【scene 05 ― 雨の東京ウィークエンド】夜のあじさいが呼んでいる 箱根登山鉄道「あじさい電車」

雨が似合う花、といえば紫陽花(あじさい)です。小さな花が集まり、鞠状のかたちはまるでブーケのようで華やかです。雨の日は一段と鮮やかに色を帯びる凛々しさと、雨露さえも纏って、葉や花弁を着飾るしとやかさを感じるあじさいは、私のお気に入りの花です。
ふと、ライトで照らされた「夜のあじさい」が箱根で見られるということを知り、梅雨の晴れ間の平日に新宿駅から2時間弱の箱根の小さな旅へ出かけました。

(スケジュールを2019年版に更新いたしました)

人気温泉地、箱根の玄関口「箱根湯本駅」の駅の周りには、いつもたくさんの土産物屋さんで賑やかですが、到着した17時過ぎ、少しぶらりと歩いてみると人もまばら、土産物屋さんも店じまいの準備中でした。

日没間際の18 時50 分、チケットを手に、真っ赤な車体が夕暮れに映える登山鉄道「夜のあじさい号」に乗り込みます。出発時には、駅のホームに「すてきな時間をお過ごしください」というお手製の横断幕を持った駅員さんたちが笑顔でお見送りしてくれました。

車内では新人車掌さんの初々しいアナウンスが乗客を和ませます。あじさいの見どころの案内以外にも、「沿線にあじさいを植えたのは、雨などで土が流れないようにする土留めが理由だった」「あじさいの代わりにヤマユリを植える案もあった」など登山鉄道に関する豆知識やクイズが折り込まれていて退屈しません。

箱根湯本駅を出発して強羅駅までは片道約40 分、途中6 箇所にあじさいスポットがあります。車窓から手を伸ばせば届きそうなほどの線路脇ギリギリに植えられた、薄い夜の闇に浮かび上がる白や紫、青色のあじさいはとても幻想的です。

急傾斜の坂を登るための「スイッチバック」と呼ばれるジグザグ走行で前に進んだり後ろに進んだり交互に繰り返しながら進んでいくのはちょっとした冒険のよう。トンネルを抜けるごとにさらに緑が深くなり、のどかな山の景色が電車を囲みます。

箱根湯本駅から三つめの停車駅「宮ノ下駅」に着く頃にはすっかり陽が落ち、ひんやりとした夜気と山の静けさに包まれていました。この駅で10 分間の記念撮影時間が設けられ、ホームに降りるとずらりと並んだ満開のあじさいが乗客を歓迎してくれました。

ライトに照らし出されたあじさいは赤、紫、青の極彩色が眩いほどに美しく、昼間に陽の光の下で見るあじさいよりも濃厚な色を感じました。

再び電車に乗り込み、出発です。宮ノ下駅以降は沿線のあじさいもまだ蕾のままでした。これが全部満開になったらさぞかしきれいだろう、と数日後の満開の風景を想像しているうちに終点、強羅駅に到着です。箱根湯本駅と強羅駅の標高差は400 メートル以上もあり、ホームに降り立つとひんやりと肌寒さを感じました。

箱根湯本駅に戻る電車の出発時間まで少し時間があったので、強羅駅の周りをふらりと歩いてみましたが、駅周りに2店舗お土産屋さんが開いているくらい、あとは夜の闇が静かに広がっているだけ。時折すれ違う浴衣姿の人は、きっと近隣の温泉宿の宿泊客なのでしょう。後ろ髪を引かれる気持ちで帰りの電車に乗り込みました。

電車の中では、あちこちから「プシュッ」という小気味良い音が聞こえてきます。私もそれらに混ざって、強羅駅で調達した缶ビールを開けます。再び窓の外に目を向ければ闇に浮かび上がるあじさいが心地よさそうに揺らいでいました。

1994 年から始まったこの特別電車「夜のあじさい号」も今年で23 年目。6 月17日から7月2 日の期間で運行する、一日1〜2 本限定で、ライトアップ区間を徐行と停車を繰り返しながら線路の両側に咲くあじさい回廊を走り抜けます。

(上記は2017年の公開時の情報です。詳細情報のスケジュールは2019年版に更新しました)

箱根登山鉄道 夜間ライトアップ

(2019年版のスケジュールに更新いたしました)

期間:2019年6月15日(土)~7 月92日(火)まで
時間:18:30-22:00
※期間中は通常の定期電車からもライトアップを見ることができます
運賃(箱根湯本駅〜強羅駅区間の片道)/大人400 円、小児200 円
http://www.hakone-tozan.co.jp/

金額など掲載の情報は、記事公開時点のものです。変更される場合がありますのでご利用の際は事前にご確認ください。

WRITER

編集者・ライター

この特集について

雨の東京ウィークエンド

毎日、雨の日が続きます。雨は夏前の潤いの源。5月の爽快さはありませんが目を閉じて耳を澄ませば、ぽつぽつと街を打つ雨音が心地よく聴こえます。 カフェの庭で雨を感じる。洗濯をしにランドリーに行く。心を静かに整えて、音楽を聴く。紫陽花を見つめ...

気になるコラム