Mucchi’s Caféの【おとなの絵本教室】Vol.10

よるのびょういん

絵本との再会

本の表紙をみて昔の記憶ががよみがえった絵本、そんな1冊がだれにでもあるのではないでしょうか。

幼少期、ピアノ教室に通っていた私は、少しレッスン時間よりも早めに教室に着いて、待合室に置かれていた絵本を読むのが好きでした。その中にあった1冊が「よるのびょういん」。詩人の谷川俊太郎さんの文章とともに、白黒写真によって、お話が展開される、フィクション写真絵本です。

時代背景としては1970年代くらい。夜中に高熱とともにおなかが痛くなった主人公のゆたか。診断結果は虫垂炎(盲腸)、すぐ手術となった。手術台にはたくさんの器具がならび、いよいよ手術がはじまる…夜の病院で働く人々の活躍を描いたお話し。

写真を通じて、実際に手術が行われているかのような情景が浮かんでくる、臨場感のある構成となっていて、幼少期には衝撃的な内容でした。私は体が比較的弱く、病院にかかることの多かったので、この絵本で病院を怖がった時期もありました。幸いにも手術を受けるような大きなけがや病気にはかかかったことがないのですが、きっとそのころだったら大騒ぎしていたでしょう。

大人になった今でも覚えていた絵本の中の主人公のお父さんのセリフがあります。「まえから おれが いってたろう、ぶどうの たねは はきださないと もうちょうになるって」え! え! え!

その当時、このセリフをみて絶対果物の「種は食べちゃだめだ! 盲腸になる!」と信じていました。絵本の力って大きいですよね。子どもの頃、盲腸というものがどういうものか、どういう理由で発症するのかわからなくても、大人になった今でも「種を飲み込むと盲腸になる」という記憶に残っているという。

本屋さんでこの絵本に大人になってもう一度再会した時に、「あ! これこれ!」と当時の衝撃を思い出しました。手にして読んでみると、昭和のノスタルジックな白黒写真の病院は今でも怖さをかもしだしていました。時が流れてもモノクロ写真から緊張感が伝わってきて、惹き付けるものがあるのだと感じました。谷川俊太郎さんの文章も、短い文章の中に込められた病院の情景を表現する、的確な言葉を選んでいるのだと。そして子どものころに感じた、感情と現在読んでみての感情は少し違っていました。それは、子どもの頃は主人公の男の子「ゆたか」目線だけだったのが大人になった今、子ども(患者)目線からと大人(両親、病院関係者)目線からも見られるようになったからかもしれません。子どものときと、大人になってからの絵本に対する感じ方は違うものの、時がたっても印象に残る絵本には魅力のある絵本なのだと思います。

そんな子どもの頃の思い出の絵本、大人になってから再会してみませんか。

よるのびょういん

文:谷川俊太郎
写真:長野重一
出版:福音館書店

福島出身。元保育士、夢の国の住人を経て、現在「絵本カフェ ムッチーズカフェ」の店長として、オーナーむっちと共同経営中。最近の口癖「ご縁って大事よね」。 ゆでたまごが好き。お店のTwitter の中の人。

このコラムについて

Mucchi’s Caféの【おとなの絵本教室】

絵本にはいろいろな魅力があります。よく考えてみると怖い話から、ほんとに人生に役立つ良い話まで。忘れた気持ちを思い出さしてくれる、おとなのための絵本を紹介します。