは飲み物。」の店名に目を奪われていると、その場で売り切れてしまったのか、目の前でシャッターが下ろされました。少しだけでも足を止めてみると、思いがけない現場に出くわす楽しさがあります。そして、交差点で青信号を待っている間は、「何差路あるのか数えています」と、話すハヤテノさん。

カレーは飲み物。

池袋に混在する新しいものと古いものを探しつつ、駅前のロマンス通りに到着しました。飲食店がひしめく繁華街の入り口で、ハヤテノさんが真っ先に目を向けたのは、建物を覆うように縦一直線に並んだ居酒屋の看板。

ロサ会館

複合商業施設の「ロサ会館」は、建物のロゴも、ピンクとミントグリーンに彩られた外観も可愛くて印象的です。昭和の趣を残した電気屋や酒屋は、商店街の中にすっかり染み込んでいました。この時点で、ハヤテノさんには、今日のスケッチジャーナルのレイアウトが頭に浮かんでいるようでした。

ハヤテノコウジさん:「今回は見開きで、色んなサイズの四角フレームの中に、今まで見てきた面白いものをどんどん入れていく感じにしたいですね」

池袋

スケッチジャーナルの描き方テンプレートは30種類近くあるとのこと。フレーム型やエッセイ型、ギャラリー型など、その時々で使い分けているようです。見開きにする理由は、

ハヤテノコウジさん:「ネットでシェアすることを意識しているからです。スケッチジャーナルのコンセプトは、アナログで描いたものをネットに投稿してデジタル化し、誰かの心を動かすこと。片側よりも両面見開きの方が撮りやすいです」

池袋北口駅前まで移動すると、赤く光る店名が目立つ「珈琲伯爵」が。こちらは、ハヤテノさん馴染みの喫茶店だったようです。

珈琲伯爵

街の西と東をつなぐ地下道「WE ROAD」の看板も、よく見てみると愉快な子供たちが描かれている不思議なデザインをしていました。ウイ・ロードを通り抜け、東側に移動すると、「珈琲伯爵」の対になるような、かっこいい店名の「皇琲亭」に注目します。さらにその地下には「現代珈琲専門学院」の看板を発見。一度気になりはじめると、街中に溢れる看板や広告の中でも、自分の好奇心をくすぐるものに反応するようになります。

ウィ・ロード

皇琲亭

現代珈琲専門学院

ハヤテノコウジさん:「今までは、完成したスケッチジャーナルの作品発表がメインだったんですけど、素材を集める作業も面白いってことを指摘されてから、<スケッチ散歩>と名付けました」

ウィ・ロード

メロンソーダ

タカセ

あっという間に1時間半の散歩を終えて、ゴールは池袋東口の老舗喫茶「タカセ」でクリームソーダをいただきました。散歩中、すでに構想が固まっていたスケッチジャーナルのお披露目は、数日後のお楽しみとなりました。

ハヤテノさんと再会したのは、スケッチ散歩のゴール地点「タカセ」。スケッチジャーナルが完成するまでの工程を尋ねました。

タカセ

まずは、先日訪れた場所を鉛筆で全て書き出しています。その後<ルート・ダイアリー>とハヤテノさんが呼んでいる、文字だけの日記を作成。興味を持ったところを中心に、場所や食べ物をリストアップし、時系列に番号が振ってあります。スタートとゴール地点も設定してあり、まるですごろく日記のようです。

ハヤテノさんノート

ルートマップ

ハヤテノさんによるルートマップ(クリックで大きくなります)

池袋西編と東編でページを分けるのに、地下道の「WE ROAD」で繋ぐというアイディアはルート・ダイアリーの中にみつけられます。いざ完成品を見てみると、スケッチ散歩の途中に話していた通り、縦横様々な四角フレームの中に、ハヤテノさんが見つけたモノたちが散りばめられていました。よくみると、枠の中から文字がはみ出しているものもあります。

ハヤテノコウジさん:「はみ出したり、曲がってしまったりしても構わないんです。複製不可能なものをいかに生み出せるかですね」

スケッチジャーナル

ハヤテノさんによるスケッチジャーナル(クリックで大きくなります)

スケッチジャーナル

ハヤテノさんによるスケッチジャーナル(クリックで大きくなります)

ネットで公開するとなると、どうしても見栄えを気にしがちですが、スケッチジャーナルで一番大切なことは、自分を振り返ること、と話すハヤテノさん。

ハヤテノコウジさん

ハヤテノコウジさん:「スケッチジャーナルの中に描いているのは、自分が好きなものや、美味しかったこと、楽しかったこと。僕はそれを、記憶の再食(さいしょく)と言っています。自分に振り返って、自分が考えていることを他者と共有する。スケッチジャーナルが、自己紹介のツールとしても役立つんです」

スケッチジャーナル

好きなものだけを詰め込んである日記は、見ている方にも楽しさがあります。普段、足早に通り過ぎている街並みも少し立ち止まって眺めてみると、意外なところに自分の好きなものが発見できるかもしれません。街角のおもしろい場所をコレクションする。今日からでもはじめられそうです。

池袋

池袋

ハヤテノコウジ

スケッチトラベラー/イラストレーター。栃木県生まれ、東京在住。会社員とイラストレーターのパラレルキャリア時代を経て、スケッチトラベラー(旅日記作家)として本格スタート。独自のスケッチジャーナル(絵日記)手法で、ワークショップや作品展示(渋谷・有楽町ロフト、銀座・伊東屋、うめだ阪急など)を行う。「手帳で楽しむスケッチイラスト」シリーズ、「イラストノート」「モレスキンのある素敵な毎日」「TRUNK」「毎日、文房具。」等に登場。旅好き、文房具好きとして知られる。

公式サイト:http://koujihayateno.com
Twitter:@hayatenokouji
Instagram:@hayatenokouji
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浅草生まれ、千葉県育ち。美術館めぐりと田舎旅が好き。国境や、街の端っこ、最近は灯台と海、馬のいる場所に夢中。京都でたまに、借りぐらし。日本酒が毎晩の相棒です。

この特集について

観察、東京ウォッチング

観察、東京ウォッチ

もう10月です。今年も2ヶ月とあとわずか。緑葉の木々もだんだんと色変わりを始めて、毎日通る街路樹を見るたびに1年が過ぎ去る年月の移り変わりを、季節を通じて感じさせられます。春と秋。この二つの季節は特になにか敏感になる季節。周囲の変化が自然と自分を意識させます。 さて、何を見に行きましょう。「見ること」を通して、あらためて日常を感じる。普段は見過ごしていた、気付かなかった街の痕跡を探して、今まで知らなかったことを知る。そして、あたらしいことを発見する自分を見つける! そんな素敵な日々の旅に出発しましょう。