食べたい、ナポリタン! 新橋・カフェテラス「ポン・ヌフ」

昼、新橋駅。山手線のドアが開くと、スーツやシャツ姿のサラリーマンたちが電車から勢いよく飛び出し、足早に改札に吸い込まれていきます。

ざわめき絶えない駅を汐留口から出ると、新橋駅前ビル1号館です。流動的な駅の空気とは対照的にレトロな雰囲気に包まれたこの建物に、近隣のサラリーマンが通い詰める老舗喫茶店があります。

新橋駅

建物の周りをぐるりと回り、入口を発見。「新橋駅前ビル1号館」の字体や色味に、時の流れを感じます。

新橋駅前ビル1号館

館内には音楽などは流れず、通路を行き交う人やスタッフたちの会話が時折さわさわと響き、控えめな照明も相まってゆったりとした空気が流れていました。飲食店のほか、たくさんの会社が入っているようで、案内板には店名や社名がずらりと並んでいます。

1階の通路の先にカフェテラス「ポン・ヌフ」はありました。入口はフランス国旗カラーの看板から食品サンプルのショーケースまで、昭和を感じる佇まいです。

ポンヌフ看板

店に入り、テーブル席に腰かけて店内を見回します。カウンター席に囲まれた厨房を中心にテーブル席が並び、お客さんや店員さんの話し声、扇風機の音が唯一のBGMです。時間がゆっくりと流れるような空気感や、長い間使い込まれた調度品などが、どことなく祖父母の家と似ていました。

ポンヌフ店内

まず、「ポン・ヌフ」と言えばナポリタンをオーダー。鮮やかなオレンジ色と酸味の効いたケチャップの香りが食欲をそそります。

ポンヌフのナポリタンサンプル

「男性だけでなく、女性客も多くいらっしゃって、ボリュームのあるハンバーグ付きのナポリタン『ハンバーグスパゲティ』をぺろりと平らげてしまうんです」と語るのは、店長の信夫健二さん。今年73歳になるという信夫さんは、50年以上もこの店に立っているのだといいます。

この新橋駅前ビル1号館が建てられたのは1966年。「ポン・ヌフ」が開店したのは、ビルの開業とほぼ同時期だそう。

信夫さん:「この店は、もともと新橋でベーカリーを営んでいた先代が作った店です。先代は店の経営を主に行っていたため、店に立つことはほとんどなく、私が50年以上店長をやってきました」

50年、言葉にすればシンプルですが半世紀という長い年月。そう考えると、店内の雰囲気が祖父母の家を思い起こさせたことにも納得です。その店の歴史をすべて体験したわけではないのに、初めて訪れるのに、なぜだか懐かしい気持ちにさせてくれる。年月を経た店には、ただ佇んでいるだけで歴史を感じさせる力があるようです。

窓の外に目をやると、外の世界と店の中の時の流れが違う気もしてきます。店内のテレビで流れているのは確かに2017年の番組なのに、店内の空気は昭和そのものです。

ポンヌフ店内から外見る

ポンヌフのナポリタン

今回オーダーしたナポリタンは、開店当初から続くメニュー。玉ネギ、ハム、マッシュルームと絡み合う極太の麺は、幅広い世代の人が食べやすいように、柔らかくモチモチとした食感にこだわっているそう。

ポンヌフのナポリタン2

濃厚ながらケチャップが効きすぎない、優しい味わいを生み出しているのは、50年以上変わらないオリジナルソース。ケチャップのほかに何を使っているのか気になり、信夫さんに聞いてみると、「それは秘伝の味だから教えられないですよ。食べた時のお楽しみにしてください」とのこと。

続いて運ばれてきたのは自家製プリン。甘すぎないビターなカラメルソースと、口の中でほろりとほどけるような柔らかさが印象的な、家庭的な味です。

ポンヌフのプリン

信夫さん:「新橋のサラリーマンに合わせて、カラメルソースは甘さ控えめにしています。昔は『俺はプリンなんか食べねぇ』なんて堅気な男の人も多かったけど、今ではほとんどの人が頼んでいて、プリンだけオーダーする人もいるくらい人気なんですよ」

食べ終わったところで、信夫さんがお店の名前についてお話してくれました。

信夫さん:「『ポン・ヌフ』とは、フランス語で『新しい橋』つまり『新橋』という意味なんです。先代はフランス好きでしたし、当時『ポン・ヌフ』という店名が流行りだったので、この名前になったんでしょうね」

店名の由来を聞き、店の看板がフランス国旗カラーだったことにも合点がいきました。私が座った席のちょうど後ろの壁には、フランス人画家のベルナール・ビュッフェが描いた絵画「ポン・ヌフ」も飾られていて、フランスへの思い入れを感じます。

ベルナール・ビュッフェが描いた絵画「ポン・ヌフ」

昔は新橋の中だけでも「ポン・ヌフ」という名前の店がたくさんあったそうですが、今ではほとんどが閉店し、この店と近隣の蕎麦屋だけが残っているのだそう。それでもこの店が50年以上の歴史を紡ぎ、今日もサラリーマンの胃袋を満たしているのは、昔懐かしい味を貫いてきた信夫さんの信念の賜物なのかも知れません。

昔ながらの味わいに、積み重なった時間の厚みを感じる空気、新橋の昔話。当時を知らないはずなのに、店の中で過ごすと不思議と懐かしさがこみあげて、温かい気持ちで満たされました。忙しない毎日や仕事のことを一時忘れて、昭和に帰れる場所がここにはあります。

カフェテラス ポン・ヌフ

住所:東京都港区新橋2-20-15 新橋駅前ビル1号館1階
営業時間:11:15-15:30、17:30-20:00、土曜11:00-14:30
電話番号:03-3572-5346
定休日:日曜・祝日

ライター

埼玉県生まれ、群馬県育ち、東京都在住の関東人。エジプト、トルコ、ギリシャ界隈の歴史が大好きな世界史系歴女。シャーマニズム、古今東西の墓文化、ハロウィーンなどミステリアスなものにも惹かれる。

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