東京の夏 ― 思い出の原風景 武蔵村山市・瑞穂町「都立野山北・六道山公園」

上京して10年も経つと、季節の移ろいに鈍感になっていくような気がして、時々、憂います。かと言って、自然豊かな遠方へ足を延ばすのはなかなか難しいもの。東京にも昔懐かしい原風景を残す場所があると知って訪ねてみました。

JR中央線に乗って、「立川駅」へ。そこから40分ほどバスに乗り「峰」という停留所に降り立ちました。この近くに、今回の目的地「都立野山北・六道山公園」があるのですが、あたりは住宅地。原風景からはほど遠い印象です。

でも、地図に沿って進んでいくと徐々に木々が多くなり、気づくと緑道に変わっていました。木陰に包まれる小路には涼しい風が吹き抜け、次第に風景を楽しむ余裕まで出てきます。緑道に入るだけでこんなにも体感温度や気持ちまで変わるものなのか、と驚かされます。

緑道を10分ほど進むと、建物が見えてきました。公園の管理をしているインフォメーションセンターです。広報を担当している佐野康子さんと、公園の環境教育や巡視による安全点検を担当しているレンジャーの白鳥勝也さんにお話を伺います。

武蔵村山市と瑞穂町にまたがる「都立野山北・六道山公園」は、狭山丘陵の西に位置する都市公園。計画面積は260ヘクタール。東京ドーム56個分にもなります。雑木林に包まれたこの地では、かつて稲作が栄え、人々は豊かな自然と共生していました。ところが時代が進むにつれ、主流は農業から工業へと変わり、谷戸には不要物が投棄されるように。そこで再び里山風景を取り戻そうと整備をし、現在の公園の形になったと言います。

佐野さん:「私たちスタッフの他に、ボランティア登録をしている方々が400人以上いて、みんなで整備をしています。ボランティア活動は、たくさんのグループに分けて行なっており、好きなグループに参加していただいています。田んぼの田植えや稲刈りをするグループや、里山保全活動やイベント企画協力をするグループなどがあります。みなさん楽しんで参加していて、継続してボランティアになる方も多いですね」

豊かな自然を残す広大な園内には、山コース、展望台コース、里コース、森林浴コースという4つの散策路が設けられ、気分に合わせて周遊することができます。また、「あそびの森」「冒険の森」という名の30基以上のアスレチックを揃えたエリア、近隣には「歴史民族資料館」などもあり、大人から子どもまで満喫できるところも魅力。今回は、里山風景が楽しめるという里コースを歩いてみることにしました。

園内で見られる季節の花を教えてもらったら、地図を片手にインフォメーションセンターを出発します。すると、早速ひとつめの看板を発見。このようにところどころに看板が設置され、進むべき方向を教えてくれるので、迷うことなく散策が楽しめます。都心ではたった数分歩くだけでバテてしまう季節ですが、山中はとても涼しく、歩いていると次々に景色が変わってゆくので飽きることがありません。時折強い風が吹き、ごぉーっという音を立てて葉が揺れたり、都内ではまだ聞こえないセミの声が響いたり。アニメに出てきそうなキノコもちょこんと佇んでいます。

道の端には、インフォメーションセンターで教えていただいた、おおぶりで鮮やかなオレンジの花、「ヤブカンゾウ」と「ノカンゾウ」が咲き誇っていました。ふたつの花は一見同じに見えますが、ヤブカンゾウが八重咲きなのに対し、ノカンゾウは一重咲きとなっているところが見分けるためのポイント。また、虎のしっぽに形が似ていることから名付けられた「オカトラノオ」という白くかわいらしい花も咲いています。

山道をしばらく歩くと、大将山というビュースポットに到着。眼下に広がる住宅街と、丹沢山系の山々まで見渡すことができます。後ろには小さな社もあり、休憩がてらお参りをすることも可能。その後は、「里山民家」という看板が示す方向に歩いていくと、立派な茅葺き屋根の民家が登場しました。敷地内には納屋や作業小屋もあります。

母屋の家屋に足を踏み入れると、エアコンも扇風機もないのに涼しい風が家の中を吹き抜け、思わず「はー、涼しい」と声が漏れます。こちらは江戸時代に実在した民家を再現したもので、家自体の築年数は15年ほど。昔ながらの構造でありながら家自体は新しく丈夫なことから、誰でも気軽に出入りすることができます。時には、お弁当を持って散策中のひと休みをする人もいるのだそう。縁側でのんびりと日向ぼっこをしたり、室内でごろりと横になって過ごしたりするのも良さそうです。

里山民家の裏には田んぼが広がり、脇にはため池や小川が流れていました。田んぼではボランティアの方を中心に、うるち米、古代米、もち米をつくっていて、収穫量は1,000キロにも上ります。田んぼの上にはトンボが飛び交い、近くにいた女性はボランティア活動にも参加しているとのことで、里山民家で開催予定の流しそうめんイベントについて嬉しそうに教えてくれました。のどかな光景に、自然と心が和みます。

最後は、狭山丘陵を一望できるという展望台を目指すことに。尾根道を進んだ先にある、レンガ造りのレトロな建物が瑞穂町立文化の森「六道山公園展望台」です。展望台からの眺望は「関東の富士見100景」にも指定されており、四季折々の風景を眺めることができる園内屈指の絶景ポイント。階段を上り展望台の扉を開けると、そこには緑のじゅうたんが広がっていました。晴れた青空の向こうには東京の景色が続き、鳥が気持ち良さそうに飛んでゆきます。山道を歩きながら頭上で揺れる木々を見上げるのも、こうして緑の丘陵を見下ろすのも、どちらも夏ならではの眺めです。

展望台からの景色を見ながら数時間の散策を振り返っていると、ふと子どもの頃の記憶が思い出されました。この日のように、汗をかくことを厭わず、ただ目の前に広がる自然に夢中になっていた気持ち。それこそが夏の思い出をきらきらと輝かせていたのかもしれません。

 

野山北・六道山公園インフォメーションセンター

住所:東京都武蔵村山市三ツ木4-2
TEL:042-531-2325 (8:30~17:30)
開館時間:8:30 -17:30
休館日:年末年始

里山民家

住所:東京都武蔵村山市市岸2-32
利用時間:9:00-16:30(3-9月は17:00まで)
休館日:年末年始

ライター

静岡県生まれ。好きなものは、映画、登山、温泉、アーユルヴェーダ。地図が読めないため、町歩きはもっぱら勘がたより。旅行系の冊子やWEBをメインに執筆しています。

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