風なびく黄金の秋色絨毯 ― 箱根「仙石原ススキ草原」

空気が澄み、木々が色づきはじめました。私の一番好きな季節、秋の到来です。これまで歳の数だけ季節の移ろいを見てきたはずなのに、毎年飽きることなくその美しさに感動を覚えるから不思議なものです。今年は、都心から気軽にアクセスできる箱根の秋景色を訪ねてみました。

JR小田原駅を降りたら、駅前から出るバスに乗り込みます。観光地だけあって、車内は国内外の旅行客でいっぱいです。バス停の名前には観光名所やホテルが連なり、みんな浮き足立つ思いを隠しきれない様子。笑顔で降りていく人々の姿を見ていると、大切な旅路の1ページを垣間見ているような気分になってきます。

JR小田原駅

こうしてバス停をいくつ数えたでしょうか。小田原駅を出発してから40分ほど経った頃、道の両脇に拓けた草原が現れました。車内に「わぁ」というため息が漏れ、携帯電話やカメラを構える人が続出。今回の目的地「仙石原のススキ草原」です。

広大なススキ草原は、ちょうど見頃の時期を迎えたところ。黄金色の穂と緑の葉や茎が入り混じり、色のコントラストが天高い秋の空によく映えます。この色合いは、初秋だからこそ見られるものだそう。風が吹くたびに、さわさわと音を立ててなびくススキを見ていると、柔らかそうなその上に寝転びたくなってしまいました。

ススキ草原1

草原の真ん中には700メートルほどのまっすぐな一本道が続き、どことなく情緒を感じさせます。ここを散策しながらススキを眺めるのが仙石原の楽しみ方。歩いていると、ススキの背丈が自分と同じくらい高いことや、穂がカギ状になっていて意外と鋭いことなど、遠目には気づかなかった発見がありました。また、「りんりん」という可愛らしい鳴き声に振り返ると、鈴虫が秋の音色を響かせています。遊歩道を歩く人たちも、みんな草原を見上げたり、見下ろしたり、場所ごとに見える景色が変わってゆくのを楽しんでいるようです。

ススキ草原の一本道

ススキ草原2

山の斜面を覆い尽くすススキ草原ですが、この地はもともと樹木のない野原でした。開墾すれば千石もの穀物が収穫できると見込んで、江戸時代に「千石原村」という地名をつけたものの、湿地や火山灰土壌であるなどの理由から理想通りにはならず、屋根葺き用のカヤ、すなわちススキを栽培することになったのが始まりです。

遊歩道を上りきったところで草原を見下ろしてみると、改めてその気持ち良い広さが感じられます。日の光を浴びるススキは、まるで淡い金色の絨毯のよう。傾斜の違いによって異なる輝きを放ち、奥に佇む山々の深い緑も穂の美しさを際立たせています。かつては生活の糧として用いられていたススキが、今日では箱根の秋を彩る名所として知られることになるなんて、当時の人々は想像もしなかったでしょう。

ススキ草原3

沈みゆく夕日を映す幻想的なススキはもちろん、早朝に見せるひと味違う光り方も評判とのこと。また、晩秋にかけては、初秋とはまた違う深い金色が楽しめるそうです。天気や気候によって日々変わる美しさと、限られた季節にしか見ることのできない儚さ。これらが相まって、秋の景色は人々の胸を打つのかもしれません。

ススキ草原4

仙石原ススキ草原

神奈川県足柄下郡箱根町仙石原
アクセス:箱根湯本駅から箱根登山バス桃源台線(T路線)約30分「仙石高原」バス停下車すぐ
新宿駅から小田急箱根高速バス「仙石高原」バス停下車すぐ

ライター

静岡県生まれ。好きなものは、映画、登山、温泉、アーユルヴェーダ。地図が読めないため、町歩きはもっぱら勘がたより。旅行系の冊子やWEBをメインに執筆しています。

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