蔵で飲むコーヒー  浅草「ギャラリー・エフ」

浅草寺や老舗の名店、行き交う人力車など、歴史ある風景を今も残る浅草の街。雷門からほど近い雷門二丁目には、この街にふさわしい、味わい深いカフェがあります。その名前は「ギャラリー・エフ」。江戸時代から残る「文化庁登録有形文化財」の土蔵を利用して始まったという、めずらしいカフェです。

ギャラリー・エフ外観

「ギャラリー・エフ」があるのは、地下鉄浅草駅のほぼ真上。改札を抜けA5番出口から地上に出ると、すぐ右手にその看板をみつけました。

重厚感のある扉に、店内を照らすほの暗い照明。中の様子をうかがうと、クラシックな木造りのテーブルや椅子が並んでいるのがわかります。ゆったりくつろげそうな雰囲気です。

ギャラリー・エフ店内

扉を開け、中に入るとコーヒーの香り。まずは一杯ずつハンドドリップで淹れられたコーヒーをいただきます。このお店で使用されているコーヒー豆は、名店として知られる自家焙煎珈琲「カフェ・バッハ」のもの。豊かな香りがいっぱいに広がります。

ギャラリー・エフのコーヒー

店内を見渡すと、もっとも奥まった場所に、ひときわ古く小さな扉があるのを見つけました。モダンなカフェとは一線を画す、とても不思議の扉です。どうやらこの先に、土蔵があるようです。

ギャラリー・エフの土蔵

お店のオーナーである村守恵子さんがこの建物について話してくれました。

村守さん:「店の奥にある土蔵が建てられたのは、今からおよそ150年前の慶應4年(1868)のこと。明治時代にかけて、この土蔵は木材問屋の内蔵として使われていたようです」

それから時は流れ、土蔵の所有権は村守さんの父親へと移ります。その後、土蔵に建て増しするようなかたちで、現在のカフェスペースにあたる建物がつくられたそうです。

村守さん:「父が在命だった頃は、建て増ししたスペースは父の事務所として使われていました。けれども父が亡くなった後、用途がなくなってしまって。一度だけ売りに出したことがありましたが、なかなか買い手が見つからず…。そのうちに、私の妹が『ここでカフェをやりたい』というようになって、娘も『土蔵をギャラリーにしては?』と提案してくれました」

 

ギャラリー・エフ アンティークのテーブル

お店をオープンさせるにあたってこだわったのは、「店内のものをアンティークでそろえる」ということ。テーブルや椅子は、イギリスの教会で長年使用されていたものを取り寄せ、扉はアンティークのものを手に入れたそうです。

村守さん:「いずれも手元に届いた時は、表面が毛羽立っていてボロボロでした。蔵の床を改修した漆造形作家の鍋島次雄さんが、お店で使えるような状態に整えたんですよ」

村守さんに頼んで、蔵の中を案内してもらいます。分厚い扉を開けて入り口をくぐると、そこには濃厚な雰囲気をもつ空間が待ち受けていました。長い歴史をもつ建物しか持ちえない“重み”のようなものを感じます。150年もの間浅草の街を見守り続けてきた土蔵に“意思”が宿り、呼吸をしているようにも思えました。

ギャラリー・エフ土蔵の中

村守さん:「この土蔵に歴史的価値があるのは、紛れもない事実。土蔵のことを多くの人に知ってもらいたいという気持ちから、台東区役所にアポイントメントを取り、調査をしてもらうよう依頼しました」

その後、「台東区文化財保護審議会」から派遣された専門家たちが土蔵を訪れ、内部などを調査。土蔵は類まれな価値をもつ「歴史的建築」と判断され、そして1998年には「文化庁登録有形文化財」に認定されました。

村守さん:「この土蔵は、厚さ30センチにもなる壁に守られた堅牢な建物です。1923年に発生した関東大震災、1945年の東京大空襲を経ても、この建物は残り続けました。浅草の街を焼け野原にしてしまったほどの猛火に、二度も耐えてきました」

そう言って、村守さんは優しく土蔵の柱をさすります。

建物そのものが、文化財であるこの土蔵。現在はギャラリースペースとして利用されています。その空間の素晴らしさを聞きつけ、国内外のさまざまなアーティストから展示を希望する連絡があるそうです。この土蔵で作品を展示すると、いつも不思議な“相乗効果”が起きるといいます。

村守さん:「なかでも印象的なのが、日本の近代文学作家を模した、粘土づくりの人形を展示した時のエピソードです。人形に命が宿ったように感じて。表情も“生き生き”として見えました」

作品がもつ個性がより生かされるということ。この空間が、作品の魅力をいっそう引き出すのかもしれません。

計り知れない神秘をはらむ、この土蔵。新しい「浅草らしさ」を発見する時間になりました。

ギャラリー・エフ看板猫

看板猫のすずのすけ

ギャラリー・エフ(Gallery éf)

東京都台東区雷門 2-19-18

TEL:03-3841-0442

営業時間:(ギャラリー)12:00-19:00、(カフェ)11:00-19:00

定休日:火曜日

※看板猫のすずのすけはお店の状況により、お会いできない可能性もございます。

http://www.gallery-ef.com/index.htm

ライター

千葉県生まれ。食べ歩きとお酒、島巡りが好きです。ワインと日本酒の奥深さに感動し最近スクールに足を運んだりするようになりました。

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