【scene 08 — 初夏の東京ピクニック】昼のピクニックのあとの夜のピクニック 西麻布bar「pique-nique」

20代も半ば、酒好きの会社の先輩に連れられて行った新橋のbarが私の初めてのbar体験でした。それまでは賑やかな居酒屋でワイワイ騒いでいたのに、一変して落ち着いた大人の空間。慣れない雰囲気に緊張しつつもちょっと背伸びできたような、大人の仲間入りをしたような嬉しい気分になったのを覚えています。

5月の「初夏のピクニック特集」に向けてのネタ探しの最中に、西麻布に「pique-nique」という名前のbarがあることを知りました。編集部のメンバーで遊びに行ってみると、気さくなオーナー・松井一豊さんが「せっかくの企画だったら」と、halettoオリジナルのカクテルを新メニューとして作ってもらうことになりました。味と見た目のイメージを固めてまた来てね、と松井さんから宿題をもらい、halettoらしいカクテルって何色だろう、と頭をフル回転。

再訪したのは週末の昼間。barまでは広尾駅から歩いて5分程度。道すがらすれ違う外国人ファミリーや落ち着いた西麻布マダムたちに、おしゃれで大人の街だなと、ドキドキしてしまいます。

エレベーターを降りると、ひっそりと訪れる人を待つ隠れ家のような雰囲気です。ドアを開けると木のカウンターテーブルと、たくさんのお酒の瓶が並んだ棚が目に入りました。お、来たね、と奥から松井さんがにこやかに顔を出します。

「喉渇いてるでしょ、まずはこれをどうぞ」と出されたハイボール。この日訪問した3人は全員がお酒好き。それを知ってか知らずか…とにかく大喜びでいただきました。

松井さん:「barってだいたい居酒屋の後の2軒目で、ほろ酔い状態で行くものでしょ。だから新作カクテルの試飲の前に舌と味覚をお酒で慣らしておいて」

なるほど、ごもっともです。さすがはバーテンダー歴23年のお酒のプロフェッショナル。ハイボールで喉を潤しながらカクテルに使うリキュールの種類やその語源についての説明に耳を傾けます。

松井さん:「まずはhalettoカクテルの色のイメージを教えてほしい」

haletto:「晴れの日の青空のようなブルー」

松井さん:「味のイメージは?」

haletto:「甘すぎず、苦味と酸味があるさっぱりとした味」

私たちがイメージするのは、カシスオレンジやカルーアミルクなどの飲みやすい甘いカクテルではなく、そこから一皮向けた「大人のカクテル」。haletto世代のアラウンドサーティーは仕事もプライベートも「苦味」を知っている年頃。そんな私たち世代を癒す一杯を作りたい。

松井さん:「青空の色にしたいなら、ヒプノテックがいいかな」

まさに描いていたかのようなスッキリと明るいブルーの液体。ヒプノテックは、酸味が強めのフランス生まれのパッションフルーツのリキュール。一目見て、これぞhaletto blue! と確信の持てる空色です。

松井さん:「ベースはウォッカにして、アブソルート・シトロンを使って苦味を出そうか」

アブソルート・シトロンはさっぱりとした苦味を持つスウェーデンのレモン風味のウォッカ。これにグレープフルーツジュースを入れると酸味と甘みが増して飲みやすくなるよ、とそれらをシェイカーに入れて試作第一号が完成。

ショートグラスにとろりと注がれたのはエメラルドグリーンのお酒。どうやらグレープフルーツジュースを入れたことで青から緑に色が変わってしまったようです。これはこれできれいだし、飲んでみると酸味と甘みのバランスが良く、飲みやすくて美味しい…でももう少し個性を出したい。

haletto:「もう少し甘みを抑えて大人の味にしたいなぁ」

そんな私たちの反応を見ながら、どんな風に味を調整していくか考える松井さん。

松井さんが、「ところでロングとショート、どっちにしたい?」唐突に聞かれました。ロングカクテルは背の高いグラスに氷と一緒に注がれるのに対し、ショートカクテルは氷が入っていれずに作るためアルコール度数は高め。悩む私たちに「じゃ、作ってみよう」とロングカクテルを作って出してくれました。

こちらにはグレープフルーツジュースの代わりに最後にジンジャエールを加えます。すると夕暮れの空のようなオレンジ色のグラデーションに。これも美しい…思わずうっとりと眺めてしまいます。いやいや、今回は「晴れの日のカクテル」。青空ブルーにはこだわりたいと思い直します。ほんの少し別の液体を入れるだけで、カクテルの色は敏感に変化していきます。理想の色を作るって難しい、と痛感。

少し個性を出したい、という私たちの言葉に「ショウガかミント、どっちがいいかな」と提案する松井さん。アクセントにスパイシーなすりおろしたショウガか、清涼感のあるミントを入れてみようという試みです。ここは全員一致で「ショウガ」をチョイス。ミントはモヒートなど他のカクテルで使われているのをよくみるけれど、ショウガ入りのカクテルは見たことない。どんな見た目、香り、味になるのか期待が高まります。

試作品第3号はすりおろしたショウガ入りショートカクテル。青色を邪魔しないよう、レモンジュースを加えて酸味をプラスします。グラスに注がれるとショウガの粒がゆらりゆらりとカクテルの中を舞い、まるで青色の空にキラキラと揺れる白い光の粒のよう。ショウガの香りが鼻を抜け、ピリリとした辛みがレモンジュースの酸味とベストマッチ。甘すぎず苦すぎない、大人の味。

味の方向性も色味も固まってきました。いよいよ最終調整。試作第3号はアルコールが強めだったので、ウォッカを少し抑えめにして、色を鮮やかに出すためブルーキュラソーを最後に垂らしこみます。青空の下には芝生の緑があってもいいよね、とピックに刺したミントチェリーを飾って…ついに完成!青空色のhalettoカクテル。「美味しい、きれい、素敵」と大興奮する私たちを見て、松井さんも満足げ。

気づけばすっかり日も落ちていました。間も無くお店のオープン時間。長時間付き合ってくれた松井さんにお礼を言って帰り支度を始めます。最近では30代女性のお客さんが一人で入ってくることも多いそうです。

松井さん:「最初は敷居が高く感じるかもしれないけれど、恥ずかしがらずに注文してください。一人のお客さんも大歓迎ですよ」

甘めが好み、炭酸が苦手、フルーティーなものがいい! など気分や好みを伝えてくれれば、200種類のお酒の中から好みに合ったカクテルをつくってくれるとのことです。

「口下手だからあんまりトークは上手くないんだけどね」とはにかむ松井さんでしたが、だからこその程よい距離感が心地よく感じました。

今回作った新しいカクテルの名前は「haletto」。実際にpique-niqueで注文できるカクテルです。ショウガのインパクトが新鮮な、大人の女性好みのカクテル。ぜひお店で味わって見てください。どこかに出かけたくなるような、明日も頑張ろうと思えるような、ハッピーな気分にしてくれるはずです。

- マスターのカクテル秘話「haletto – pique-nique」 -

今日は彼とピクニック。麻衣さんは、残業帰りにスーパーで買い物をし、夜遅くまでキッチンでお料理と格闘し、とても綺麗なお弁当を用意しました。

豆ごはんのおにぎり、定番の卵焼きとハンバーグ、初夏の陽気にぴったりな夏野菜のラタトゥイユ、それになぜか頭のついた大きな海老まで入っています。

「ちょっとおせち料理みたいだけど、豪華さも大切よね」と麻衣さんは満足気です。
待ち合わせが六本木に11時なので、お家を10時30分には出なくてはいけません。いつも遅刻が多い麻衣さんですが、今日は10時にはおめかしも完成。

「お天気も最高だし、ちょっと早目に出て、ぶらぶらお散歩でもしてようかな」と余裕です。
と、そのとき、彼からLINEが入りました。
「ごめん、急に現場に行かなきゃだめみたい」「また連絡します」
「はーい、お仕事がんばって、無理しなくていいからね」

麻衣さんの彼はシステムエンジニアで、一応土日はお休みなのですが、たまに現場のトラブルで呼び出されます。これまでもデートの途中でいなくなったことが何度かありました。
「またかぁ。仕方ないけど、とりあえず待つしかないかぁ」
ソファにドサッと座り込んで、大きくため息をつきます。
「でも、こんなお天気なのに、もったいないよね。」

結局、お弁当とビール、レジャーシートを持って、公園に到着しました。
芝生の広場は、家族連れやカップル、女子会の女の子たちで賑わっています。噴水では子供たちが裸になって大騒ぎ。

麻衣さんもシートを広げ、靴を脱いで、一人で乾杯です。
「こんなに美味しいお弁当なのになぁ」とブツブツ呟いていると、ボールがコロコロと転がってきました。

「すみません」すぐお隣に座っていたご家族です。子供はまだよちよち歩きで、旦那さんと遊んでいたところ。奥さんがとても美人で麻衣さんもドギマギしながら、
「大丈夫ですよ、可愛いですね」
「スゴイ!綺麗なお弁当。お一人?」
「いやぁ実は、彼にドタキャンされまして、ははは」

お酒のせいか、すっかり奥さんと話し込んでしまい、色々愚痴も聞いてもらいました。

「でもね、晴れの日は今日だけじゃないから。東京って年に220日も晴れるのよ」

彼の仕事は、夕方までかかり、夜はいつものbarで待ち合わせです。

西麻布の端っこ、ビルの4階、二人のお気に入りのお店です。
名前も「pique-nique」。

「晴れた日にピッタリのカクテルってありますか?」

麻衣さんはマスターに注文します。しばらくするとお昼の青空みたいな色のカクテルがショートグラスに入って出てきました。
「halettoっていうカクテルです。さっぱりしてますがしっかり甘みも苦みもありますよ」
「苦いのはいらないんだけどね。マスター、ちょっとだけお弁当広げていい?」
「どうぞ」
「次の晴れの日のために、乾杯!」

今宵も、二人のピクニックが始まりました。

haletto

pique-nique

東京都港区西麻布4-5-8 La西麻布4F

TEL 03-3486-7379

営業時間 19:00~翌5:00

定休日 日曜・祝日

http://pique-nique.co.jp/

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この特集について

初夏の東京ピクニック

木々には緑が芽生え、時折吹くまだ冷たい風の中、あたたかい日差しが温もりを運んでくれます。清々しい、心地よい季節が始まりました。 梅雨の前、束の間の贅沢。のどかな昼下がり、ふわふわした気分。若い緑の草っ原にごろんと寝ころぶ。ビールを飲んで...

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