【scene 03 ― 雨の東京ウィークエンド】雨の日もアーケードでつまみ食い 武蔵小山商店街「パルム」

「きっと好きになると思うよ」
休日の朝。カーテンの先に広がるどんよりとした空を見た時に、ふと思い出したのはその言葉でした。

ある年上の友人は、性格も趣味も私とはまったく違うけれど、なぜか会う度に心のひだに触れるものを教えてくれる人。私が街歩きが好きだと言うと、勧めてきたのが武蔵小山の商店街でした。天井がアーケードになっているから雨の日でも安心だと言っていたけれど、一体どこが他の商店街と違うのだろう。なんだか気になり、今日は雨だし、訪ねてみることにしました。

(こちらの記事は2017年6月23日に公開したものを、2018年11月26日に更新いたしました)

品川区に位置する武蔵小山は、目黒駅から東急目黒線で5分ほど。駅に着いて東口に降りると、ロータリーの向こうには「Palm」の看板が。商店街は、「ふれあいの街」という意味を込めて「パル(友達)」と「ム(武蔵小山)」をつなげた「パルム」という愛称で親しまれています。頭上高くに設置されたアーケードはなんと全長800メートル。完成当時は東洋一の長さを誇り、今でも都内一長いアーケード商店街です。

八百屋さんやお豆腐屋さんといった昔ながらの商店から、新しいパン屋さんやチェーン店まで、さまざまなお店が軒を連ねています。奥に向かってずらりと並ぶ商店街ならではの看板も、それぞれの個性を主張していて面白いです。まずは通りの中心に位置する「パルム会館」という事務所を訪ねてみました。

パルムのお店一覧を掲載したマップが置かれているほか、商店街オリジナルのドロップや東急目黒線のことを歌ったCDなども販売されています。ちなみにドロップのパッケージに描かれているバービーのイラストは、商店街のキャラクター、パルくんとパムちゃんです。

さらに進むと、一軒の新しいお店を発見。雑貨屋さんかな、と思い近づいてみると「丸魚専門店」という赤い暖簾がなびき、中からは「いらっしゃい!」という元気な掛け声が響きます。

こちらは5月11日にオープンしたばかりの「おかしらや」という魚屋さん。店頭にはいわしや真鯛といった定番のものから生シラスなどの珍しいものまで、豊富な種類の鮮魚が並びます。産地直送で仕入れているという魚はどれも眼が澄んでいて鮮度が高いことがうかがえますが、何より心が踊るのはその安さ。新店舗開発を担当している田中章博さんにお話を伺いました。

※こちらの店舗は、2018年11月現在「サカナバッカ武蔵小山」に名称変更しています。

田中さん:「この店の特徴は、すべて丸魚の状態で販売しているということ。切り身にするには人件費がかかりますが、そのコストをカットすることで販売価格を下げることができました。みんなどうしてもお肉を選びがちですが、鮮度のいい魚がお値打ち価格で売られていたら、手に取りやすくなるんじゃないかな」

店内には魚のおろし方のポスターが貼られているだけでなく、HPで捌き方の動画を見ることもできます。

田中さん:「一匹の魚を買うと、半分を刺身にして、もう半分を煮物やつみれにするという楽しみ方もできますよ」

いつも切り身を買って一辺倒な味わい方しかしていなかった自分に気づかされました。さばき方を知らなかっただけで動画を見ると意外と簡単そう。「やってみたい」というチャレンジ精神がむくむくと湧き上がるとともに、自炊が楽しくなりそうな予感がしました。

パルムの終着点に近づくにつれ、なんだか香ばしい匂いが立ち込めます。引き寄せられるようにして近づいていくと、そこには焼鳥屋さんがありました。「鳥勇」は昭和元年創業の老舗で、パルムとともに歴史を刻んできた街のシンボル的なお店です。軒先に並ぶできたての焼鳥は一律150円で、なんと美味しそうなこと!

すると、一人の女性が私の脇をすり抜け、店頭に並ぶ焼き鳥を掴むと何も言わずいきなり食べ始めました。その後にやってきた男性も、焼き鳥を手にするとそのまま口へ運びます。みんな当然のように食べています。

実は鳥勇では、好きなものを自分で取って食べ、最後に串の数でお会計をするというシステムなのです。では、私も早速。最初に選んだレバーは、中がほんのりとレアになっていて溶けるようなやわらかさ。ヒナ肉やうなぎなどの少し変わったものもあり、あれこれと試していくうちにおのずとビールが進みます。中央にはタレが用意されていて、つけて食べることもできます。ただしナンコツとスナギモは塩焼なので、タレはつけないよう要注意です。

串を頬張りながら商店街を眺めていると、通りにはのんびりと自分のペースで歩くおばあちゃんや、海外から旅行に来ているらしい外国人の青年、おぼつかない足取りの小さな女の子は、疲れてしまったらしく道端に座り込んでちょっとひと息。猫専用のペットショップを物珍しそうに眺める犬も。みんなのびのびと自由に過ごしています。この商店街のアーケードが守っているのは、もしかしたら雨や日差しからだけではないのかもしれないと感じ始めました。

お腹も膨れたし、最後はやっぱりデザートで締めたい。そんな思いで歩いていると、おとぎ話に出てきそうなかわいらしいカフェ「王様とストロベリー」を見つけました。店内は上品な調度品で揃えられレトロな雰囲気が漂います。

甘いものを求めてパフェを注文すると、アイスクリームがぎっしり詰まったパフェが登場しました。ゆうに20センチは超えるであろう存在感抜群の一品です。実は今回注文した「ジャンボパフェ」を超える、全長60センチの「キングパフェ」もあります。昭和60年頃からこのお店を営んでいる店長の飛永昌之さんにお話を伺いました。

飛永さん:「大きなパフェには、武蔵小山の街でみんなで笑い合いながら食べてほしいという願いを込めています。実際に誕生日会に子ども同士で食べたり、留学生と仲良くなるためにシェアして食べたりする方がいらっしゃいますよ」

キングパフェは1日に5個から10個、多い日で15個ほどオーダーを受けることもあるのだそう。フレーバーは、いちごやチョコ、レモンなど6種類から選ぶことができます。また、パフェの大きさもさることながら、すべてのメニューがボリュームに対して良心的な価格なのも魅力です。

飛永さん:「30年ほどお店を続けてきましたが、これまで値上げをしたのは1回だけ。駅前では再開発が進んでいるけれど、それによって家賃や物価が上がると今の価格での営業も難しくなるかもしれません。すると、子どもや学生さんがこのパフェを注文できなくなってしまうかもしれない。それって本当に“住む人に優しい街”と言えるのかな、と疑問に感じますね。住む人のことを考えた再開発になればいいなと思います」

そうなのです。武蔵小山では再開発が進んでいて、完成の暁には駅前に大きなビルが建つ予定。そのため、移転を余儀なくされているお店が少なくないというのが現状です。先ほどご紹介した鳥勇の支店も、駅前から移転したお店のひとつ。

武蔵小山パルムを歩いていると、「暮らしが快適になるように」という想いが商店街全体を包んでいることがわかります。それは、日々のワンシーンを彩る方法を教えてくれるものだったり、手頃な価格でちょっとした贅沢が味わえるものだったり…。それぞれのお店が自分たちにできる方法で、お客さんと触れ合うことを楽しんでいるようにも見えます。

これまでも時代の移ろいとともに姿を変えてきた商店街だから、これからまた変化するのはやむを得ないことなのかもしれません。しかし、アーケードの下に宿る人々の温かさだけは、今後も変わらず残って欲しい。そう願うばかりです。

サカナバッカ武蔵小山(旧:丸魚専門店 おかしらや)

東京都品川区荏原3-5-13
TEL:03-6451-3997
営業時間:10:00〜19:00
定休日:なし
※夏期休業、年始休業を除く
https://sakanabacca.jp/shops/musashi-koyama/

(店舗画像提供:株式会社フーディソン)

鳥勇 本店

東京都品川区荏原3-5-11
TEL:03-3781-0096
営業時間:11:30〜19:30(年中無休)

王様とストロベリー

東京都品川区小山3-24-3
TEL:03-3787-0443
営業時間:9:00〜22:00(L.O.21:30、年中無休)
http://ousamato15.webcrow.jp/

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この特集について

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