【scene 01 ― 陽炎、東京リーディング】「地図」は「絵」? 地図の見方を地理人に聞く ― 新宿・四ツ谷編

地図を見ながら歩いていても、今、自分がどこにいるのか、すぐ見失ってしまう人って、結構いらっしゃいますよね。かくいう私もそのタイプ。平面的に描かれた地図と、目の前に広がる立体的な街並みを、どうしても合致させることができないんです。

地図

今日の案内人、今和泉隆行さんは、リアルにつくり込まれた架空の都市の地図=「空想地図」を作成する傍ら、地図情報会社ゼンリンのアドバイザーも務めたことのある地図のエキスパート。

地理人・今和泉さん

極度の地図オンチ、そして方向オンチであることを告白しつつ、こんな私でも地図が読めるようになる秘訣を伺いました。

今和泉さん:「残念ながら、方向感覚っていうのは生まれ持ってのものなんですよね。今はスマートフォンがどこへでも案内してくれるし、地図が苦手な方は堂々と、便利なツールを駆使していただきたいと思っています(笑)。でも、たとえ地図が読めなかったとしても、自分が地図上のどの辺りにいるのか、見当をつける方法はあります。では、実際に地図を持って歩きはじめてみましょうか」

出発前、新宿駅にて

今和泉さんがスタート地点に設定したのは、新宿駅東口。今日はここから、四ツ谷駅へと歩いていきます。降り出した雨に慌てて傘を取り出しつつ、まずは地図を確認。

ライター・菊地

今和泉さん:「今、僕たちがいる新宿駅周辺エリアと、これから向かおうとしているエリアの地図を見て、なにか違いに気づきませんか? 新宿3丁目と2丁目の間の柳通りが、ちょうど境目になってるんですが…」

新宿

そう言われ、じっと目を凝らしてみると、新宿駅から新宿3丁目までのエリアには、色のついた大きな建物が集中していることに気づきました。柳通りを越えて新宿2丁目に入ると、地図上に、色のついた大きな建物はありません。

地図

今和泉さん:「色のついた大きな建物は、大型商業施設を表しています。駅周辺などの街の中心地には、すべての階にお店が入った高層の商業施設や貴金属店、金融機関などが集中しているんですよ。中心地の外側に行くにつれ、街の景色は変わっていきます。そうすると、地図の“模様”も変わっていくんです。今回は、地図の“模様”と、実際の街並みを照らし合わしながら歩いていきましょう!」

新宿のビル

新宿

平日でも多くの人で賑わう新宿3丁目を歩くと、マルイ、ビックロ、伊勢丹と、次々現れる大型商業施設。今和泉さんの言う通り、貴金属店や金融機関も目につきます。

新宿3丁目を抜け、2丁目に入った途端、街の景色が一変。第一に、辺り一帯の建物の高さが一段低くなりました。デパートなどの商業施設はなくなり、もっとも多く目につくのは居酒屋です。

末広通り

新宿三丁目

今和泉さん:「居酒屋の種類も、中心地とは変わってくるでしょう? さっきまではチェーン店が多かったと思うんですが、この辺りからは、個人経営店が増えます。雑居ビルが建ち並び、上階はオフィスとして使われているところが多いはずです。マンションなど、住居用の建物がちらほらと現れはじめるのも、新宿2丁目から1丁目にかけてのエリアからですね」

ここでまた、新宿2丁目・1丁目エリアの地図の“模様”を確認してみましょう。大型の施設はありませんが、道路が綺麗に区画整理され、碁盤目状になっています。さらに、コンビニが大通り沿いだけでなく、街の内側にもあることに気づきました。

新宿二丁目

新宿二丁目町会会館

今和泉さん:「街の内側にコンビニがあるのは、そこにコンビニの需要がある印。区画整理された、碁盤目状の“模様”をした街で、小さな道であっても幅が広いところは、オフィス街であるケースが多いです。オフィスと、居酒屋を含む飲食店のほかに、マンションが混在する場合もあります。こうして歩いてきて、街並みの変化以外にも気づくことはありませんか?」

そう問われ、改めて、辺りを見回してみます。さっきまであんなに多くの人が行き交っていたのに、今や、すれ違う人もまばら。ほんの15分程度歩いただけで、こんなに混み具合が変わってくるんだ、と驚いてしまいました。

新宿二丁目

今和泉さん:「さきほどまでは、不特定多数の人々が絶えず行き交っていましたよね。それは、ビルのすべての階にお店が入っていたから。一方このエリアのビルは、1階に飲食店、2階から上はオフィスになっています。大型商業施設は見当たらないけど雑居ビルやコンビニはあって、仕事中のサラリーマンとたまにすれ違う程度なら、そこは、人が集中するエリアから少し外れたオフィス街。そのとき、手持ちの地図上にオフィス街の“模様”があれば、自分はこの辺りにいるのかな、と見当をつけることができますよね。オフィス街は中心地からそう離れてはいないのに、空いていて長居できるカフェも多いんです。これを知っていると、繁華街で落ち着ける場所がない、というストレスも避けられますよ」

新宿二丁目、交通標識

新宿2丁目のオフィス街を通り抜けて、靖国通りへ出ます。オーディオ専門店や白衣専門店など、特徴あるお店が並ぶのを見て、「専門店が増えるのは、中心地と、オフィス街および歓楽街の間にあるこのエリア。駅ビルの最上階に本屋があったり、別館に電気屋さんがあったりするのと同じ法則です。専門店に用事がある人は、多少行きづらい場所でもそこまで足を伸ばしますよね。だから、無理して地代の高い中心地にお店を構えるメリットはないんです」と今和泉さん。

三光白衣

靖国通り

新宿1丁目を抜け、富久町西交差点を過ぎると、また街の雰囲気が変わりました。ここでもう1度、地図を確認。富久町西交差点より東側の“模様”は、道路が狭く、区画整理もされていません。碁盤目状にもなっておらず、行き止まりの一本道がほとんどです。コンビニも、大通り沿いにしかありません。

富久町

富久町交差点

今和泉さん:「道路の“模様”が直線的な街は、古くからある市街地や、新しく区画整理された街であることが多いので、木造の古い建物はなかなか見つけられません。対して、いくつもの狭い一本道で構成される街は、昔ながらの古い住宅街です。周辺を見渡してみると、建物がさらに一段低くなったと思いませんか? コンビニもそうですが、マンションも、大通り沿いにしか見当たりませんよね。大通りからひと筋、内側に入ると、ほとんどが一軒家です」

富久町

色濃く漂う生活の匂いに少しドキドキしながら、一軒家が建ち並ぶ住宅街を進みます。あまり歩いている人がいないのは、皆さん、お勤めに出ている時間帯だからですか? と、今和泉さんに質問してみます。

住宅街

住宅街

今和泉さん:「そうですね。歩いている人の数や、どんな人が歩いているかで、その街の役割を知ることができます。住宅街は、平日の昼間は本当に人が少ないですよ。でも、そろそろまた人通りが増えてくるんじゃないかな?」

東へと歩みを進め、たどり着いたのは、あけぼのばし通り商店街。都営新宿線の曙橋駅近くに伸びる商店街です。時刻は午後5時を過ぎ、夕飯の買い物に出てきたのであろうお母さん方や家族連れ、そして、お年寄りが数多く見受けられます。新宿駅東口を出発したときに見かけたような若者は、ほとんど見つけられませんでした。

あけぼのばし商店街

曙橋駅前

今和泉さん:「新宿駅周辺は“遊びの場”で、曙橋駅周辺は“生活の場”。ひとつひとつの街の日常が、地図には描かれています。地図を、街の性格や表情が描かれた“絵”として読み解く楽しみ方は、地図が苦手な人にこそ向いているんじゃないかと思うんです。ぜひ、難しく捉えずに、地図と親しんでみてくださいね」

曙橋

今回教わった、中心地と、オフィス街および歓楽街の間に専門店があるというエリア配置は、新宿以外の街を歩くときにも応用できます。一例として、私の地元である横浜のエリア配置について、歩きながら教えてもらいました。

今和泉さん:「電気屋さんの位置を見ると、専門店が集中するエリアが分かります。現在、横浜のヨドバシカメラは西口の、もともと三越だった建物に入っていますよね。駅に隣接している高島屋と比べると、少し外側に位置しています。五番街などの歓楽街は、そのさらに外側。あのあたりには、実はオフィスも多いんですよ」

夕闇迫る中、提灯の仄かなあかりが灯るのは、知る人ぞ知る飲み屋街・荒木町。路地に漂う大人の雰囲気を堪能したら、今回のゴール地点である四ツ谷駅はすぐそこ。のんびり寄り道しながら歩いて、2時間程度のツアーでした。

荒木町

荒木町

四ツ谷駅前

地図はあくまで図面であり、目的地にたどり着くためのツールだと考えていた私。ツールとしての機能を使いこなせない自分にとっては、どうしても苦手意識を持ってしまう存在でした。

ですが今回、今和泉さんの案内を通じて「もっと気楽に地図で遊んでいいんだ」と、目から鱗。方向オンチのままでも、地図と仲良くなれるかも。そんな風に思えた、有意義な体験でした。

四ッ谷駅

地図提供:株式会社ゼンリン

地理人 今和泉 隆行

株式会社地理人研究所 代表取締役。通称「地理人」。7歳の頃から空想地図(実在しない都市の地図)を描き続け、小学生から都市地図や統計、郷土資料に興味を持つ。大学生時代に47都道府県300都市を回った経験から、地図を通じた、街や人の営みの見方を指南している。著書『みんなの空想地図』は話題を呼び、タモリ倶楽部やアウトデラックスなどでも取り上げられるなどしている。

地理人研究所:http://www.chirijin.com/

新潟県生まれ、神奈川県育ち。下戸ですがおいしい食べ物には執着するタイプ。動物園と水族館と古い建物が好きです。出先で団地群など「昭和」を感じる風景を見つけるとつい立ち止まってしまいます。

この特集について

陽炎、東京リーディング

暑かった日々も過ぎ去りました。夜風はふいに冷たく、少しずつ秋を感じる、まるで風邪の治りかけのようにぼんやりしていた視界が、急にピントがあってきたような季節です。秋雨降る街を眺めながら、ふと、交差点に咲く色とりどりの傘に美しさを感じます。 センチメンタルな気分。今年も残り三分の一だと思うと、「今年はなにしたかな」「去年の今頃はどこにいただろう」とつい振り返ってしまうこともあります。そんな時、なにかを映し鏡にして、街のどこかに、自分の輪郭を探したくなります。 「読むこと」で自分の今を知る。空を読む、街を読む、本を読む、手相を読む、歌を読む。いろんなことを読み解いて、2017年の今を愉しみます。さぁ、街に出て歩きましょう。