【scene 03-旅する東京ライフ】東京で本場のインドに♪ナマステ〜 リトルインド・西葛西

朝は石神井公園でサンドイッチを食べて、すっかり消化された頃、次に向かったのは、東京メトロ東西線の西葛西です。どうして私は、わざわざ都内を横断するようなルートを選んだのでしょう? それは、この町が東京なのにちょっとした外国気分が味わえる特別な場所だからなのです。

西葛西駅の周辺は、ぱっと見た感じは普通の町。コンビニがあり、チェーンの飲食店があり、バスがゆったりと走り、買い物袋を提げたおばちゃんが自転車で横を通り過ぎていきます。ここまではよく見る風景。でも、じっくり観察してみると、その中に彫りの深い顔立ちと褐色の肌をした人たちが紛れています――インド人です。西葛西は、実はリトルインドなのです。

今回西葛西に来た最大の目的は、本場のカレーを食べて、海外旅行気分に浸ること! 都内にいながら、飛行機にも乗らず、異国情緒たっぷりの料理が味わえるなんて、贅沢なひと時だと思います。

どうして西葛西にインド人が多く住んでいるのかはいまはわからないけれど、とりあえず私の最大の関心事は…お昼ごはん! インド人住民が多いなら、本場のカレーが食べられるスポットがあるはず。カリーナのボリューム満点サンドイッチをいとも簡単に消化した私の胃袋が異国の料理を求め始めたので、食欲の赴くまま駅周辺を歩いてみることにしました。

とはいえ、駅周辺はインド人街が本当にあるのかと思うほど、いたって普通の日本の町。インドらしさを感じる要素はほとんどなく、探すのは時間がかかるかな……もうその辺の定食屋でいいかな……と諦めかけたその時。目に入ったのは、道端で黒板にインド風のイラストを描く男性。その看板には「南インド食べ放題」の文字が! そして彼の後ろには褐色の肌にブルーの服が映えるインド人男性の姿が!

「ランチやってるよ。さあ入って入って!」

看板を描いていた男性は私に気付くと、すぐさま地下へと続く階段を指しました。この人は雰囲気からして、多分日本人。後ろにいたインド人男性も「どうぞ」と言わんばかりに笑顔で店の中へ招き入れてくれました。インドが突然、私の目の前に現れたのです。

導かれるまま階段を下り、地下のレストランへ。店内に入ると、まず圧倒的なスパイスの香りに嗅覚を支配されます。店内を飛び交う英語と南インドのタミル語や、アジアの寺院を思わせる神秘的な装飾、店中に響き渡るインドの音楽も相まって、異国ムードがぐっと高まります。日本の居酒屋でよく見かけるお酒のポスターの存在が、辛うじて「ここは日本だ、一応」と主張しているかのようでした。

看板を描いていた男性が息つく間もなく店の案内をし始めました。この店は南インド料理店「アムダスラビー」。近隣にあるインド雑貨屋の姉妹店で、3年前に開店したそう。南インド、シンガポールなど様々な場所で経験を積んできた料理長・ディナガラヤさんをはじめ、2番シェフ・ムゲシュさん、ホール担当・グヤンデヴさんなど、開店当初から変わらないメンバーで店を営んでいます。

 

メニューは種類豊富ですが、中でも人気は毎週土日のランチタイム限定で食べられる「ティルネルヴェリ・バンケット・スペシャル」。オーダーから1時間、南インド料理をビュッフェ形式で食べ放題できるコースです。今日は土曜日……なんてラッキーなんだろう! ビュッフェコーナーにあるのはインド米や不思議な形をしたパンなども含め、全10種類。メニューは毎週変わるようなので、目の前にある料理は今しか食べられないかも知れません。食べ放題と聞いて衝動が抑えられず、おかわりしながら全種類制覇することに決めました。

看板の男性がビュッフェコーナーまで付いてきて、「南インド料理の基本は白ごはんとラッサムとサンバル」と教えてくれました。ライスは細長いインド米。パサパサした感じを想像していましたが、日本人の好みを反映しているのか、意外とほどよくしっとりとしています。ラッサムとサンバルは共に南インドのスープ。ラッサムにはカレーリーフや黒コショウ、サンバルには7種の野菜が使われています。どちらも日本料理にはない辛味と酸味があり、しっとりしたインド米に少し日本っぽさを感じたのも束の間、あっという間に口の中がインドへトリップしました。

 

黒コショウのコンソメ

南インドのカレーは日本でよく食べられているどろっとしたものとは異なり、さらりとしたタイプ。器に入れても良いし、複数のカレーをミックスしても良いのだそう。本日のカレーは、インド南東部・アンドラから名前を取ったアンドラスタイルのチキンカレーと、ナスのマイルドカレー、ドライカレーといわれるじゃがいものスパイシー炒めの3択。独特の辛味のある料理が続いていたので、中でも「マイルドカレー」というネーミングに惹かれましたが、予想を裏切る酸味に驚きました。本場ではこれがマイルドなのかも知れません。

結婚式のための、7つの野菜のスープ

ナスのマイルドカレー

コースには辛味や酸味の効いた料理だけでなく、ちゃんと口直しできるメニューもそろっています。豆のペーストの揚げ物・ワダや、ごまドレッシングをかけたサラダ、クリーム煮のようなデザート・パヤサムなど。どれも日本人の口になじみやすく、きっとこれが日本人に通ずる“マイルド”なのだと思いました。

意外だったのは、インド料理の定番・ナンが置かれていないこと。看板の男性は「インド人はナンばかり食べている訳じゃない。モチモチ食感を好む日本人ウケを狙って、今日の日本で広く知られているふかふかとしたナンが出回るようになったんです。南インドではパロタというパンが日常的に食べられています」と、インドのパン事情についても語ってくれました。ビュッフェコーナーに積み上げられていたパロタは、厚みのあるナンとは違い、ペラペラとしています。蛇がとぐろを巻くように、生地をぐるぐると巻いて作るそう。思わず安心してしまいそうなシンプルな甘味が印象的でした。

スパイスの発汗作用で少し汗ばみ、テンションが上がってきた私はビールもオーダー。炭酸がちょっぴり強めでしたが、辛味のきいた料理のインパクトの方が強く、さらりと飲み干してしまいました。気分は爽快です!気付くと店内はお客さんが増え、店の外には順番待ちをしている人も。看板の男性が町を案内してくれるというので、一緒に店を出ることにしました。

突然やってきた私に次々とインド料理について教えてくれた「看板の男性」。彼の名はジュリアス・スージーさん。日本人だといいますが、本名は不明。とっても謎めいた人です。大のカレー好きが高じてインドへ渡り、その魅力にハマってしまったそう。現在は西葛西に住み、毎週土日は開店時間から「アムダスラビー」にいるほど、この地のインド人たちと深い関係を築いているようです。

西葛西にインド人が多い理由は「2000年問題」に遡ります。コンピューターが誤作動する可能性があるといわれたこの問題をきっかけに、インドのIT技術者が来日するようになり、西葛西のUR賃貸住宅が彼らを受け入れたといいます。今、江戸川区に住んでいるインド人は3225人にのぼるのだとか。

「アムダスラビー」を出てしばらく歩くと、インド人が多くと住むという住宅の前に着きました。一見すると日本人が住んでいる集合住宅と何も変わりはありませんが、それが逆に多くのインド人がこの地に溶け込んで暮らしていることの何よりの証拠のように思えました。毎年10月末~11月頭には、町内でインドの正月にあたるイベント「ディワリ」も盛大に行われているのだとか。

集合住宅の真向かいにある建物の1階に、アムダスラビーの姉妹店の雑貨屋「TMVS Foods」があります。入店すると、レジカウンターにいた店長のマニーカンダムさんが微笑んでくれました。マニーカンダムさんは在日歴1年ですが、店自体は10年以上前にでき、日本人客も多いのだそう。地域にすっかり溶け込んでいるようです。

店内はアムダスラビーと同様、独特のスパイスの香りに包まれています。入口以外の三方には、手を伸ばしてやっと最上部に届くか届かないかくらいの絶妙な高さの陳列棚があり、カラフルなパッケージの商品がびっしりと並んでいます。

「さっきアムダスラビーで食べたインド米もありますし、チャイや混合スパイスもあります。これがインドのごま油。あと豆類は重要ですね! インドではどの家にも豆が8種類くらい置かれているんですよ」

店に入るなりスージーさんが、あちらこちらから商品を手に取り、矢継ぎ早に説明してくれました。この店にはインド人の生活に欠かせない食材が現地から取り寄せられているといいます。

気になるのは、まずスパイスの種類。クミンやターメリックなど有名どころから、名前を聞いたこともないものまで数10種類が並び、棚の中の大部分を占めていました。クミンなどを入れてインドらしくアレンジされたラスクや、スパイスが入ったスナック菓子などもあり、「何はともあれスパイス!」というインドの食生活が浮かんできました。

スージーさんによるとインド人の中には最近健康志向な人も増えていて、栄養ドリンクや栄養素入りの塩などもそろえられているのだとか。あれこれ迷った末、かわいらしい刺繍付きのバッグに入ったインド米と、スパイス入りスナック菓子、レジカウンター横に置かれていた2種類のスイーツを購入。店を出る頃にはすっかり鼻が慣れたのか、いつの間にか店内に満ちるスパイスの香りを意識しなくなっていました。

 

スージーさんと別れ、西葛西の町を改めて見て回ることに。地域の人が出入りするスーパーや洗濯物のはためくマンションなど、人の暮らしの気配や温かみを感じる町です。その中に、アムダスラビー、TMVS FOODSと似た空気感を漂わせるインド料理店や雑貨店が数店ありますが、ぼーっとしていると何も感じずに通り過ぎてしまいそうなほど町になじんでいます。IT関係の仕事に就いている人が多いというこの地のインド人は、土日は家族で買い物や食事を楽しむらしく、インド人ファミリーの姿も多く見かけました。

正直「インド人街」というと、ある道に入った途端に「ここはインド?」と思ってしまうほど世界観が変わることをイメージしていたのです。しかし、実際は日本の生活になじみ、日本人と共生し、ナチュラルに暮らしているインド人の姿がありました。

 

しばらく歩くとまた口寂しくなり、ふらりと立ち寄った公園で、雑貨屋で買ったスイーツを頬張ってみました。すると、ちょっとした予想外の出来事が起こりました。カステラ生地を球状に丸めたような「グラブジャム」をかじると、スポンジ生地からとてつもなく甘いシロップがじゅわっとほとばしりました。

お団子みたいな大人しそうな見た目からは想像しづらいのですが、汁だくのスイーツだったのです。カシューナッツでできたもう1つのスイーツ「カジュ・カトゥリ」も食べましたが、食感も甘さもインパクトもグラブジャムが圧勝でした。カレーは辛いのにスイーツはこんなにも甘いなんて!

公園の水道にしゃがみこみ、シロップがついた手を洗います。その時、自分の髪や服にまとわりついたスパイスの香りに気が付きました。そして、今日出会ったインドの料理や食材の風景、インド人たちの屈託のない笑顔、不思議な案内人の姿が浮かびました。西葛西にはさりげなく、しかし確実にインドが息づいていました。

ところでお腹もいっぱいになったので、今度はどこか見晴らしの良い場所にでも行ってみたい。都会から解放されたいな。私は意気揚々と電車に乗り込み、スパイス香る町を後にしました。

アムダスラビー

東京都江戸川区西葛西5-1-5 サンシティ西葛西B1F
TEL 03-5605-2107
営業時間・定休日 11:00-15:00/17:00-22:00・月

TMVS Foods

東京都江戸川区西葛西5-8-5 小島2丁目団地108
TEL 03-6808-6011
営業時間・定休日 10:00~21:00・無休

リトルインドな西葛西

スパイスマジック カルカッタ 本店

東京都江戸川区西葛西3-13-3

TEL 03-5667-3885

営業時間・定休日 11:00-15:00/17:00-22:00・無休

 

イン ストリート

東京都江戸川区西葛西3-14-3

TEL 03-6240-5158

営業時間・定休日 11:30-14:30/17:30-22:30・無休

 

ムンバイキッチン

東京都江戸川区西葛西6-12-9 エッグス23ビル 1F

TEL 03-3878-4088

営業時間・定休日 11:00-15:00/17:00-23:00・無休

 

デリーダバ

東京都江戸川区西葛西6-12-9 国吉ビル 2F

TEL 03-5878-0553

営業時間・定休日 11:00-15:00(L.O.14:30)/17:00-23:00(L.O.22:30)・無休

ライター

埼玉県生まれ、群馬県育ち、東京都在住の関東人。エジプト、トルコ、ギリシャ界隈の歴史が大好きな世界史系歴女。シャーマニズム、古今東西の墓文化、ハロウィーンなどミステリアスなものにも惹かれる。

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この特集について

旅する東京ライフ

春が目を覚ましています。 桜咲く東京はゆらゆらと陽気さが漂っています。 こんなふわふわ気分で気持ち良い季節は、つい旅をしたくなるものです。 ボストンバックにドキドキを詰めて旅にでよう。 東京出発、東京行き。一泊二日「TOKYO TRIP」のはじまりです。