織り込んだ想いは日本から海外へ ― 前掛け専門店「縁+ing=エニシング」

小金井と赤坂にオフィスを構える、世界で唯一の前掛け専門店「エニシング」。オーダーを受けると、愛知県豊橋市の織物工場で一枚ずつ前掛けを織っています。「気持ちが伝わる贈り物」を探して辿り着いたオリジナルの前掛けには、長きにわたって受け継がれてきた伝統と、それを現代に甦らせた人々の熱意、そして、不思議とつながってゆくご縁がありました。

突然ですが、大人になるほどに「贈り物」をするのって難しくなりませんか? 友達の誕生日プレゼントや、結婚・出産祝い、門出のお祝いなど、贈る機会は増える一方で、どれもなんだかピンとこない。定番のものは誰かがプレゼントするだろうし、本人が欲しいものはきっと自分で買うだろうし…。

気持ちが伝わって、オリジナリティがあって、さらにちょっぴり驚いてもらえるものってなんだろう。そんなことを考えながらプレゼントについて調べていたら、質が良くて印字もできる「オリジナルの前掛け」に辿り着きました。

オリジナルの前掛けが作れる「エニシング」は、小金井では個人オーダー、赤坂では法人向けのオーダーを受け、前掛けの産地である愛知県豊橋市の工場で織るというのが製造の流れです。今回は赤坂のオフィスにお邪魔して、社長の西村和弘さんにお話を伺いました。

赤坂のオフィス街を抜けた先、豊川稲荷の近くにエニシングはあります。扉を開けると、壁には「縁ING」のロゴ入り前掛けが飾ってありました。もちろん前掛けの存在は知ってはいたものの、近くで見るのはこの日が初めて。実際に販売している前掛けを見せてくださいました。

しっかりした厚手の生地なので、固くてザラザラしているのかと思いきや、簡単に畳んだり折り曲げたりすることができます。触り心地も滑らかで気持ちいい。

西村さん:「骨盤のところでぎゅっと巻きつけて、前で結ぶんです」

教えていただいた通りに着用してみると、腰が固定されて安定感ばっちりです。
エニシングで販売している前掛けは、日本伝統の仕事着である「帆前掛け」と呼ばれるもの。

西村さん:「前掛けを着用するのは、酒屋さんや八百屋さんなど重いものを持つ方ばかり。前掛けを巻くと下半身が固定されるから、腰を痛めずに済むんですよ」

さらには、重いものを肩で担ぐ際に服が破けてしまわないよう当て布として使われたり、染め抜かれた店名は宣伝効果を発揮したりもします。こうした利便性の高さから、1950から70年にかけて爆発的な人気を誇ったといいます。

私だったらどんな前掛けにするだろうと思案していると、西村さんがホームページのシミュレーション画面でお手本を見せてくださいました。入れる文字やフォントを選ぶだけで、あっという間に前掛けのデザインが完成! 長さは定番のものと、それより15センチメートルほど短いものなど全部で4種類。色は6色から選ぶことができ、オプションでポケットをつけることも可能。こうして自分の名前が入ったデザインを見てみると、ますます欲しくなってきてしまいます。

エニシングは、元々、前掛けではなく漢字Tシャツの企画販売を手掛ける会社でした。ある時、漢字Tシャツに使う型を転用して前掛けを作ったところ問い合わせが来るようになり、少しずつ前掛けの販売するようになったのが始まりです。

西村さん:「前掛けの販売を始めてしばらくした時に100枚以上の注文を受けたことがあったのですが、それまでお願いしていた問屋には50枚しか在庫がなくて。当時、前掛けの流通は複雑化していて、問屋や代理店、縫製工場など何社も介していたんです。そこで独自の仕入れルートを探したところ、豊橋の織物工場に辿り着きました」

ところがそこにあったのは、かつてのものとは違い、生地が薄くて安価な前掛けでした。これらを大量生産することで売上を確保していた工場に、西村さんは足繁く通い「高くていいので、良いものを作りたいです」と何度も伝えます。そして工場との出会いから5年後、前掛けの原点である厚くてしっかりした生地の「一号前掛け」が復活しました。

エニシングの前掛けの価格は5,000円代から。決して安い金額とは言えません。しかし、その確かな品質がファンを呼び続け、ついにはニューヨークやロンドンでの展示会を開催するに至ります。このことは、西村さんたちはもちろん、高齢化により工場を閉めるつもりだった職人さんにとっても新しい扉を開くきっかけになったよう。そして、日本伝統の前掛けを次の代につないでいかなくては、という意識が高まり、2013年にはエニシングから豊橋の工場へ研修生を送ることが決まりました。

この日は、豊橋の工場で修行を積んだ福田和真さんもいらっしゃいました。

福田さん:「最初は糸を結ぶことから始めました。結び目が大きくなると織ったときに表面が凸凹してしまうので、小さく結ぶための専用のやり方があるんです」

目の前にあった糸を結んで見せてくださいました。何度も練習を繰り返したその手つきからは、師匠である職人さんとの間に築いた信頼関係が垣間見えます。

エニシングで前掛けをオーダーするのは、個人商店など商売を営んでいる方のほか、結婚祝いに贈る方や、仲間内でお揃いの前掛けを作る方などさまざま。高田馬場にあるこだわりの地ビールと串揚げの店「ベアード・タップルーム 高田馬場」の松宮さんも愛用者の一人です。「洗濯機にかけるだけで良いので手入れが簡単だし、立ったりしゃがんだりするのも楽ですね」とお似合いの前掛け姿で教えてくださいました。

松宮さんとエニシング出会いは、松宮さんのお店が10周年を迎えた際に、お客様が前掛けを作ってプレゼントしてくれたことだそう。当時の前掛けを見せていただくと、使い込まれて生地の風合いが増し、左下には以前の「エニシング」のロゴが。西村さんも懐かしそうに目を細めます。前掛けはスタッフからスタッフへと引き継ぎ、代々大切に使っているそうです。

前掛けを脚本に、なんだか壮大な映画を観ているような気分になってきます。

西村さん:「でも、これまでの道のりは、こうしようと思ってやってきたわけではなく、すべて前掛けに導かれたようなもの。僕らは前掛けのことを『前掛けさん』と呼んでいるんです。前掛けさんから『これからの前掛けの歴史をお前たちに任せたから』と言われているような気がしているので、ちゃんとやらなきゃ、と。使命感を感じますね」

「人と人の縁(えにし)が続くような仕事がしたい」という社名の由来の通り、縁をつなぎ、さらなる展望をも期待させるエニシングの「前掛けさん」。次はどんな物語が待っているのでしょうか。

エニシング

(本社)東京都小金井市本町6-13-17 タカギビル401
TEL 042-401-6982
営業時間・定休 9:00-18:00/土・日・祝 ※その他臨時休業あり
※来店オーダーは前日までの予約制
※本社では商品の販売はしていません。
http://www.anything.ne.jp/index.html

ライター

静岡県生まれ。好きなものは、映画、登山、温泉、アーユルヴェーダ。地図が読めないため、町歩きはもっぱら勘がたより。旅行系の冊子やWEBをメインに執筆しています。

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