【scene 07 ― 初夏の東京ピクニック】車窓から眺める東京のランドスケープ 「互助交通のロンドンタクシー」

でかけるにはいい季節、むずむずする毎日。東京で遊びはじめて早10年、いろんなところに行ってはみましたが、それでも知りつくしたとはいえないです。せっかくだから、普段、自分のまわりの人とは違う視点で、東京を知っている人に聞いてみました。

こんにちは。haletto編集部 百江です。たまに利用するタクシー。贅沢だなと思いつつ、楽しい飲み会の帰りや、残業の時はお世話になっています。運転手さんとふたりっきりの車内。なんとなく世間話をするのがいつもの癖です。

「いつもここらへんを流してらっしゃるんですか」
「この時期は忙しいですか」
「今日はこれであがりですか」

逆に話しすぎて、すこし面倒くさがられながらも、お話好きの方と出会うと、あっという間に目的地ということもしばしばです。日々たくさんの人や場所と接する運転手さんは、やっぱり知見が豊かです。そんな都内を駆け巡るタクシーの運転手さんたちに、おすすめの風景を教えてもらうことにしました。

錦糸町に本社をかまえる有限会社互助交通は、50年以上つづく老舗のタクシー会社です。「おもしろそうですね、いいですよ! おすすめスポットを回りましょう」と、専務取締役の中澤さんが引き受けてくださいました。

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小雨の平日朝。待ち合わせ場所に現れたのは、まさかのロンドンタクシーです。

あれ、いつもの「タクシー」と違う…。ホテルのポーターさんのようにびしっと決めた、そして、素敵な運転手さんがさっとドアを開けて乗せてくれました。

 

専務の中澤さん曰く、都内唯一のロンドンタクシーのこと。そして先ほどの紳士は、現時点ただ一人の専用ドライバー、大塚さんとのことです。互助交通、なかなかやります。

互助交通では、イギリスで走っているロンドンタクシーを取り寄せ、都内で営業車として展開しています。特別に呼ばれることもあるそうですが、日常的に街を流しているというのだから驚きです。そうこうしているうちにドライブが始まりました。

東京メトロ有楽町線の豊洲駅からこのタクシーに乗車し、電車ではなかなか行かない湾岸の方角へ車を向けました。窓の外は広い道路に、高いマンションが印象的です。普段山手線の左(西)サイドで遊ぶわたしには、また違う顔を見せてくれる「東京」の風景です。何もかもが整頓された街並みです。

2020年にむけた工事地を横目に走っていくと、だんだんと湾岸の景色が見えてきて、晴海ふ頭の晴海客船ターミナルに到着しました。

SF映画の最後のシーンにでもなりそうな、巨大なターミナルの足元に停車します。細い階段をのぼって、展望デッキへ。この日、実は天気には恵まれませんでしたが、眼前に広がる空と海の開放感は十二分です。

厚い雲も、これだけ広い視界で見ると不思議と圧迫感がありません。海の向こうには、レインボーブリッジ、豊洲ふ頭も見えます。岸壁には海上自衛隊の艦艇が停泊していて(練習艦「かしま」と護衛艦「はるさめ」でした)、普段見ることのない都市感がこの空間全体に漂っています。

考えてみれば、付近には駅がありません。そんな場所に来たこと、それ自体が久しぶり。数年後、数十年後に向けて変わっていく都市を目の当たりにして、「人が訪れるように」設計されている場所だけではなくて、こうして車だから来られた場所にも「東京」らしい風景があるのだと気が付きます。

大塚さん:「電車だと、なかなかこちらまでは来られないですよね」

運転してくださる大塚さんは、もともと役員車の運転をされていたベテランドライバー。
アテンドの一挙手一投足から、お話される時の言葉まで、とびきりの対応をしてくださいます。福岡出身ということで、おすすめのお店は、やはり九州ラーメンやちゃんぽんだったり。

大塚さん、若い頃は発売されたばかりの電卓の輸出業務や、野菜市場で働いていたこともあるそうで、まさに、人に歴史あり、です。車内では上京された時の思い出や大塚さんが見てきた東京の様子を教えてくれました。

続いて車は、月島方面へ。都心に向かうにつれて街はどんどん小さくなり、川にかかる橋を渡り小道を抜けていきます。東京なのにロンドンタクシーでびゅんびゅんと進んでいく東京めぐりは、それだけで特別な気分です。いつか歩いた道をあらためて車で走ると、周りのビルや歩く人の流れなど、広い視点で見えるのが実に面白い。

錦糸町にある互助交通の車庫に駐車し、お昼ごはんは大塚さんのおすすめ、24時間営業の純喫茶で定食ランチ。詳細は諸事情で掲載できないのですが、しょうが焼きとオムライスをたらふくいただきます。車に乗っているだけでもお腹は減るんですね。

腹ごしらえをすませ、少しかわったところがあるよ、と向かったのは青山です。青山霊園を右手に、西麻布方面にむけて進んでいくと、両脇にはたくさんのタクシー、タクシー、へイ! タクシー・・・。

東京都立青山公園と青山霊園の間には、運転手さんが休憩できるよう、駐車の特別許可が下りた道路があります。「青山公園調整待機所」と言うそうです。

駐停車禁止場所が多い都内では、とても貴重な場所。黒、黄色、オレンジと、色とりどりのタクシーが並ぶこの道も、歩きでは通りかかることの少ない場所です。青山霊園にはたくさんの木が植えられていて、一方通行の道を走り抜けると緑のトンネルのよう。

お昼休憩も入れると約5時間のタクシー旅。

ちょっと背伸びしたプチ旅ではあったけれども、東京の見え方がまったく変わりました。乗り換え案内を見ずに、地図を見るだけでいいなんて。タクシーでめぐる東京は、普段のおでかけよりも身軽です。速いスピードで車窓からみえる風景はスナップ写真のよう、ゆったりとした街歩きとはまた違った面白さに気付きました。

あちらへ、つぎはこちらへ、とタクシーを向ければ、街と街との連なりを感じます。タクシーなら。駅ごとに区切ることなく、道が続く限り自由に。少し窓を開けると、小雨のおかげか、霧のような涼しい風が車内に流れました。

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編集長

この特集について

初夏の東京ピクニック

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