【scene 04 ― 東京真夏のミステリー】そういえば、ケバブって食べたことなかった アメ横から始まるケバブという旅

「イラッシャイ、イラッシャイ〜」
「マチガイナイヨ、オイシイケバブダヨ!」

アメ横入り口

アメ横

JR上野駅の中央改札を抜けて、アメ横商店街へ。しばらく行くと右手に片言の日本語でお客さんを呼び込む外国人の姿があります。トルコ人の経営するケバブ屋が並ぶエリアです。「ダイジョウブ、マチガイナイ!」の言葉に誘われるようにトルコの国旗が描かれたケバブ屋「オスカーケバブ」へ入りました。

アメ横ケバブ屋

2014年にアメ横に出店したオスカーケバブは、昨年開催された日本最大級のグルメイベント「ケバブグランプリ」で準優勝を果たした実力店。4つのベンチと3つのテーブルが置かれただけの屋台のようなシンプルなお店ですが、ふらりと立ち寄る日本人や外国人で、客足は途絶えません。

アメ横のケバブ屋メニュー

カウンター越しに「どれがオススメですか?」と聞くと「好きなの食べなよ!」と返ってきたので、「ドネルケバブ」を注文しました。まるで二本の柱のようにローストされているとり肉と牛肉の塊の間で、テキパキとケバブを作ってくれるのはトルコ人のハサンさんです。「呼びにくいだろうから、僕のことはマイクって呼んでね」と笑顔で出来立てのケバブを渡してくれました。

ハサン?で、マイク?

ケバブ屋店主

ケバブアップ

削ぎ落としたとり肉と牛肉、千切りキャベツ、スライストマトを丸くて薄い「ピタ」と呼ばれるパンにサンドし、その上からマヨネーズとケチャップベースのソースがかかっています。胃袋を刺激するスパイシーな香りに、たまらずガブリと一口。ジューシーな肉の旨味と、シャキシャキ野菜の歯ごたえに満足感を感じました。

ケバブとコーラ

ペロリと完食し、お腹も満たされたところで「ケバブについてもっと聞いてもいい?」と尋ねると、

ハサン(マイク)さん:「知りたいなら、いろいろ食べてみるといいよ。ちょっとついてきて」

そう言うと、ハサンさんは唐突にお店の外に出て歩き出します。怪しい。

「オスカーケバブ」から歩いて3分。同じアメ横内にある系列店に到着しました。そこで厨房に立つスタッフと何やらトルコ語で話しています。どうやらこのお店でもトルコ料理とケバブを食べさせてもらえるようです。

アメ横2

ケバブ屋2

カウンター席に座って見守っていると、レンズ豆のスープ、ひき肉とスパイスの丸くて薄いピザ、そしてデザートには、もっちりと粘り気のあるトルコアイスまで、次から次へとトルコ料理が出てきます。

レンズ豆のスープ

ひき肉とスパイスの丸くて薄いピザ

トルコアイス

フルコースで堪能して、幸せ気分に浸っていたところで「このケバブも食べてみて」と登場したのが、ふわふわの焼きたてパンに、肉とキャベツをぎっしり詰めたもの。ピタパンでサンドされたものよりも、かなりボリュームがあります。こちらの厨房を任されているアーリフさんは日本在住歴8年、流暢な日本語で接客してくれます。

ピタパン

アーリフさん:「ケバブにはいろんな種類があるよ。ソースもパンの種類もさまざまだし、パンに挟まないスタイルのケバブもある。僕はこのふかふかパンに挟んだケバブがトルコでは定番だと思っているけどね」

ケバブ屋の店員さん

私たちの横では、常連らしい日本人男性が牛丼ならぬケバブ丼を食べている最中でした。なるほど、確かにさまざまな食べ方があるようです。

ケバブ丼

店頭でトルコアイスを販売するタースィさんは、粘り気のあるトルコアイスの特徴を利用して、ユーモアあふれるパフォーマンスでお客さんを魅了します。最初に立ち寄ったオスカーケバブに戻ってみると、なぜか観光客とトルコ人スタッフが腕相撲をしているところでした。なんともチャーミングな風景。

アイスどうぞ

ケバブ屋さんと腕相撲

もっと、トルコとケバブについて知りたくなった私は、港区芝公園にある「Yunus Emre Enstitüsü トルコ文化センター東京」を訪れました。この施設ではトルコ語の授業やトルコの伝統工芸、トルコ料理などの講座が開催され、トルコに関するさまざまな文化を発信しています。

トルコ文化センター

トルコ文化センター東京PR担当さん

トルコ文化センター東京PR担当のオヌル・ジェム イルマズさんに話を聞きました。

オヌルさん:「トルコ料理のルーツは約1600年前、まだトルコという国ができる前の遊牧生活にあります。当時、モンゴル高原から中央アジアを流れるように旅をしながら生活していた民族が食べていたのが、保存ができない野菜や果物ではなく、肉やヨーグルトやチーズなどの乳製品でした」

トルコ文化センター東京PR担当さん2

一箇所に定住せず、家畜とともに旅をしていた遊牧民たちの主食となるのが肉料理。ケバブとはアラブ語で「焼いた肉」という意味です。当時の遊牧民たちが好んで食べていた焼いた羊肉をケバブと呼ぶようになり、トルコ共和国ができた後もシルクロードによる香辛料貿易の影響で、さまざまなスパイスをケバブやソースに用いるようになっていったとオヌルさんは話します。

オヌルさん:「ケバブはトルコができる前の、遊牧生活の中で生まれた食べ物です。だから発祥地がどこかは明確には言えません。食べ方も三者三様で、パンに挟まずに、野菜や肉を乗せたものも、串焼きのものもケバブと呼べるし、肉の種類も牛肉、羊肉、とり肉を好みで選びます。トルコでは牛肉ととり肉をミックスさせるのが一般的ですね」

ケバブとは、遊牧生活の中で生まれ、各地のスパイスや素材を取り入れながら、食べる人の好みで素材やソースを自由にアレンジするのが本当の食べ方だそうです。

ちなみに、オヌルさんのお気に入りは「フュニュキャルデーンディ」というケバブ。「王様のお気に入り」という意味で、皮をむき焼いたナスのみじん切りとローストした羊肉に、小麦粉とミルクで作ったべシャメルソースをかけて食べるスタイルです。

トルコ民族衣装

トルコの楽器

トルコ文化センター東京の入り口

オヌルさん:「トルコでは朝ごはんからボリュームのあるケバブを食べることも一般的。10分程度で食べきれるケバブは、忙しい朝ごはんとしてもぴったりのファストフードです」

好みの組み合わせを好みのソースで、というのがケバブの定義。その柔軟さが魅力であると同時に、旅するように生活を続けた遊牧民たちを彷彿とさせるものでした。

「こうあるべき」という決まりが存在するものだという思い込んでましたが、上野、そして芝公園のトルコ文化センターケバブの話を聞くうちに、「ケバブって自由なんだ」と、その考えがほぐされていきます。自由に、柔軟な食べ物、ケバブです。

おいしそうなケバブ

料理、映画、本、旅。遊牧するようにさまざまなジャンルに触れて、自分だけのケバブを探してみませんか、なんてたって、ケバブは自由な食べ物なんですから!

オスカーケバブ

東京都台東区上野4-7-8アメ横センタービル1階
https://www.oskarkebab.com/

Yunus Emre Enstitüsü トルコ文化センター東京

東京都港区芝公園3-4-30  6階
TEL:03-6452-9258
https://www.yunusemre.jp/

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編集者・ライター

この特集について

東京真夏のミステリー

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