【scene 02 ― 観察、東京ウォッチ】2017年秋に見たい、halettoシネマクラブ

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「ミニシアター」なる言葉を初めて聞いたのは、ここ数年前のこと。社会人になってしばらく経ってから、編集部の百江が、自身の熱い映画愛について語っているときでした。

私にとって「映画館」というのは、たまたま興味を持ったら観に行く場所。実際に足を運ぶのは1、2ヶ月に1回程度。行く映画館は、ショッピングモールなどに入っているシネマ・コンプレックスがほとんどです。

そんな映画に疎い私に、百江が「上映作品のセレクトセンスが素晴らしい」とおすすめしてくれたのが、渋谷にあるミニシアター「UPLINK」です。

「UPLINK渋谷」は渋谷駅から徒歩約10分の渋谷区宇田川町にあります。まるで隠れ家のような小さな映画館です。中に入るとカフェやギャラリーがまず目に入ってきて、普段シネコンにしか行かない私は「シアターの場所はどこにあるのか……」と、なんとなく館内をぐるりと見渡してしまいます。

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今回お話を伺ったのは、映画の配給・宣伝プロデューサーを務める露無さんと、劇場編成を担当している石井さんです。

アップリンク 石井さんと露無さん

編集部:「本日はよろしくお願いします。早速ですが、私『映画素人』です。「映画観たい!」って思っても何を観たらいいのかわからなくて困っています。今日は「こんな時に観るとおすすめ」というキーワードから、「アラウンドサーティーが観るべき映画」を教えていただきたいと思います」

お二人:「よろしくお願いします」

編集部:「仕事でもプライベートでも、なんか全部がうまくいかなくなって、漠然とした不安に襲われることがあります。『このままでいいんだっけ?』と……そんな時に観るべき映画を教えてください」

憂鬱な時に観るものといえば?

露無さん:「私がおすすめしたいのは、『ホドロフスキーのDUNE』という作品です。アレハンドロ・ホドロフスキーという映画監督のドキュメンタリーなんですけど、この方はもう90歳近いおじいちゃんなんですが、それはもうカルト的な人気を誇る監督なんです。

ホドロフスキーのDUNE(2013年、監督:フランク・パヴィッチ)

若い頃に、映画化不可能と言われていた『DUNE』(作家:フランク・ハーバート)というSF小説を映画にしようとして、莫大な資金をかけて最高のキャスト陣を用意して制作を進めていました。でも、その壮大な映画企画は頓挫してしまいます。

ホドロフスキー監督もその時はすごく落ち込むんですが、その映画を作る過程で生まれた絵コンテやストーリーボードが世界中ですごく重要な『アイディアの素』になっていて。この後生まれてくる『スターウォーズ』や『エイリアン』『マトリックス』といったSF映画にも多大なる影響を与えているんです」

編集部:「私でも知っている名作ばかりですね」

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露無さん:「本当に、伝説的なプロジェクトだったと思います。ホドロフスキーの力強さとかパワーがとにかくすごくて。失敗が失敗じゃない、というか、失敗しても別にどうでもいいじゃん、って思えるんです」

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編集部:「撮影すらしていないのに完成しているって面白いですね」

石井さん:「今ホドロフスキーは88歳なんですけど、最新作が今年11月に公開します」

編集部:「え! すごいパワフル……。年取ったなとか言っている場合じゃない(笑)」

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石井さん:「これ観たら、将来に対する漠然な不安も和らぐかもしれません。とにかく彼の不屈の精神がすごすぎて、めちゃくちゃ勇気もらえると思います。ホドロフスキーのバイタリティの強さに、ひっ ぱられるんじゃないかな」

※ホドロフスキー監督の最新作「エンドレス・ポエトリー」は2017年11月18日よりアップリンクほかで公開予定です。

大人の女性が観ておくべき「往年の名作」といえば?

露無さん:「私これ、すぐ思いつきました。チャップリンの『独裁者』です」

編集部:「チャップリンって、あの喜劇王の?」

露無さん:「はい、それです。そのチャップリンが監督・主演を務めた映画です」

チャップリンの独裁者 (1940年、監督:チャールズ・チャップリン)

画像はAmazonより引用

露無さん:「映画の舞台は第一次世界大戦の末期から始まります。戦争で怪我をして長い期間意識を失っていた、チャップリン演じる床屋のチャーリーが、当時の独裁者に顔がよく似ていたために取り違えられて、その独裁者としてスピーチをすることになるんです。そのスピーチが、本当に素晴らしいんです」

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編集部:「今ネットで調べたら、映画作品のことよりもスピーチに関する情報の方が多く出てきました」

露無さん:「当時の独裁政権に対して、チャップリンも強い問題意識を持っていたみたいです。今の世の中、ちょうど時代が変わっていくのを肌で感じたりもするので、そんな時に民主主義・多様性を訴える彼の演説はぴったりだなあと思います」

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編集部:「時代を超えて共感できることってありますよね。もう大人だし、政治を考えるというときに、何か自分の中に軸を持たないとなあと思うのですが、なかなか信念みたいなものを築くことができなくて」

露無さん:「政治っていうと難しく感じるかもしれないけど、チャップリンのスピーチで言っているのはとてもシンプルで、わかりやすい。素直に『そうそう、そういう世の中がいいよね』って思える言葉たちなんです。まだ白黒映画の時代の作品だけど、今に通ずるものがあると思います」

「そろそろ恋したくなる」映画は?

石井さん:「僕はね、『パターソン』をおすすめしたいです」

パターソン(2016年、監督:ジム・ジャームッシュ)

編集部:「あれ、それ、入口にポスターが貼ってあるやつですよね?」

石井さん:「そう! それです。この映画は、主演の二人の関係性がめちゃくちゃいいんですよ」

編集部:「確かに、ポスターから幸せしか感じません(笑)」

アップリンク 石井さんと露無さん

石井さん:「主人公はバスの運転手で、毎日同じ時間に起きて、同じ時間に彼女と一緒に寝る。趣味は、詩を書くこと」

編集部:「詩を書くこと! ポエマーな彼氏なんですね」

石井さん:「一緒に暮らしている彼女は、好奇心旺盛なアーティスト志向で、例えば急に部屋中ペイントしたり、フォーク歌手目指してギターを 通販で買ってみたり。でもたいした事件は起きなくて、それを彼が優しく『いいね』って見 守る、という。 特に大きな変化が物語にあるわけではない、それだけといえば、『それだけ』の映画なんです。で も、そこにはすごく優しい時間が流れていて、損得勘定抜きにして、その人のことを想える というのは、かけがえのないものなのかな、と。この映画を通すと、そういうことを感じることができるんです」

編集部:「いいですね。激しい恋愛も憧れますが、人生のパートナーとして、寄り添い合える人がいるのは幸せなことです。人生の理想形が詰まっているというか・・・うん、いいなあ、そういう関係性。これはドキュメンタリーですか?」

アップリンク 石井さん

石井さん:「いえ、こちらはドラマです。ジム・ジャームッシュ監督の描く映画の空気感は『粋』というか。この作品は彼ら二人の他愛無い毎日を描いていて、大きな動き はないんですが、それを最高にかっこいいと思わせるんです。オフビートな日常の中に心の機微を描く、監督の手腕 なのかなと思います。ポスターひとつにしろ、ほら、毎日読む本が変わってるんです」

編集部:「本当ですね。なんだか可愛いですね。微笑ましくて、にやけてしまう。今度これを観て、幸せな感情に満たされようと思います(笑)」

パターソン」は2017年10月28日よりアップリンク渋谷にて上映予定です。

「自分一人でじっくり考えたくなる」映画は?

露無さん:「ちょっと前の映画と(政治的という意味で)重なる部分があるかもしれないんですけど、『ペルセポリス』という、白黒アニメの映画がありまして」

ペルセポリス(2007年、監督:マルジャン・サトラピ、ヴァンサン・パロノー)

画像はAmazonより引用

露無さん:「元々はイランの女性が描いた漫画が原作なんですけど、その作者が監督となってアニメ化・映画化までされた作品なんです。

絵がちびまる子ちゃんみたいですよね。たしか2007年の映画だったかな。その作者の女性の自伝的なお話なんです。主人公の女の子は、王家の血を引く裕福な家庭に生まれ、リベラルな環境で育ちました。

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折戸

多分その子が10歳くらいの頃、イスラム革命と、イラクとの戦争によって文化的に弾圧を受けるようになります。女性はヒジャブ(スカーフ)を被らなきゃいけないとか、ロック禁止とか。そんな抑圧された環境ではあるんですけれど、その子はマイケル・ジャクソンのカセットをこっそり買ったり、ブルース・リーのTシャツとかを、そのヒジャブの下に着て、世の中に反発しながら生きている。

でもやっぱり、そういう反発する大人たちの中には、投獄される人とかも出てきて、普通に生活することが許されない世の中を描いています。

アニメでは、その子は海外へ留学することになるんですが、ラストシーンでおばあちゃんがその子に伝えた言葉で、『いつでも自分に対して公明正大でいなさい』というのがありまして。社会が変わっていっても、自分自身が正しいと思うことをしっかりやっていけば、あなたは大丈夫、という。それが、すごく沁みるなあ、と思いました」

編集部:「アニメーションで映像も言葉もシンプルだから、ストレートにきます。露無さんは、どこでこの作品を知ったんですか?」

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露無さん:「私は漫画が好きで、本屋さんで売っていたのを購入して、そのあと映画を観ました。通して観ると、映画にした意味があったと思う作りになっていますよ。日々の全てにおいて、それは本当に正しいのか? 自分はどういうアクションをすべきか? と考えさせられました」

編集部:「今ご紹介いただかなければ、多分この先、この映画とは接点を持たなかっただろうと思いました。とても参考になりました。ありがとうございます」

教えてもらった映画はほとんどが知らない作品でしたが、どれも素直に「面白そう」と思ったのが、正直な気持ちです。映画に対する興味がふつふつ湧き出てくるのを感じながら、「きっとまた、ここに来よう」。そう思いながら、帰宅の途につきました。

UPLINK

東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1階

JR渋谷駅より徒歩約10分

TEL:03-6825-5503

詳しくはこちら:http://www.uplink.co.jp/

企画営業・編集

千葉県生まれ、千葉県育ち。好きなことは料理と旅行。旅行の前は旅のしおりを念入りに作るタイプ。東京でひとり暮らしを始めてから「丁寧な暮らし」という言葉にとても弱い。

この特集について

観察、東京ウォッチング

観察、東京ウォッチ

もう10月です。今年も2ヶ月とあとわずか。緑葉の木々もだんだんと色変わりを始めて、毎日通る街路樹を見るたびに1年が過ぎ去る年月の移り変わりを、季節を通じて感じさせられます。春と秋。この二つの季節は特になにか敏感になる季節。周囲の変化が自然と自分を意識させます。 さて、何を見に行きましょう。「見ること」を通して、あらためて日常を感じる。普段は見過ごしていた、気付かなかった街の痕跡を探して、今まで知らなかったことを知る。そして、あたらしいことを発見する自分を見つける! そんな素敵な日々の旅に出発しましょう。