金魚が海を泳ぐ夜 ― 日本橋「納涼金魚ちょうちん船」

※スケジュールを2018年版に更新しました

銀座線三越前駅のB6階段を登ると、そこは日本橋。青銅製の照明灯に照らされた麒麟像は荘厳な雰囲気があって、夜はさらに迫力が増します。

日本橋を銀座側に渡ると「滝の広場」があります。ここは浅草や清澄白河方面に続く船の発着場になっています。今宵、ここから出航するのが「納涼金魚ちょうちん船」です。広場には、船を待つ会社帰りの団体に家族連れ、浴衣姿のカップルなど、幅広い年齢層の方が集ってきました。

出航時間になると、整理券番号順に船に乗り込みます。金魚船は闇夜の中で明るく、真っ赤な光を放っていました。夢の国のアトラクションに乗り込む時のような高揚感を感じつつ、船内へと足を運びます。船に吊るされているのは、山口県柳井市の民芸品である「金魚ちょうちん」です。

【金魚ちょうちん】
幕末の頃、青森のねぶたをヒントにして考案されたと言われ、割り竹で組んだ骨組みに和紙を貼り、伝統的な赤い色は柳井市の伝統織物「柳井縞」の染料によるもの。夏祭りを迎えると、子供たちは浴衣を着て金魚ちょうちんに火を灯し、宵の町へと出かけていたそうです。(新日屋フライヤーより)
※船内のちょうちんは、風や水に耐えられるようにプラスチックの枠、化学繊維でできています。

「金魚ちょうちん」は、二重丸の黒目と丸い口が無表情のようで味わいのある顔です。胸びれや尾が垂れ下がり、中心にある電球の光が和紙でできた身体を通って、どこかほおずきのようにも見えます。

全員が乗船すると、いざ出航。船が動き出し、金魚たちの尾びれも風に揺られて、いっせいに泳ぎはじめました。

船内では、持ち込んだ揚げ物やおつまみと缶ビール片手に乾杯する会社の同僚や仲間達。実はかき氷食べ放題のサービスもついています。浴衣姿と金魚ちょうちんのツーショットを撮ろうと自撮りにはげむ友人同士。カメラで船上から夜景を撮る男性。子供達のはしゃぐ声、聞きなれない外国人観光客の異国の言葉。

船内の陽気なBGMと共に、船長さんが橋の名前に川のトリビア、地名や駅名の由来など様々なうんちくを聞かせてくれます。乗客の笑い声に混じり、時折、相槌も聞こえます。川沿いならではの印象的なエピソードもありました。

新倉雅隆さん(船宿三浦屋8代目):「アサヒビール本社の隣、スーパードライホールの上にある金色のオブジェ。これは、燃え上がる魂を意味しているようです。燃え上がる、という言葉の通り、当初は真っ直ぐ垂直に置く予定でしたが、川沿いで万が一倒れてしまっては危険ということで、横向きに置かれるようになったみたいですよ」

ビールの泡だと思い込んでいた、長年の謎がここにきて解決しました。日本橋を出発して、隅田川を北上しながら30分足らずのうちにスカイツリー付近まで到達する船は、思いの外スピードが早く、川風で少し肌寒く感じるほど。前方の席に座ると、風向きによっては水しぶきがかかることもあります。次々と橋の下をくぐり、ライトアップされた橋や高速道路、ネオンの看板が輝く街の夜景を眺めているだけでも涼しげです。

風に吹かれてヒレをなびかせる金魚ちょうちんの気持ち良さそうな姿は、夕涼みにぴったりの光景です。この日は月も綺麗にみえて、金魚と一緒にお月見を楽しめる夜になりました。

隅田川は様々な屋形船が往来しています。カラフルな照明で彩られた船は、昼間とは異なる外観で、宇宙船のようにもみえます。隅田川周辺のシンボル、スカイツリーは、さながら宇宙ターミナル・ステーションといったところでしょうか。

船上から眺めるスカイツリーは、地上からあおぐよりも空が広く見えて、より神秘的になっています。ここでしばらく、記念撮影のために停船しました。風に乗って走っていた船が停まると、あたりの静けさがひしひしと伝わってきて、少しだけ物寂しい気分になります。

しかし、センチメンタルな気持ちに浸る前に再び船が動き出しました。行きのツアーガイドの代わりに、帰りはビンゴ大会が催されます。一等賞には、金魚ちょうちんのミニチュア版がプレゼントされ、二等三等にも、金魚関連のグッズが用意されています。

子供も大人も一緒になって、「リーチ!」「ビンゴ!!」と、はしゃいでいると、童心にかえったようで、なんだか不思議な一体感が生まれてきました。ゲームに興じているうちに、あっという間に日本橋に到着して、約75分間のクルージングも終了です。

帰り際、尾の垂れ下がった金魚たちを見ていると、やっぱり、夜風に吹かれて活き活きと夜の街を泳いでいた姿が恋しくなりました。ふと、柔らかな風が吹いて、金魚たちがゆらゆら揺れているのを見ては、「まだ泳げるよ」「次はいつかな」なんて話しているような気がした、夏の夜です。

納涼金魚ちょうちん船

運行期間:2018年8月1日(火)-8月29日(火)の毎週火・水・木曜
※8月14日~16日は運休
※小雨決行、荒天の場合は中止、HPで発表
スケジュール:18:00/19:30の1日2回運行(各75分)
出航地:日本橋船着場
料金:大人3,500円、子供2,000円(税込、かき氷食べ放題付き)
チケット購入先:
TELの場合、03-5652-5403(新日屋)
WEBサイトの場合 https://www.shinnichiya.com/10678
※各回残席僅少

WRITER

浅草生まれ、千葉県育ち。美術館めぐりと田舎旅が好き。国境や、街の端っこ、最近は灯台と海、馬のいる場所に夢中。京都でたまに、借りぐらし。日本酒が毎晩の相棒です。

このコラムについて

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