あか、あお、きいろ、どこか懐かしい琥珀糖の味 ― 千葉県市川市「シャララ舎」

季節の変わり目に、子どもの頃の味覚が不意に蘇ることがあります。街中で帽子をかぶる人や日傘をさす人が増え、テレビの天気予報で「熱中症に注意」の言葉を耳にするようになる。夏がもうすぐそこまで来ていることを感じます。この季節になると思い出すのは、幼い頃に祖母がくれた小さな砂糖菓子です。

小学校の夏休み。祖母の家に遊びに行った時に「おやつに食べなさい」と出された氷のような、小石のようなゴツゴツとした半透明のお菓子。白や茶色に色づいていて、指でつまんで光にかざすと宝石のように輝いていました。一粒つまんで口に放り込み、外側の薄い砂糖コーティングをカリッと歯で柔らかく噛むと、ふんわりと柔らかいゼリーが舌の上でゆっくりと溶けていきました。

幼い頃の私は、その不思議な食感の甘いお菓子よりも、動物の形をしたビスケットやフルーツ味のグミの方が魅力的で、二口目を口にすることはありませんでした。でも小さな宝石のようなそのお菓子は、今でも忘れることなく「おばあちゃんのお菓子」として記憶の片隅に転がっています。

そしてふと、今になって、当時の記憶を辿りながらそのお菓子の名前を調べてみると、「琥珀糖」、「わり氷」や「干琥珀(ひこはく)」「錦玉(きんぎょく)」などという名前で呼ばれていることがわかりました。

寒天と砂糖で作って乾燥させたもの、という以外にこれといって決まった定義はないらしく、お店によって呼び方は様々。

和菓子屋さんで見かけることがあっても、詰め合わせの箱の隅っこに彩を添えるためにちょこんと詰められていることが多く、主役の和菓子の引き立て役のような存在が健気でより一層愛着を感じます。

千葉県市川市にこの和菓子の専門店があることを知り、出かけてみることにしました。

都営新宿線「本八幡駅」で降り、A6番出口から地上に出ます。京成線の踏切を渡り、「商美会ロード」をまっすぐ北に進みます。車通りも少なく、静かで穏やか。時折、すれ違う下校途中の小学生グループの賑やかな声を聞きながら、5分ほど歩くとクリーニング屋さんの隣に、白とミントグリーンの外観のお店が現れました。

看板には「Sha la la sha」と書かれています。涼やかな響きの店名と、まるで絵本から出てきたような可愛らしい店構えに誘われるように中に入ります。「いらっしゃいませ」と笑顔で迎えてくれたのがこのお店を営む尾高みつえさん。

入り口付近の棚には懐かしいあのお菓子が並んでいて、静かに私を出迎えてくれました。「シャララ舎」ではこのお菓子を琥珀糖と呼び、季節ごとに味や形を変えながら約30種類を販売しています。

カフェスペースにある窓際のソファに腰を下ろして、琥珀糖を使ったドリンクを注文しました。運ばれてきたのは透明なグラスの底に水色と黄色の琥珀糖が敷き詰められた美しいソーダ水。

そこに一匹の赤い金魚型の琥珀糖が気持ちよさそうに泳いでいます。ストローで一口飲むとしゅわしゅわと心地よいソーダ水の泡とともに、琥珀糖のほのかな甘みを感じます。

別皿で添えられていた、色とりどりの琥珀糖を食べてみると懐かしいあの味が口の中に広がりました。シャリシャリという外側の砂糖の食感と素朴な甘み、中のしっとりとしたゼリーの柔らかさ、舌先にほんのりと残るフルーツ味。二十数年ぶりの再会に、祖母の思い出も蘇ります。

尾高さんがこの場所に琥珀糖専門店をオープンさせたのは2013年の夏。琥珀糖に興味を持ったのも幼少の頃の記憶がきっかけだったと言います。「タイトルは忘れちゃったんですけどね」とある絵本に登場した、夜の森に光る色とりどりの「キラキラの実」の話をしてくれました。

大人になって琥珀糖と出会った時、何度も読んだお気に入りの絵本に登場していた光る木の実と琥珀糖が重なって見えたそうです。その後、その「キラキラの実」を琥珀糖で再現させるため、独学で琥珀糖の作り方を研究。型から手作りして、果実ピューレやリキュールなどで色を作り、キラキラ輝く魔法のような琥珀糖を作ります。

「琥珀糖を作り始めてから素敵な出会いが増えました」と話す尾高さん。琥珀糖がきっかけとなり、作家さんやデザイナーさんとの繋がりが生まれ、シャララ舎とのコラボ商品や、シャララ舎を舞台にした小説が出版されたりもしたそうです。

私が訪れた日は、店内のカフェスペースの一角で鉱物を用いたジオラマ作家「時計荘」の展示をしていました。アンティーク調の木の棚に小さな瓶の中には、琥珀糖のような鉱物が入っています。

ジオラマのそばに置かれたペン型ライトを瓶に当ててみると、まるで魔法のように中の石が紫色に光り出しました。ブラックライトに反応する「蛍石」という鉱物だそうです。

他の棚や壁のあちこちに、絵画や便箋やサンキャッチャーなどのアーティストの作品がディスプレイされています。小さな店内に様々な種類の作品が並べられているのに、雑多な感じがしないのは、どれもこれも琥珀糖のイメージに合った作品だからなのでしょう。

気がつくとレトロな振り子時計が18時、もうすぐ閉店です。思いがけずのんびりしてしまいました。お店に流れる雰囲気がゆったりとしているからか、キラキラの実の効力なのか、うっかり時間を忘れてしまいます。

尾高さんにお礼を言ってお店を後にした私の手には、帰り際に購入した3色の琥珀糖。こんな素朴なお菓子を魅力的に感じるのは、きっと懐かしい記憶と思い出があるからだと思います。大人になった今だからこそ楽しめるちょっと甘い味です。ほっこりとした暖かい気持ちで歩く、夕暮れの帰り途なのでした。

琥珀糖専門店「シャララ舎」

千葉県市川市菅野1-14-9

TEL 047-713-3112

営業時間・定休日 11:00-18:00(水・金曜日は21:00まで)・月曜日

http://shalalasha.web.fc2.com/

 

編集・ライター

茨城県生まれ。旅行、スイーツ、下町大好き。きっちり計画立てるより、無計画でのサバイバル感に惹かれます。日焼けしやすく戻りにくい。最近始めたランニングによるくつ下焼けがほんのり自慢。

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