その昔、華の遊郭がありました ― 千束「カストリ書房」

江戸時代、男たちが通う場所がありました。遊郭「吉原」です。戦後、売春防止法によって遊郭は廃れてしまいましたが、街には今、失われた遊郭文化を伝える書店があります。

東京メトロ日比谷線三ノ輪駅3番出口を出て、国道と住宅街の小道を10分ほど歩くと、かつての吉原の地に到着。元遊郭の街だからでしょうか、現在は風俗店やホテルが立ち並び、昼間は人もまばらです。

街の様子

三ノ輪の小道

三ノ輪の小道2

そんなかつての吉原に遊郭専門書店「カストリ書房」は、ひっそりと佇んでいます。「カストリ」と書かれたのれんがなければ素通りしてしまいそうなほど、街に溶け込んでいます。

カストリ書房外観引き

それもそのはず。この店はここで数十年続いた靴工場の跡地を利用しています。

「この辺りは皮革産業が盛んだったんですよ。僕は2~3年前までこの近辺に住んでいて、空いている物件を自分の足で探して、内装も商品の配置もすべて自分で手がけました」

そう語るのは、カストリ書房の店長の渡辺豪さん。渡辺さんは以前メディア関係の仕事をしていましたが、遊郭文化に強い興味を抱き、2016年9月から遊郭専門書店「カストリ書房」を開きました。

カストリ書房の店長

店内には遊郭や吉原に関する400タイトルの本や、遊郭文化にまつわる雑貨などがびっしりと並べられています。全400タイトルのうち、25タイトルは自社で編集・復刻したものだそう。

カストリ書房店内

渡辺さん:「僕は旅行が好きなんですが、観光地巡りに飽きてしまい、繁華街から離れた寂れた街を見て回るようになったんです。すると、古ぼけた銭湯や美容院などを見つけ、それが遊郭跡だと知りました。興味を持って調べ出すと、男が遊びに行く前に銭湯に行ったり、遊女が美容院で髪を結ったりと、遊郭を中心に町が回っている特殊な文化に気付き、その面白さにどんどんハマっていったんです」

遊郭文化にまつわる雑貨

遊郭や吉原に関する本

全国各地の遊郭跡地へ取材に出かけるようになった渡辺さんですが、当時を知る人がどんどん亡くなり、建物も次々と失われていっていることを知りました。すべての遊郭跡地を回るのは難しいと痛感し、遊郭文化を残すためにある決意をします。

渡辺さん:「僕のように趣味で遊郭跡地を巡る人や、ブログなどでその様子を発信する人はたくさんいます。しかし、典拠になる情報が少ないので内容はどれも似たりよったりになってしまい、情報の精度は下がる一方です。そこで、一次情報になる本を新刊として復刻し、その情報をもとにさらに調査が進んだら良いなと考え、書店を開くことにしたんです」

書棚にはドキッとするタイトルがずらりと並びます。背表紙を眺めていると、気恥ずかしさと後ろめたさ、そして「でも……中身を見てみたい!」という相反する気持ちが沸き起こります。思春期に戻ったような、ちょっぴりハズかしい気分です。

遊郭や吉原に関する本2

「性」をテーマとするカストリ書房ですが、意外にも女性のお客さんが多いのだとか。

渡辺さん:「お客さんは7割くらいが女性。それも、20代後半から30代前半ほどの若い方がほとんどです。僕は男なのであくまで推測ですが、女性って儚くて美しいものが好きで、それを素直に『美しい』『面白い』と言える感性があると感じます。男性はその点、ここに来ると『貴重な資料ですね』などとロジカルなことを言って理性的な反応をすることが多いんですが」

女性におすすめの本を聞いてみると、渡辺さんはきらびやかな表紙が印象的な「ラブホ探訪」という本を手に取りました。ぱっと見は旅行ガイドのようです。

ラブホ探訪の表紙

渡辺さん:「この間は女子高生が『遊女と吉原の歴史』という真面目な本を購入していて驚いたんですが、20~30代女性にはこういうサブカルちっくな本が人気ですね。実はこの本、作っているのは30代の女性なんです。買い手だけでなく、作り手にも女性が増えているんですよ」

店内には女性が手がけた作品がほかにもありました。遊女が客待ちをする格子窓や吸い付けタバコのモチーフをあしらった江戸風鈴や、遊郭建築の一つだという豆タイルを用いたパネルなど、遊郭や遊女を彷彿とさせるアイテムが陳列されています。

江戸風鈴

豆タイルを用いたパネル

「遊郭専門書店」。ここには女性の感性が活きる、粋で艶やかな世界が広がっていました。

渡辺さん:「遊郭は言ってしまえば、性欲と金銭欲しかない世界です。ただ、そこから生まれた作法や様式美などが文化として花開いたところに美しさを感じます。僕はその美しさに惹かれましたし、ここにいらっしゃる女性のお客さんも多くはその美しさに魅了されているのではないかと思いますね」

遊郭文化にまつわる雑貨2

店を出て、国道に向かって曲がりくねった道を歩くと、「吉原大門」の交差点で大きな柳の木を見つけました。

遊郭で遊んだ男たちがこの柳を見て、後ろ髪をひかれる思いで吉原の街を振り返ったというエピソードから、「見返り柳」と呼ばれているのだそう。現在のものは数代に渡って植え替えられたものです。

見返り柳

吉原へと続く道路を振り返ると、道は湾曲し、先が見えなくなっています。あの曲がり角の向こうに、粋で美しい世界があると思うと、江戸の(いまも?)男たちが名残を惜しんだ気持ちが少しわかるような気がしました。

吉原大門の信号

カストリ書房

東京都台東区千束4-39-3
※取材時の店舗から移転しています。
営業時間:11:00-18:00
TEL:080-3002-3953
定休日:月(祝日は営業、臨時休業日もあるためHPを確認)
http://kastoribookstore.blogspot.jp/

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