“東京のパリ”神楽坂へ行くならまずは「アンスティチュ・フランセ東京」へ

歴史ある学び舎が、フランス文化発信の場に

エッフェル塔

日本とはちょっと違うフランス人の気質と文化に惹かれ、気づけば10回以上パリへ訪れていた私。面白いな、と思ったきっかけはフランス人の性格と対応でした。

パリのレストランに入った時、笑顔を見せず淡々とオーダーを取るレストランの店員や、ファストフード店でお店の人に言われたフランス語が聞き取れず、困り顔をしている私に向かって肩をすくめたりため息をつかれたことも。最初はそんな対応に驚き、無愛想で冷たく感じていましたが、じっと観察するうちに冷淡なのではなく真剣で、感情表現が素直なのだと気づきました。

日本人のような愛想笑いや丁寧すぎる接客はフランスには存在しません。しっかり自分の軸があって、好きと嫌いがはっきりしている。真面目だけど適度に手を抜くことも知っている。そんなパリジェンヌたちの姿におしゃれだな、と見惚れてしまうのです。人にも店にも町自体にもそういった本質があり、その中にいると頑張りすぎない素直な自分になれるような気がし、パリに魅了されてしまいました。

アンスティチュ・フランセ東京の看板

おそらく今後もフランスには何度か行くこともあるだろう、と飯田橋にある語学学校「アンスティチュ・フランセ東京」でフランス語を習い始めることに。通い始めて半年が経とうとしていますが、受講生以外が図書室やレストランを利用しているのを見て、この場所が語学学校だけの機関ではない、という事実を知りました。

アンスティチュ・フランセ東京の外観

1952年に開校し、60年の歴史を持つフランス語学校「東京日仏学院」は、2012年に現在の名称に改名。「アンスティチュ・フランセ東京」としてフランス発の文化、思想、学問を発信するフランス政府公認機関として新たに誕生しました。受講している学生だけでなく一般の人も利用できる施設を、広報の有馬さん案内のもと紹介してもらうことにしました。

図書室で読書や映画鑑賞。フランスに浸れる場所

メディアテーク内部

最初に案内してもらったのが、エントランスの階段を上って突き当りにある「メディアテーク」、図書室です。ここでは誰でもフランス語の書籍やフランス映画、フランス音楽を閲覧・視聴することができます。フランス語学習者向けにレベル別に分けられた本棚もありました。日本語で書かれた書籍や雑誌も豊富なので、フランス語が分からなくても楽しめると思います。

私もこの場所はよく利用しています。図書室内の席に座るのは日本人だけでなくフランス人講師の姿も。受付のスタッフさんもフランス人です。フランス語の勉強をしたり、フランス文学を読んだり、フランス映画を見たり…ここにいるみんなが「フランス」に浸っている、そんな雰囲気をとても心地よく感じます。

メディアテーク書棚アップ

天井まで陳列した洋書と、歴史を感じさせる木枠の本棚に設置された木のはしご。古い書物の香りと本棚を照らす陽光に心が凪いでいくのを感じます。この場所に立つだけで、日本にいることを忘れてしまいそう。日本の図書館ではこのような本棚を見かけることがありません。もしかしたら設計者が「よりフランスを感じられるように」とフランス風の本棚を取り入れたのかもしれません。次回フランスに行く機会があれば、大学や町の図書館にも行ってみたいと思います。海外と日本の建物やインテリアの違いを見比べて文化や使い方を想像するのも、私の旅の楽しみの一つです。

遊び心、ではなく住人への配慮が本来の目的「二重螺旋階段」

アンスティチュ・フランセ東京のらせん階段

ところでここ、アンスティチュ・フランセ東京は、建築的にも有名ということをご存じでしょうか。1951年、当時の東京日仏学院を設計したのが坂倉準三氏。彼は有名なフランス人建築士、ル・コルビュジエに師事した門下の建築家でした。その技術を継承した建物ということで現在でも建築を学ぶ人や興味を持つ人の見学が絶えないようです。その建築設計の中で最もユニークなのが「二重螺旋階段」。二つの入り口が同じフロアにありますが、決して交差せず別々の出口へつながるという不思議な構造の階段です。

階段の天井

まるで雪で作られたかまくらのような柔らかな曲線を描く階段の白壁。天窓から差し込む光によってできる影も、滑らかに足元へと落ちていきます。

そもそもこの階段を作った大きな理由は、建物の一部を当時の学長の住居として使用していたため。学校と居住空間を区切るために出口の異なる階段が採用されたそうです。学長さんがここに住んでいたということに驚きつつ、プライベート空間を守るための建築設計に「なるほど~」感心してしまいました。

イタリアのバチカン美術館やレオナルド・ダヴィンチが設計したことで有名なフランスのシャンボール城など、海外でも見られる二重螺旋階段は上る人と下る人が途中でぶつかることがないようにと設計された機能的デザイン。私には設計者の遊び心を感じるユニークなアート作品のように映りました。

アンスティチュ・フランセ東京の教室

建物の1階と2階部分にフランス語レッスンを行う教室があり、中を覗いてみると壁に描かれた奇抜なイラストが目を引きました。こちらは、5年前にフランスの公的機関となった記念として、国内外のフランス人アーティスト達が集まり各教室の壁をデコレーションしたものです。

アンスティチュ・フランセ東京壁に描かれたイラスト

近未来を思わせるような機械的なイラストや、海外から見た日本をモチーフにしたイラストなど、各部屋に統一したテーマはなく本当に「自由なインスピレーションに描いたんだな」とアーティストの好みや主張を感じます。描かれた絵を見て、型にはまらないフランス人気質の一面に触れた気がしました。一部屋一部屋が個性をもった芸術品のようでした。

フランス人のチャーミングな対応に感じる文化の違い

ラ・ブラスリーの店内

私も授業の後に利用する「ラ・ブラスリー」は、施設の中庭にあるフレンチレストラン。土日は予約必須の人気店で、平日のランチタイムには近隣で働く人や学生さんで賑わい、1000円から本格フレンチを味わうことができます。料理の味はもちろんのこと、提供されるバゲットがもっちりしっとりとしていて私の大のお気に入りです。

ラ・ブラスリーの店内2

店内で働くスタッフさんはほとんどがフランス人です。日本語でも対応してくれますが「フランス語ができる方はぜひフランス語で話しかけてみてください。スタッフも喜びます」と、有馬さん。フランス人になったつもりで「Bonjour(ボンジュール)」と入っていくのもよさそうです。

スタッフさんを呼んだ際、たまに見せてくれるウインク(「了解」とか「今行くよ」の意味だと思います)には、毎度ハートを射抜かれる私です。日本の折り目正しい接客サービスとは一味違った、好感の持てるカジュアルなフランス式接客を体感してみるのも面白いのではないでしょうか。

建物、料理、イベント、人…多方面からフランス文化にアプローチ

欧明社の外観

エントランスの外にあるフランス語書籍を専門に扱う「欧明社」ではフランス音楽やラジオが流れ、レベル別のフランス語の本や雑誌などが購入できます。お洒落なポストカードも販売していました。

他にも一般の人が立ち寄れるスポットが数多くあるアンスティチュ・フランセ東京。食や音楽の季節のイベントや、フランスのチーズやワイン、パリの街歩きガイドなどフランス文化を知ることのできる単発講座も定期的に開催しています。今私が気になっているのがコーヒーを飲みながらフランス語会話を楽しむ「会話カフェ」と、「フランスワインのティスティング会」。メディアテークの脇にある映画館でも定期的にフランス映画を上映しているようなので、こまめにチェックしたいと思います。

アンスティチュ・フランセ東京のカウンター

アンスティチュ・フランセ東京に立ち寄るのに、入館パスも学生証の提示も必要ありません。ご自由にどうぞ、というオープンなスタイルで受け入れてくれるので、日本人の「遠慮は美徳」気質を一旦忘れて、自分の好奇心に正直になることをおすすめします。質問があれば、入り口を入って正面にある真っ赤な受付で気軽に質問してみてください。ちなみにこちらの施設に電話を掛けた際、はじめに耳に飛び込んでくるのは、「Bonjour!」というスタッフさんのフランス語での挨拶。びっくりするかもしれませんが、こちらも「Bonjour」と返してみてはいかがでしょうか。だってここは日本ではなく「フランス」なのですから。

施設内を案内してくれた有馬さんは、フランス在住経験者。「ここでの働き方もフランス式。スタッフはみんな年に1、2回は1~2週間のバカンスをしっかりとるし、残業もほとんどしません。しっかり働いて、しっかり休む。自分の余暇の楽しみのために働くというスタイルは日本の働き方とは少し違うかもしれませんね」と話してくれました。

アンスティチュ・フランセ東京の書棚アップ

フレンチビストロやフランスの老舗パン屋のチェーン店など、フランスの味覚を楽しめるお店が点在し「東京の小さなパリ」と呼ばれる神楽坂からも徒歩圏内です。神楽坂界隈のみを探索して、パリ気分に浸ったつもりで帰ってしまってはもったいない。様々な形で「フランス」を発信するこの場所で、思うままにフランス時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

アンスティチュ・フランセ東京内ではフランス人やフランス好きの日本人と出会えます。彼らの日常と距離を近くすることで、様々な角度から日本とは違うフランスを感じることができるはずです。私も授業だけでなく、ここでの楽しみ方を見つけてもっとフランス文化に馴染んでみたいと思いました。

(文/佐藤有香)

アンスティチュ・フランセ東京

東京都新宿区市谷船河原町15
TEL 03-5206-2500

開館時間 月12:00-19:30/火-金9:30-19:30/土9:30-19:00/日9:30-18:00

http://www.institutfrancais.jp/tokyo/

ラ・ブラスリー

東京都新宿区市谷船河原町15

TEL 03-5206-2500

営業時間

ランチ 11:45-15:00(14:30 LO)
ディナー 18:00-22:00(21:00 LO)

定休日 月・祝

http://www.institutfrancais.jp/tokyo/brasserie/

編集・ライター

茨城県生まれ。旅行、スイーツ、下町大好き。きっちり計画立てるより、無計画でのサバイバル感に惹かれます。日焼けしやすく戻りにくい。最近始めたランニングによるくつ下焼けがほんのり自慢。

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