Mucchi’s Caféの【おとなの絵本教室】Vol.2
2017.06.06
今回ご紹介したい絵本は、ずばり「絵本の進化形」です。大人が絵本と出会うとき、小さい頃から知っていて「あ~、この絵本懐かしい」と手に取るだけにとどまらないということです。
その一つが「怪談えほんシリーズ」とよばれるもの。その名のとおり、怪談ばなしを絵本にしたもの。昔から伝わる怪談ばなしではなく、現代の怪談ばなしを絵本にしたもの。もちろん、絵本ですからお子さんが読んでもよいものです。しかし、大人が読んでも結構こわい… それが「怪談えほん」です。
岩崎書店から大人気で、シリーズ2まで出ています。その人気の秘密が、有名小説家と、話題の絵本作家とのコラボレーション。このシリーズの中で私が好きな絵本が「いるの いないの」という作品です。
私が子どもの頃にこの絵本に出会っていたら、間違いなくトラウマになったであろう絵本でしょう。
「いるの いないの」より抜粋
主人公は、おばあさんの古い家でしばらく暮らすことになった男の子。家の天井の暗がりが気になって仕方がない… 「何か」がいるのか、いないのか…その結末はご自身の目でお楽しみいただくとしまして…
どうしてこんなにもこの絵本に魅力を感じたのか、まず文章を書いた京極夏彦さんの小説を読み返してみました。「怪談小説家」としての京極さんの本はとにかく分厚い。その厚さを感じさせないくらい、ストーリーの展開が気になる構成です。小説では文章によってその情景がこと細かく表現されており、文章を通してその場面がおどろおどろしくも目に浮かんでくるのです。
その京極さんが絵本という限られた枠の中で「何か感じるおそろしさ」を表現するとき、きっと苦労されたのでは、と思いました。でも、あらためて町田尚子さんの絵を見たとき、この絵本のひみつがわかったような気がしました。
町田さんは、とても繊細な絵のタッチで、画面の暗がりには描かれていないけれど、そこに「何かいる」のを読み手が感じるような表現をされています。いつか遊びに行った、田舎のおばあちゃんの家を思い出させるような、感覚。京極さんが、文章で表現しなくても、町田さんの絵がそれを具現化している。そう感じたのです。
絵本を読むことで、分厚い小説を読むことが難しい子どもも、京極夏彦ワールドに入ることができるのだと思います。かくいう私もこの絵本がきっかけで、京極さんの怪談小説を読むこととなったのです。
京極夏彦さんの小説が大好きで、「京極さん、絵本を出しているの!?」と絵本カフェにいらっしゃるお客さまも驚かれます。ほかにも、絵本を読んでから「きゃ~コレこわ~い!!誰が書いているの?京極夏彦?京極夏彦ってあの小説家の?だから怖いんだ…」と納得されている方も多くいます。
この絵本に出会うきっかけは違えど、大人向けにつくられたであろう「いるの いないの」ですが、たかが絵本、されど絵本です。皆さんも子どもだましだと思って読んでみると、驚きますよ…
この怪談えほん「いるの いないの」はMucchi’s Cafe’の店内の奥、通称「ホラーコーナー」に置いてあります。ちょっとした仕切りになっていている一角で、小さなお子さまがお店にいらっしゃった時でも、すぐに目に留まらぬよう、少し配慮した配置をしています。
そんなホラーコーナーで、絵本による「恐怖体験」をしてみてはいかがでしょうか。
いるの いないの
作:京極夏彦
絵:町田尚子
編:東雅夫
出版:岩崎書店
このコラムについて
絵本にはいろいろな魅力があります。よく考えてみると怖い話から、ほんとに人生に役立つ良い話まで。忘れた気持ちを思い出さしてくれる、おとなのための絵本を紹介します。
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