【墓地女が行く!】① ― 雑司ヶ谷霊園に眠る「夏目漱石」

歴史上の人物に会ってみたいと思ったことはありませんか? 私は学生時代に歴史に魅了されて以来、常に思っています。歴史の教科書を読んでいると、なんだか歴史上の人物を遠い存在のように感じてしまうのですが、彼らを身近に感じる方法があります。その一つがお墓を訪ねること。歴史上の人物のお墓を前にすると、彼らが実際に生きていたことをリアルに感じ、身近さがぐっと増すんです。

お墓を訪ね、歴史上の偉人・著名人に会いに行く不定期連載【墓地女が行く!】。第1回は作家夏目漱石のお墓を訪ねました。

夏目漱石のお墓は豊島区南池袋の雑司ヶ谷霊園にあります。東京メトロ副都心線雑司が谷駅1番出口を出て、都電荒川線の線路沿いに歩き、南池袋第二公園を通り過ぎた辺りで右折すると、墓石の立ち並ぶ霊園が見えてきました。

霊園はサンシャインシティや豊島区役所、高層マンションなどが隣り合う都会にありながら、静謐な空気が流れています。

訪れたのは5月のよく晴れた日。敷地内には木々が立ち並び、あちこちに心地良い木陰ができていました。通り抜けていく風があまりに爽やかで、霊園とは思えない清々しさを感じます。

この木々を見て思い出したのは、漱石の名著『こころ』に登場する雑司ヶ谷霊園のシーン。雑司ヶ谷霊園は作中で「先生」の友人「K」が眠り、先生が毎月欠かさず墓参りしている場所として描かれています。また、霊園を覆うように茂る木々も多く描写されているのです。漱石作品の聖地巡礼をしているような気分になります。

霊園内では墓参りに来ている人だけでなく、犬の散歩をする人や買い物袋を提げて自転車を走らせる人、通学途中の学生など、生活感満点の老若男女とすれ違います。地域の生活に溶け込んだアットホームな空気に驚きです。

辺りを散策していると、漱石のお墓はすぐに見つかりました。なぜかというと、彼の墓石は他のお墓よりも頭一つ飛び抜けて大きいからです。

漱石の戒名「文献院古道漱石居士」が刻まれた墓石は、目の前にすると見上げるほど大きく、圧倒されました。この特徴的な形は安楽椅子をイメージしているといわれ、夏目漱石の相婿の鈴木禎次がデザインしたのだそう。

墓前には漱石ファンがつい最近墓参りしたばかりだったのでしょうか、手向けられたばかりのみずみずしい花がお墓に華やぎを添えていました。雑司ヶ谷霊園の職員さんによると、漱石のお墓は霊園内で最も人気がある場所で、文学好きや歴史好きだけでなく、海外からもファンが訪れているのだとか。

墓石には彼の戒名だけでなく、妻の夏目鏡子の戒名も彫られており、夫婦共にこの場所に埋葬されています。実はこのお墓には幼くして亡くなった彼の五女ひな子も葬られており、漱石は家族に囲まれて眠っています。

色々な逸話が残る漱石ですが、彼の人生は苦しいだけではなかったように思います。臨終の時には妻子や友人、門下生たちが駆けつけ、大勢の人が彼の最期を看取りました。苦しい、苦しいともがいていた人生ですが、多くの人に愛され親しまれていたことに、漱石は最後の最後に気付けたのでしょうか。ポジティブな面に目を向ければ、人生は見方が変わると思うのです。

国立国会図書館WEBサイトより引用 出典:漱石の思ひ出

参考文献:『夏目漱石』十川信介(岩波書店、2016年)

雑司ヶ谷霊園

東京都豊島区南池袋4-25-1
TEL:03-3971-6868
営業時間:8:30-17:15(窓口のみ、園内は年中無休)
定休日:年末年始(窓口のみ、園内は年中無休)

ライター

埼玉県生まれ、群馬県育ち、東京都在住の関東人。エジプト、トルコ、ギリシャ界隈の歴史が大好きな世界史系歴女。シャーマニズム、古今東西の墓文化、ハロウィーンなどミステリアスなものにも惹かれる。

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