ZINEで人生を知る。 ― 都立大学「MOUNT ZINE」

ZINEいろいろ

ここ数年で耳にすることの多くなった「ZINE(ジン)」という言葉。しかし、ZINE専門店「MOUNT ZINE」代表の櫻井史樹さんによると、1970年代には既にあったものだそうです。それなら、なぜ最近になって注目を集めるようになったのだろう。詳しくお話を伺うため、お店がある都立大学駅に降り立ちました。

都立大学駅付近の道

車や人通りの多い目黒通りを渡ると、脇には緑豊かな遊歩道が続いていました。秋の入口を迎えた穏やかな昼下がり、散歩気分でのんびりと進みます。10分ほど歩くと、閑静な住宅街の中に「MOUNT ZINE」が表れました。古民家を改装した趣のある建物は、天井が高く落ち着いた雰囲気。店内に入ると、壁一面に並んだ個性豊かなZINEたちが迎えてくれました。

MOUNTZINE外観

MOUNTZINE店内

ZINEとは、小規模な自費出版のことです。フリーペーパーは広告が入る代わりに無料であるのに対し、ZINEは広告が入らない代わりに基本的に有料で販売しているという違いがあります。また、同人誌がマンガや小説など創作発表の場として用いられることが多いのに対し、ZINEは写真でもイラストでも、自分が本にしたいものならなんでも載せられます。

「MOUNT ZINE」で取り扱っているZINEは、常時200種類以上。半年に一度の募集をかけて集まったものをすべて置いているため、テーマやボリュームはさまざまです。自分が住む街のおすすめスポットを紹介したものや、料理のレシピを記したもの、イラストや物語を載せているものなど一冊ずつ異なり、まるで宝探しをしているような気分になります。

けれど、出版の不況やWEBの浸透が進む現代で、なぜZINEが盛り上がりを見せているのでしょうか。

櫻井さん:「SNSなどで個人の情報発信が当たり前になってきた流れで、自分で本をつくることに興味を持つ人が増えたんじゃないかと思います。WEBにはWEBの良さがありますが、ZINEは“物”として残るので、手触りがあって人の手に渡る時にコミュニケーションが生まれます。伝達の強度が違いますよね」

MOUNTZINEオーナーさん

また、装丁に凝ったものが多いこともZINEの特徴。フェルトでできたお花を貼り付けているものや、ホッチキスやノリではなく糸で縫って綴じているもの、ページの中にポケットがついていておまけを仕込んでいるものなど、本当に多彩です。中には、長方形の紙に文字を印刷し、それをあべこべに折っているものもありました。初めて見るデザインに、「こんな折りもできるんですね!」と驚いていると、「これは印刷会社に頼んだのではなく、自分でやっているんじゃないかな」と櫻井さん。

お花がついたZINE

折りが特徴的なZINE

載せる内容を自分で考えることはもちろん、装丁やデザインについても自分次第。すべて印刷会社にオーダーすれば1日で仕上がりますが、あえて自分で行う人も少なくないそうです。でき上がったZINEの値段や流通経路についても自分で決めることができるなど、どこまでも制作者が主体です。

櫻井さん:「一般的な出版物は、つくった時に“売れるかどうか”が重要になってきますよね。でもZINEの場合は、売れる・売れないではなく“自分がやりたいからやる”という気持ちが出発点。そこが圧倒的な違いです。楽しいという気持ちがあるから、愛着を持って手間をかける人が多いのかな」

MOUNTZINE店内2

今では個人に限らず、地方の自治体が自分たちの街をアピールするためにつくることもあるのだそうです。店内には「LOCAL ZINE」というコーナーが設けられ、全国から集まったZINEも並んでいました。美しい港町を写したものもあれば、“地方”のイメージを覆す尖ったデザインのものもあり、街々の空気感や熱意が押し寄せてくるよう。地方の冊子はその土地に行かないと手に入りませんが、東京にいながら見られることで、知らなかった街にも興味が湧いてきます。

ZINEの棚

さまざまな可能性を見せるZINE。これまではクリエイターの人がつくることが多かったそうですが、誰でもできるものだからこそ垣根を低くし、もっと間口を広げていきたいと櫻井さんは話します。

櫻井さん:「とはいえ、出版物をつくったことがない人が大半だと思うので、今はZINEを制作するためのスクールも開催しています。初めての人でもできるよう、紙の選び方や印刷・製本についてレクチャーしています。ZINEが好きな人同士の交流の場にもなっていますね」

「MOUNT ZINE」でお気に入りの一冊を探してみるのも良いし、まずはつくってみるのも良い。自分だけのZINEを手にした先には、どんな出会いや発見が待っているのでしょうか。ZINEは、本という形式を通した新しい“対話”のかたちなのかもしれません。

MOUNT ZINE

東京都目黒区八雲2-5-10
TEL:03-5726-8290
営業時間:12:00〜19:00
定休日:月・火・水曜日
※イベントなどで臨時休業することがあります
https://zine.mount.co.jp/

ライター

静岡県生まれ。好きなものは、映画、登山、温泉、アーユルヴェーダ。地図が読めないため、町歩きはもっぱら勘がたより。旅行系の冊子やWEBをメインに執筆しています。

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