【scene 03 ― 初夏の東京ピクニック】ぜんぶ私の空、ビールと文庫を片手に街から解放されてみる 「東京競馬場」

5月になると初夏の日差しと暖かな陽気が心地よく感じ、外に出かけたいと思う日が増えてきます。公園や河川敷でピクニックもいいけれどお弁当を作る気合いが入らない、だらっと怠惰でいたい日もあります。そんな日は競馬場がおすすめ!と、知人から聞いて、週末に府中市にある東京競馬場へ出かけてみることにしました。

新宿駅から京王線に乗り換えて府中方面に向かいます。新宿から離れるほどに高いビルが遠のいて、のどかな風景が楽しめます。車窓から見える果樹園はぶどうかな、梨かな、なんて夏を通り越して秋の味覚に思いを馳せつつのんびりと電車に揺られること40分。東京競馬場の正門に直結している「府中競馬正門前駅」に到着しました。

競馬場に足を踏み入れるのは初めて。赤ペン片手に競馬新聞とにらめっこしているおじさんたちが集う場所、というちょっと怖い場所だと思っていました。電車を降りると、意外にも同い年くらいの女性グループやベビーカーを押したファミリー、大学生くらいの若いカップルの姿がたくさん。

そして、駅のホームがとても広いことにも驚きました。電車から降りた人が横10列に並んで歩いていても、全く肩がぶつかることがありません。一日に5万人、大きなレースの時は10万人もの人が来場するというだけあって、駅の造りも広々としています。

200円の入場料金を払って正門をくぐり、まっすぐ進むと正面にあるのが6階建てのフジビュースタンド。この建物は馬券の販売、払い戻し所や、レストラン、カフェが集まります。正門からフジビュースタンドまでの敷地には無料で馬車体験ができるケヤキ並木や、ローズガーデンなどがたくさんあり、到着して5分で早くも競馬場にきていることを忘れてしまいます。まるで大きな公園のよう。

正門を入って右手にはレース前の競走馬を間近で見られるパドックがあります。ちょうど競走馬がジョッキーと一緒に入っているところだったので、しばらく見てみることに。コース内側の芝生をショートカットして歩いてしまう馬や、首を上下に振りながら勇ましく進む馬、楽しそうに軽快に歩く馬などさまざまで、そんな様子から、馬の状態や疲れ具合などを見極めようと真剣な眼差しで見つめるお客さんがパドックの周囲をぐるりと囲んでいます。日光に照らされるツヤツヤとした前髪やしなやかな足を見て、「きれいな毛艶だな」「立派な筋肉だな」と競走馬の美しさに惚れ惚れします。

パドックを一通り見学した後、フジビュースタンドの中をぶらりと歩いてみました。建物はきれいでオシャレ。各所にレストランやカフェがあります。馬券売り場のフロアを除けば、週末にもかかわらず混雑した印象がありません。

5階に上がるとパステルグリーンとピンクのデコレーションがかわいい「UMAJO SPOT」が目にとまりました。ここはコーヒーが一杯無料で飲める女性専用の休憩スペース。おしゃれなスイーツや馬モチーフのアクセサリーが販売されています。若い女性が一人でコーヒー片手に競馬新聞を眺めている姿を見かけました。これが馬にときめく馬女(ウマジョ)でしょうか。

ここで働く馬場貴絵さんもいわゆる「馬女」の一人。大学生の時に先輩に連れられて競馬場デビューしたそうです。当時はまだ競馬場に女性がいるというだけで注目を集めてしまったと言いますが、最近では女性のお客さんが増え、その需要に合わせて、女性のためのサービスやスポットを企画しているそう。

馬だけだけでなくジョッキーにファンがつくこともあるようで、イケメンジョッキーを応援しに足を運ぶ女性ファンも多いそうです。かっこいい、かわいい、と馬やジョッキーに愛着を感じることが馬女への第一歩、と馬場さんは言います。

馬場さん:「一見同じように見える馬も人間と同じように個性があるんです、じっと見つめて、お気に入りの馬を探してください」

馬場さんの話を聞きながら、先ほど見学したパドックでジョッキーに注目しなかった自分に激しく後悔しました。次回パドックで見る機会があれば、馬だけでなくジョッキーにも注目しなければ、と心に固く決めたのでした。

建物の中を通り抜けると、青空と緑の芝生のコントラストが眩しい2,083メートルの周回コースが視界いっぱいに広がります。そしてスタンドは、思わず「うわっ」と声を上げてしまいました。広い、広すぎる。20,000席近い階段状のスタンド席は予想以上の大迫力。指定席に着席している人以外にもフェンス越しに立ち見で観戦する人も多く、この場所だけ気温が2、3度高いんじゃないかと思うほどの熱気が渦巻いています。

この場所に立って熱気に包まれているだけで喉が渇いてきてしまいます。ああ、早くビールが飲みたいと、スタンド脇にある地下道を通ってトラックの内側、今回の目的地である馬場内にある芝生広場へ移動します。

ひんやりとした地下道に描かれた馬のイラストを見ながら出口を出ると、スタンド側とは打って変わってのんびりゆったりとした雰囲気。子供連れの家族がレジャーシートを敷いてピクニックを楽しんでいます。子供たちが遊ぶ遊具の隣には50以上の屋台が連なり、馬場内はまるでフードフェスです。

キンキンに冷えたビールはもちろん、焼きそば、お好み焼きなどの定番の屋台飯から、揚げたての唐揚げ、フライドポテト、串焼きなどのビールに合うおつまみ系屋台も充実しています。

もちろん馬場内からでもフェンス越しに観戦することもでき、屋台エリアには大型モニターが設置されているので、映像を見ながらビールや屋台飯を食べる人も大勢いました。何を食べよう、ひとまずビールを買ってから…と興奮気味にお店を吟味していると、突然あちこちから上がる「来い、来い!」という野太い声援と大歓声、拍手を聞いて、「ああ、ここは競馬場だったっけ」と思い出させます。

ビールと揚げたてのフライドポテトを買い、レースが見られる場所まで移動します。シーズン中は各月ペースで芝生の手入れをしている競馬場だからこその、ふかふかで青々とした上質の芝生に腰を降ろします。熱気あふれるスタンドを遠目に見ながら、冷えたビールを一口。芝生の感触と初夏の太陽の日差しに心がほぐされ開放的な気分になっていきます。飲み慣れたビールも芝生の上で昼に飲む、というだけでいつにも増して黄金色に輝いている気がするし、喉越しも美味しく感じてしまうから不思議です。

レースが始まるたびに空高く響き渡るファンファーレとスタンド席から沸き起こる大歓声、そして馬が駆ける足音を聞きながら、ふと芝生広場の草むらで遊んでいる幼い姉妹を見ると、シロツメクサの花冠を作って遊んでいます。なんともメルヘンな雰囲気です。スタンド側と馬場内とでは流れる空気も熱も雰囲気さえも違い、現実と非現実の境目にいるような気分。地下道を挟んで全く異色の別世界が広がっていました。

ドドッドドッと砂地のダートコースを走る競走馬たちの勇壮な足音を聞きながら、読みかけの本のページを開いたり、ビールを飲んだり、気ままに時間を過ごしているうちに陽が傾いてきました。私ひとりでぼんやりしていても、周りの意識はレースに向いているので、気兼ねなく過ごせて気持ちが良いです。

河川敷でも公園でもない。最高のピクニックでした。次は友達を誘って来ようか。それともこの贅沢はなるだけ、人には教えたくない気もして…。実は、競馬場に来たからには、と気まぐれで買ってみた馬券が当たったことも、再訪への意欲が高まった要因になったということは余談です。

東京競馬場

東京都府中市日吉町1-1

TEL 042-363-3141

営業時間 (レース開催日)9:00~17:00、(平日)10:00~12:00、13:00~16:00(除:月曜・火曜日・祝日・年末年始・その他 臨時の休務日有り)

※東京競馬場でのレースは、2017年6月25日(日)まで毎週土日に開催。5月28日(日)は日本ダービーを開催。

入場料/200円

※15歳未満無料

※平日、場外発売日は無料

http://www.jra.go.jp/facilities/race/tokyo/

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この特集について

初夏の東京ピクニック

木々には緑が芽生え、時折吹くまだ冷たい風の中、あたたかい日差しが温もりを運んでくれます。清々しい、心地よい季節が始まりました。 梅雨の前、束の間の贅沢。のどかな昼下がり、ふわふわした気分。若い緑の草っ原にごろんと寝ころぶ。ビールを飲んで...

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