涼しさと静けさを探す ― 真夏の逃避行 香取市「水郷佐原」

「水郷」と呼ばれる街が千葉県香取市にあると聞き、じりじりと太陽の光が照りつける夏の日に、さっそく足を運びました。

青の布地に、白文字で「佐原駅」と書かれた暖簾がはためく、JR成田線佐原の南口。瓦屋根に格子窓のある駅舎は、まるで立派なお屋敷のよう。

目の前の赤いポストを目印に直進すると、すぐに駅前観光所があり、ここで街の情報を確認することができます。

大きな地図をもらって、案内所の方に「佐原の良いところ」について尋ねてみました。

水郷佐原観光協会 担当者:「ここ、佐原の街には、静けさを求めてやってくる人が多いですね。お祭りやイベント時期をのぞくと、普段はのんびりした空気に包まれているんですよ」

たしかに、暑さのせいもあるとは思いますが、この日は駅前にもほとんど人が見当たりません。あたりを見回すと、コンビニや銀行があり、一見普通の街並みが続いています。水の郷と呼ばれる風景は、駅からしばらく歩いた先にあるようです。

観光案内所のすぐ隣にある銀行の角を左に曲がり、そのまま道なりに進んでいきます。10分ほど経った頃、左手に柳の木が見えたので、誘われるように小道を抜けます。すると、これまでの住宅街とは打って変わって、時代劇の舞台に迷い込んだような光景が眼前に広がります。

中心を流れる小野川と、その両端を囲むしだれ柳、沿岸の町並みは、古い木造建築や土蔵造りなどの、昔の趣を残した建築が並んでいます。

街中に流れている小野川は利根川につながる支流で、江戸時代に舟運が盛んになるとこの川を経由して佐原の街には様々な物資が流通するようになったそうです。

利根川に流れ込む小野川の河口から上流1.8キロメートルの両岸は「佐原河岸」と称され、荷物の揚げ降ろしや旅客の乗降のための「ダシ」と呼ばれる石造りの階段状の船着場が数多く設置されていました。
(水郷佐原観光協会HPより)

川を眺めていると、あちこちに「ダシ」が残っているのが見つかります。

(※画面中央に二つ見えるのがダシです)

かつては舟と川と人々の生活が密接に繋がっていた街の、当時の面影を感じる建物もあちこちに残っています。中には、昔ながらの趣ある旅館もありました。

商品流通の拠点となった佐原では、現在も呉服屋や荒物屋が営まれ、商人の町として家業を継いでいる商家が数多く見られます。

人と物資の往来で賑やかだった頃を思い浮かべつつ、風に揺られて、サワサワと優しい音を奏でる柳の木や、柔らかな川風に心地よさを感じて、川沿いを歩いて行きます。

古い街並みが残る小野川沿いは、30分ほどで歩き切ることができます。沿岸を車が通ることもできますが、昼間になっても、たまに自転車とすれ違うだけで、観光客がぞろぞろやってくる気配もありません。

小野川に架かる橋の上に立って、しだれ柳の枝から覗く町並みは、どこを切り取っても絵になる風景です。

さらに、小野川を横切る香取街道にも趣ある伝統的建築物が立ち並んでいます。

西へ向かって歩き続けると、西端には「馬場本店酒造」「東薫酒造」と、二軒の酒造が並んでいます。水に恵まれたから街だからこそ、お酒や、醤油、味醂の製造も栄えていたようです。東薫酒造では、無料の酒造見学が開催され、水の郷で作られたお酒を試飲することもできます。

町歩きの途中、ひと息つくのに入ったのは、鼠色をした土蔵造りの建物「正文堂」。

江戸時代から代々続く書店でしたが、今はさつまいもを使った和菓子の喫茶店「さわら十三里屋」になっていました。ちなみに、千葉県はさつまいもの産出量が全国3位です。

焼き芋を包み込んだ半月のどら焼き「芋どら」と、もちっとした求肥の中に干し芋を入れた「干し芋大福」に、さつまいもの白皮を使ったシモン茶のセット(810円)をいただきます。

さつまいも好きにはたまらない芋尽くし。「芋どら」の甘いお芋と、苦味のある抹茶あんの組み合わせが絶妙です。店の入り口からは時折涼しい風が入ってきて、自然のクーラーが体の火照りをさましてくれます。

続いて、「正文堂」から西へ徒歩数分歩いたところに、今度は真っ赤な「氷」の一文字を見つけました。

外を歩くには暑すぎる正午過ぎ、嬉々として喫茶「いなえ」の店内に入ります。庭のみえる窓際の席に座り、この季節限定の「和三盆すだち」(650円)のかき氷をいただきました。

たっぷり盛られた氷の山に、すだちの輪切りがのせられて、見た目も涼し気。スプーンでひとくち掬うと、和三盆の上品な甘さが口の中でふわりと溶けていきます。すだちを絞ると、そこに程よい酸味が加わって、また異なった味わいに。十分に身体を冷やしたところで街歩きを再開します。

川沿いを下っていくと、「舟めぐり」の旗を見つけたので、船上からの眺めを楽しむことにしました。夕涼みにはまだ早い時間帯ですが、受付で申し込みを済ませて乗船場に移動します。

川に向かって枝を伸ばす柳の下をくぐるように、船がゆっくりと発車しました。

船の上では足を崩し、真っ青な空を見上げながら柳の緑や水辺の植物、蔵造りの白壁とのコントラストを堪能します。

のんびり寛いでいると、学校帰りの学生カップルが川沿いを歩いていました。制服姿の二人が、江戸情緒ある建物を背景にしていると、なんだか恋愛映画のワンシーンのようで、つい彼らの後ろ姿を目で追ってしまいます。

30分ほどの舟旅を終えて乗船場に戻ると、ちょうど背後の橋の下から水がジャーッと流れ出しました。

江戸時代には、農業用水を送り続ける役目を果たしていた大樋(おおとい…水を離れたところへ送るための仕掛け)が、現在は樋橋として姿を変え、当時の名残りや情緒を再現するように、定刻になると落水音が楽しめます。

溢れ出る水音から「ジャージャー橋」の愛称がついている樋橋の音色は、日本の残したい音風景100選の一つにもなっているようです。目にも耳にも涼しい姿に、「水郷佐原」は自然と心も澄んでいくような心地がしました。

WRITER

気になるコラム