【scene 05 ― 東京真夏のミステリー】ここは古代につながっている - 大東京化石探検

銀座駅地下街

きっかけは銀座駅の地下街を歩いていた時でした。ふと足元の大理石の中に見つけた、大きなうず巻き模様。これは、そう、アンモナイトです。

銀座地下街、アンモナイト

その場にしゃがみこんでじっくり見てみると、つやつやとした石の床の表面に手の平ほどの大きさの模様がありました。それは、小さい頃図鑑で見たことのあるアンモナイトの断面。近くを見渡してみるとさらに2つのうず巻きを発見しました。こんな都会のど真ん中で太古の化石を見つけるなんて…! 唐突な古代生物との出会いに通行人の人目もはばからず、ひとり感動してしまいました。

もしかしたら今まで知らずに通り過ぎていただけで、東京には化石がたくさん眠っているのかもしれない。そんな妄想を抱いて、古代への探検を始めることに。

東京駅の地下街、日本橋駅や六本木駅構内、大手町のオフィスビルなど、電車の乗り換えや出かけ先のビルで見かける石材の床や壁に注目して見てみると、次々と何かの生物のような不思議な形の模様が見つかります。

三越駅前、べレムナイト(頭足類:イカやアンモナイトの仲間)

それはうず巻き模様のアンモナイトだけでなく、ハート模様の貝殻や矢のような形のもの、歯車のような形をしているものなど様々なかたち。

【大東京化石マップ】新宿・六本木・丸の内・大手町・日本橋・銀座

さらには、新宿のビックロや日本橋三越には、「ここに化石があります」という矢印や「アンモナイト」「ベレムナイト」というネームプレートまでつけられて展示している場所もあります。

日本橋三越、べレムナイト

「東京は、化石の宝庫だ!」と熱が上がった私は、見つけた化石の種類やどんな石材に化石が多く含まれるのか知りたくなり、日本古生物学会の機関の一つである「化石友の会」にアドバイスをもらい、街中で見つけた化石の予想を。さらに生物の足跡や巣穴、フンなどのような太古の生き物が活動していた痕跡すなわち「生痕化石」を専門とする千葉大学特任助教の泉賢太郎さんにお話を聞くことにしました。

泉さん:「化石の研究者はたくさんいて、その専門分野も多岐に渡りますが、今回のような駅やビルなどの街中の石材で見られる化石の研究をしている人はあまりいません(笑)」

千葉大学特任教授の泉賢太郎さん

みんなが気づかず見逃していた身近な発見に、少し得意げになった私ですが「化石といえばアンモナイトと恐竜」程度の知識しかないため、撮影してきた写真を見ながら「これはクラゲ、こっちはカニっぽい、これは何かの貝の集合体ですかね」と素人知識で推測を口にしてみるものの、正解はどれもアンモナイトとのこと。東京(の足元)に、アンモナイトがこんなにいたなんて!

六本木の東京ミッドタウン、アンモナイト

大手町の新大手町ビル、アンモナイト(一見するとアンモナイトに見えないがこれもアンモナイトの断面の一部)

泉さん:「化石の種類は、その生物のどの面が切り口になっているかをイメージすると、わかりやすいですよ」

そういって大小さまざまなアンモナイトの化石を見せてくれました。ドキドキしながら約1億年前の中生代を生きたアンモナイトを手に取りました。ずっしりと重く、艶のある表面には虹色の光沢を持つものもあり神秘的です。

アンモナイト

泉さん:「アンモナイトはうず巻きの形が見えるとわかりやすいと思いますが、石材として加工されるときに必ずしもこの断面がカットされているとは限りません。実際に本物の化石を見ると、さまざまな方向での切り口が想像しやすくなると思います」

アンモナイト

なるほど、確かに今まで私の中のアンモナイトは、図鑑や生物の教科書にプリントされていた「うず巻きの生物」という認識でしたが、多角的にアンモナイトを見てみると、クラゲのように見えていた壁の模様や歯車のような模様もアンモナイトの体の一部分だということがイメージできます。

六本木駅構内の壁で見つけた、しずく型の化石はギザギザの細長いパーツをパズルのように寄せ集めてできていました。

六本木駅、アンモナイト

泉さん:「これもアンモナイトですね。アンモナイトの内部には隔壁と呼ばれるたくさんの壁で仕切られた部屋があるんです。この切り口ではその部屋の仕切りを見ることができますね」

アンモナイトの内部構造は思っていたよりも複雑でした。
「この化石は面白いですよ」と、泉さんが一枚の巻貝化石の写真に注目しました。

大手町のKDDI大手町ビル、巻貝

泉さん:「これは巻貝ですが、殻の内部が砂粒と空洞の二層に分かれているでしょう。これはこの貝が地下に埋もれた当時、中に入り込んだ砂が重力によって下方向に堆積したんです。つまり空洞部分が当時の地層の上方向、砂部分が地層の下方向ということがわかりますね。一つの化石から当時の地層構造や当時の環境を見ることができるなんて、面白いでしょう」

このような地層構造を「ジオペタル構造」と呼ぶそう。大手町のオフィスビルで見つけたハート型の切り口の二枚貝化石にも見られました。

大手町のKDDI大手町ビル、(左)巻貝、(右)二枚貝

泉さん:「どんな石材にも化石が含まれているというわけではないんです」

そう言われて集めた写真に目を落とすと、化石が含まれる壁や床は似た色と模様で、同じ種類の石材のようにも見えます。

泉さん:「街中で見られる化石の多くは、サンゴや貝などの生物の死骸が積み重なってできた『石灰岩』もしくは『大理石』に見られます」

大理石は地質学的には石灰岩がマグマの熱などにより再結晶した岩石とのことですが、商業的には石灰質であれば大理石と呼ばれているようです。また、石灰岩や大理石は産地により様々な名前がついています。

例えば、ドイツが産地の黄味がかったベージュ色の石灰岩「ジュライエロー」は、その名の通り恐竜やアンモナイトなどの古代生物が生息していたジュラ紀の暖かく浅い海に溜まった地層から切り出された石材。アンモナイトや二枚貝の化石を多く含むジュライエローは、さまざまな建物に使用されていて、今回撮影した写真にも多く写っていました。

泉さん:「壁や床の石材に模様のようなものがあるな、と思ったらそれは高確率で何かの化石ですよ」

私が、これは汚れか傷かな、と思っていた六本木の東京ミッドタウンの壁で見つけた蛇のような帯状模様も、石灰質の海底に生息していた細長い生き物が開けた穴の「生痕化石」だということがわかりました。

六本木の東京ミッドタウン、生痕化石

銀座駅の日比谷線改札付近で見つけた餃子のような化石は二枚の殻を持つ「腕足類」という生き物でした。なんだか美味しそう。

銀座駅、腕足類(二枚貝に似ているけど別のグループ)

こうして、化石発見にすこしはまってしまい、最近では出かけ先や通勤経路でも、あちこちキョロキョロしながら化石探しに勤しんでいます。つい急ぎ足になってしまう駅や街中での移動ですが、ふとした瞬間に化石と出会うと、その生物がここに至るまでの壮大な時を想い、つい足を止めてしまいます。

今朝、通り過ぎたビルの壁に、足早に通り抜けた駅の通路に、もしかしたらたった今、踏みしめている足元にも化石が眠っているかもしれません。そう思うと、見過ごしてきた風景がみるみる太古の時間とつながっていくような、そんなロマンを感じずにはいられません。

東京の丸の内oazo、アンモナイト

東京の丸の内oazo、アンモナイト

銀座駅、(写真中央)腕足類、(写真下)サンゴ(想定)

東京駅、サンゴ

東京駅、石灰藻

日本橋駅、アンモナイト

六本木駅、アンモナイト

六本木駅、巻貝

六本木

六本木

六本木

六本木

新宿

新宿

新宿

新宿のビックロ

新宿のビックロ

日本橋

東京

化石友の会-日本古生物学会

編集・ライター

茨城県生まれ。旅行、スイーツ、下町大好き。きっちり計画立てるより、無計画でのサバイバル感に惹かれます。日焼けしやすく戻りにくい。最近始めたランニングによるくつ下焼けがほんのり自慢。

この特集について

東京真夏のミステリー

なんで、こんな駅名なんだろう、ここは綺麗だけどさっぱりしすぎな場所だなぁ、なんて、ふと感じる瞬間があります。大した疑問でもありませんが、まさに謎。 古い街には歴史がある、京都や金沢だけではありません。そんなあたりまえのことは、自分が普段見ているこの街にも、あるのです。子どもたちが遊ぶ公園も、無機質なコンクリートの街にも。 謎には歴史=storyが潜んでいます。日常に潜むstoryを探して、街へ出かけました。グラフィティ、駅の名前、野鳥、アンモナイト… ちょっとした謎を探検する、夏がはじまります。