「住みたいんじゃない、離れられないんです」—池袋偏愛主義的深夜探検— 名画座オールナイトからの純喫茶モーニングで池袋に浸る。

「東が西武で西東武」と、言えば…。
haletto編集部の私、百江は、埼玉育ち、練馬区在住。約20年間、「東京≒池袋」で過ごしてきました。

「街を知っている」って、どういうことでしょう。まるで自分の家の間取りのように、あの場所への近道や遅い時間にかけこめる呑み屋、秘密の喫茶店、その時間だけ出会える景色…。脳裏にはいつも、ネガに焼きついた写真が、いくつかの思い出とともに並べられているようなイメージが思い描けます。そういうことが、街を知っている、ってことなのかなと思うのです。

わたしの街は「池袋」です。よくある街ランキングで住みたい街と言われていることは、知っています。電車もたくさん乗り入れていて、お店もたくさん。確かに便利な街です。でも、この街のすごいところは、そんなもんじゃないと思っています。池袋は、約10年遊びまわった今でも、あたらしい顔を見せてくれます。恋人ならきっと、なかなか別れられない。

今回は池袋偏愛編集による、超ハードコース。「そもそも池袋よく知らない・・・」。はい。初心者目線担当として帰国子女、ICU出身の生粋のシティボーイ、鈴木がお供です。濃すぎる池袋をどうぞ。

ディープエリアの名画座で夜通し泣く

18:40。JR池袋駅中央改札に集合。混雑するコンコースを縫って、池袋の雌PARCOから東口へ出ます。この時点で、池袋の名所「いけふくろう」を見逃す2人。あまりにも混みすぎで見えません。待ち合わせに使わなくてよかった。

ヤマダ電機とビックカメラそびえる東口。ここで人が多いビックカメラ方面へ進むのは素人です。北のP’PARCOへ向かい、線路沿いの暗いわき道へ。人が一気に減ります。大人なお店のネオンがちらほら。「池袋っぽいですね」と、鈴木。

最初の目的地は、「新文芸坐」。都内有数の個性ある名画座です。約60年前に開館し、舞台公演などもかけていた「文芸坐」は一度閉館し、同じ場所のパチンコ店の3階に再オープンしたのが2000年のことです。いまも当時の魂を受け継ぎながら、新しい挑戦を続けています。

通常興行は「2本立て」形式。一般1,300円で2本の映画を観ることができます。そう、ここは映画の天国だよ!

もうひとつの特徴が、今回のお目当てである「オールナイト上映」。主に土曜日、夜遅くから上映を開始し、朝方まで3~4本の映画を上映するハードな興行です。繰り返します、ここは、映画の天国!

わたしは学生時代から、新文芸坐のセレクトに魅せられてきました。映画好きなら観ておくべき名画、亡くなった偉人たちの追悼上映、挑戦的なカルト映画・・・。気になる映画が上映されれば、「あ、やっぱりこの映画いいんだ」と自信が持てるほど、わたしにとってここは「映画の先生」のような存在でした。「映画好き」の人はわかると思うのですが、「じゃあ、どんな映画がすき?」ときかれると、困りませんか。わたしが好きなのは、「映画館で映画を観ること」なんです。その大好きな場所のひとつが、新文芸坐なのです。そんな映画の先生、新文芸坐のオールナイト上映を担当するのは、花俟良王(はなまつりょお)さん。

学校を卒業後、編プロなどの経験を経て、旧・文芸坐時代のスタッフの紹介で働き始めました。年間150本もの映画を観ながら、客層を考慮して「これを観てほしい」という想いを大切にしながら興行を組んでいます。

オールナイトはいつも少し変化球。「夜通し映画を観たいお客さんには、正論では響かない」とのこと。今回お邪魔した『ライアン・ゴズリング PART2 今夜、お前とゴズリネッサンス』(命名:花俟さん)は、先月公開された話題作「LA LA LAND」の主演、ライアン・ゴズリングの魅力に迫る豪華4本立てです。「少しメジャーにより過ぎたかなあ」と語る花俟さん。今夜の作品は「きみに読む物語」「ラースと、その彼女」「ラブ・アゲイン」「ドライヴ」・・・百江と鈴木はこのあと、彼のセレクトに見事にノックアウトされるのでした。

21:30。池袋エリアを席巻する名店「ふくしん」で腹ごしらえ。映画館へ戻ります。絶対食べて、と教えていただいたのは館内で売られている最寄のヒマラヤ料理店「サグーン」特製のラップロールとカレーパン。

「映画館なので、音とにおいに配慮した特別メニューです。チャーハンも男性に人気です」とのこと。オールナイト限定のドリングバーといっしょに購入。ああ、おいしい。ああ、あったかい。満腹ですぐ寝てしまうのではないか・・・。不安がよぎります。ちなみに、杞憂でした。

22:00。開幕のチャイムとともに、そっとスクリーン脇に現れた花俟さん。マイクを取り出し、話し始めます。やわらかな口調で、今日のセレクトの理由や、それぞれの映画の見所、俳優さんの豆知識など、映画ファンならではの観点で紹介していきます。「あー。だからこの4本なんだ」。ますます楽しみに。「それではお楽しみください」、と颯爽と去っていく花俟さん。これにて、本日のお仕事終了だそうです。お疲れ様でした。さてさて、本題の上映がはじまります。

チャイム。開く幕。なんとなく静まるシアターの空気。予告なしではじまる映画。3、2、1・・・。

00:15。1本目「きみに読む物語」が終わり、百江も鈴木も号泣でした。愛のある人生!雨!湖の夕日!最高だ・・・!鈴木とはなれて座って、よかった。アイスコーヒーをお替り。からだの水分がなくなるかと思った。

「きみに読む物語」(Yahoo!映画)

02:15。2本目「ラースと、その彼女」終了。異色の設定で変わった作品かと思いきや、いい人しか出てこない感動作。ライアン、こんなかわいい表情もできるのね・・・。しかしさすがに、お尻が痛くなってきた。花俟さんに事前に聞いたおすすめエリアは前方。職業柄、他のお客さんが見えない方が観やすいそうで。最前列なら、足が伸ばせるし、とてもらくちんです。

「ラースと、その彼女」(Yahoo!映画)

04:30。そろそろ日が昇っているよ・・・。3本目「ラブ・アゲイン」終了。よかった。ライアンがかっこよすぎる。出てくる人たちが素直すぎる。家族って、いいね・・・。お父さんって、どんなときもお父さんなんだね・・・。父さん、娘は、池袋で夜を明かしています。すてきな仕事です。アイスコーヒー、3杯目に突入。

「ラブ・アゲイン」(Yahoo!映画)

06:00。ついに、4本目「ドライヴ」が終わりました。疾走感がすごい。エンジン音と音楽が、とにかくでかい。最後にもっとも派手な作品を選ぶとは…寝かせない気ですね花俟さん。最後にダーティなライアンが観られて、ゴズリネッサンスが終了。さすがに、終わりごろ、ちょっと寝ました。しかし、「歌って踊れるイケメン」というわたしのライアン観には、確かに革新がおきました。ありがとう、花俟さん。ロビーには、朝日が差しています。

「ドライヴ」(Yahoo!映画)

さてさて、走りきった。たくさんの人生をみた。満ち足りた気持ち。快い疲労感。池袋からの始発はもう出ています。しかし、ここで終わらないのが本日のコースです。

鈴木はすでに疲れ切っていますが、気にせず西口へ。眠くて、疲れていても、やっぱりおなかは減っているのです。4本も映画観ると、カロリー消費するのかな…。P’PARCOまでもどり、通るのは「WE ROAD」(ウィ・ロード)。「WEST」と「EAST」をつないでいるかららしいです、本当かな…。

人気のない地下道をぬけると、そこは北池袋。

朝日がまぶしい。カラスがいっぱいいる。上を見上げればすぐに目に入るのが、2件目の目的地です。

空間にお金を払うということ。朝の純喫茶でミルクティーが沁みる

7:00。池袋に純喫茶は数あれど、24時間営業を貫くのはここだけかもしれません。「珈琲専門館 伯爵 池袋北口店」。

このお店には、何十回もお世話になりました。お酒の後にコーヒーを呑みたくなる方、注目です。夜中に来店すると深夜限定の洋食メニューが並ぶ個性的な喫茶店。6:00~14:00は、オーソドックスなサンドイッチやトーストのセットが。食器やインテリアの派手な感じ、喫茶店ならではの重厚感です。

深夜担当の主任・檜垣(ひがき)さんは、「繁盛しちゃうから」と、写真は掲載できないのですが、忙しい朝にいろいろな思いを教えてくれました。23時以降も、ぜひお訪ねください。檜垣さん特製のポークジンジャーがおすすめです。

檜垣さん「池袋に数十年住んでいますが、店員さんが変わらないんですよ」

ずっと住んでいるからこそ、たまに入ったお店の店員さんが10年前と同じ、なんてことに気づくんだそうです。「居心地が良いから、離れられないんでしょうね。その気持ちは、すごくわかります」。どんどん再開発されて、どれだけ街の様子が変わっていっても、どこか、ぶれないところがある。

檜垣さん「コーヒーチェーンと喫茶店の違いは、空間にお金を払うということだと思います」

深夜だと、サービス料込みで、コーヒー2人分が1,500円。檜垣さんは続けます。「待ち合わせだけして、ほとんど呑まずに出るお客さまもいる」。この店で待ち合わせるということ、その空間を利用することに、価値を感じる人が多いのでしょう。実際、百江が池袋でコーヒーを呑むなら。名だたるチェーン店がひしめく中で、迷わず選ぶ喫茶店のひとつです。檜垣さんのお話をきいて、それは、40年もの歴史をもつ「伯爵」という存在自体に、価値を感じていたのだとわかりました。その存在は、常連であるわたし自身にとって、唯一無二のものです。

早朝、池袋の町を歩く。

さて、さくさくのトーストと、しっとりのサンドイッチをほおばり、徹夜で胃が疲れていたのでミルクティーを選択。

モーニングセットのミックスサンドイッチ 680円(税込)

 

モーニングセットのトースト 630円(税込)

ポットで出てくる紅茶ともったりしたミルクが、「ドライヴ」の疾走感をやわらげてくれます。日曜も予定満載の鈴木は眠気覚ましのコーヒー。「これ、山手線2周できるな…」とつぶやく鈴木を見送り、なんだかうきうきしながら、自宅へ戻りました。

9:00。就寝。その日起きたのは、夕方でした…。

池袋。近道は知っています。呑み屋さんもたくさん、ご紹介できます。でも、実はこうして、その場所ではたらく方にお話をうかがえたのは初めてでした。朝方の静けさ、ネオンと朝もやの組み合わせ。そこで、大切にしていることを続けている人たち。またひとつ、池袋の表情を知りました。このコース疲れます。疲れるんだけど、あたたかな体験のある選択です。「新文芸坐」「伯爵」、どちらの場所も、昼間でも、終電より早くても、もちろん楽しめます。ぜひ一度、お試しください。お待ちしています。

珈琲専門館 珈琲伯爵池袋北口店

東京都豊島区西池袋1-29-1 ホテルサンシティ池袋2F

JR/東京メトロ池袋駅北口 徒歩2分

TEL 03-3988-4997

営業時間・定休日 24時間営業・日23:00-月8:00定休

3時間ごとに1ドリンク制 ※22:30-翌6:00は深夜サービス料200円/名

新文芸坐

東京都豊島区東池袋1-43-5 マルハン池袋ビル3F

JR/東京メトロ池袋駅東口 徒歩3分
TEL 03-3971-9422

通常興行(2本立て)

チケット  一般:1300円/学生:1200円/友の会:1050円

シニア・障がい者・小学生以下(3歳以上):1050円

ラスト1本:850円(友の会・シニア800円)

オールナイト※全席自由

チケット:一般2300円/友の会・前売:2100円 ※入場は整理番号順

オールナイト公式ページ:http://www.shin-bungeiza.com/allnight.html

編集/ライター

埼玉県生まれ。池袋偏愛の編集担当。名画座、着物、紹興酒が大好き。興味の基本はアート・デザイン・建築。好きな色は、とにかく赤。カラオケは、昭和歌謡が十八番。歩くのが異常に早い。よくいるところは純喫茶。

カテゴリ―新着記事