街の映画館で邦画を観る 阿佐ヶ谷「ラピュタ阿佐ヶ谷」

学生時代、授業で観た白黒の日本映画が思いのほか面白くて、ぐいぐいと引き込まれたことがあります。それは「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」という、言わずと知れた名作だったのですが、圧倒的なテンポの良さと人情味あふれる登場人物の愛らしさに、瞬きを忘れてしまうほど見入ったことを覚えています。

しかし、戦前・戦後の“黄金時代”と呼ばれた頃の日本映画を観たことがある人は、私たちの世代では少ないのではないではないでしょうか。映画館で上映される作品は基本的に新作映画だということが影響しているのでしょう。そんな中で、日本の旧作映画にこだわって上映を続けている映画館があると知って訪ねました。

賑わう阿佐ヶ谷のアーケードを抜けると、静かな小路に円筒の茶色い建物がありました。「ラピュタ阿佐ヶ谷」です。縄文杉の切り株をイメージしたという、独特な形をした館のまわりを木々が包み、うっそうと茂る森を思わせます。また、「ラピュタ」と聞くとジブリ映画の「天空の城ラピュタ」を連想しますが、テーマにしているのは「ガリヴァー旅行記」という小説に登場する、空飛ぶ島にある「ラピュタ王国」なのだそう。

阿佐ヶ谷駅

ラピュタ阿佐ヶ谷

ラピュタ阿佐ヶ谷

ラピュタ阿佐ヶ谷

ラピュタ阿佐ヶ谷

木々をくぐった先にある入口を通ると、ロビーには日本映画にまつわる書籍やブロマイドが置かれています。展示されているポスターは昭和の趣たっぷり。この日は「日活文芸映画は弾む」という特集の期間中で、日活が東洋一のスタジオをつくり、年間70〜80本もの映画を生み出していた1950〜60年代の作品群から厳選したものを上映していました。

その中から、1964年に公開された前田満州夫監督作品『人間に賭けるな』を観てみることにしました。

ラピュタ阿佐ヶ谷

劇場に入ると、お客さんは中高年の男性が大半。しかし若い人も多く、ノートを片手にメモをしたり、パンフレットを読みこんだりと、映画好きが集っていることがうかがえます。そして、いよいよ幕が上がります。

本作は、競輪場を舞台に、金に困ったサラリーマン(坂崎)と、服役中のヤクザの親分の妻(妙子)、妙子と関係を持つ有能な競輪選手(飯田)、飯田に思いを馳せるヤクザの親分の妹(美代子)が繰り広げる人間模様を描いたものです。

長く関係を持つ妙子と情熱的な美代子の間で飯田の気持ちは揺れ動き、やがてそれが競輪の勝敗を左右し、男女関係も揺らいでいきます。はじめは「車券は買わない」と言い切っていた妙子も、最終的にはどんなに負けても飯田に賭け続けるようになり、そこには「競輪」という競技を超えた女の強い執念が燃えたぎっていた……というストーリーです。

ラピュタ阿佐ヶ谷

競輪場の撮り方や演出がスタイリッシュなことにも驚きましたが、一番心惹かれたのは、登場人物たちのきっぷの良さ。特に女性陣は、自分が信じるものを突き通す力強さを持っていて、それがぶつかり合うことで切なさも感じさせてくれました。おそらく自分と同じか年下であるはずなのに、ずっと大人びて見える女性たち。ラストは決してハッピーエンドとは言えませんが、それでも清々しい気分になったのは、登場人物たちのまっすぐな姿が描かれていたからでしょう。

この映画を勧めてくれたのは、劇場支配人の石井紫さん。小柄な女性です。先ほど観た映画の感想を伝えると、一度ハマると抜け出せなくなるという日本映画の魅力について教えてくれました。

石井さん:「戦後の“黄金時代”につくられた日本映画は、歌謡曲をモチーフにしたものや、実際に起こった事件を元にしているものなど、さまざまなジャンルのものがあり、作風も多彩でした。そのような時代だったので、中には今回紹介したような尖った映画もつくることができたんです。私も旧作映画に馴染みがなかったのですが、気になる俳優さんを見つけたことをきっかけに、その奥深さにハマってしまいました」

ラピュタ阿佐ヶ谷

ちなみに石井さんは、菅原文太さんなど昭和の男らしい俳優さんが好きなのだそう。旧作映画に登場する人々には、男性も女性も覚悟が決まっていて、精神年齢が高いという特徴があるようです。また、「ラピュタ阿佐ヶ谷」で上映されている映画のセレクトは、基本的に石井さんが手がけているとのこと。

石井さん:「お客さんは、映画に関連する仕事や研究をしている方など、根っからの映画好きが多いので、そうした方々からヒントをもらうこともあります」

全48席の小さな劇場だからこそ、お客さんとの交流も大切にしながら、他の映画館では観られないような作品を上映するように心がけているという石井さん。そのこだわりが人を呼び、中には「ラピュタ阿佐ヶ谷」に通うために阿佐ヶ谷に引っ越してきた人もいたと言います。

ラピュタ阿佐ヶ谷

ラピュタ阿佐ヶ谷

石井さん:「その話を聞いたときは嬉しかったですね。デジタルへの移行が進み、フィルム上映をする映画館が減ってきていますが、うちはまだまだフィルムで頑張りたい。スクリーンに映したときの“味”が違うと思うんです。その一方で、新しいお客さんでも来やすいようなアットホームな雰囲気も守っていきたいですね」

作品の幅が広く、すかっとさせてくれるものが多い旧作日本映画。これからチャレンジする人は、まずは一人、お気に入りの俳優を見つけてみてはいかがでしょう。近年の映画とは違う、美しくかっこいい佇まいや姿勢に魅了されるはずです。私は今回観た映画の中で、愛憎にまみれる演技が圧巻だった、渡辺美佐子さんの作品からチャレンジしてみようと思います。

ラピュタ阿佐ヶ谷

東京都杉並区阿佐谷北2-12-21
TEL:03-3336-5440
営業時間:10:00-最終回終了まで
http://www.laputa-jp.com/

ライター

静岡県生まれ。好きなものは、映画、登山、温泉、アーユルヴェーダ。地図が読めないため、町歩きはもっぱら勘がたより。旅行系の冊子やWEBをメインに執筆しています。

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